部落差別は、今 ~TUBAME-JIROのブログ~

当事者の声、マイノリティの視点、差別の現実を踏まえた情報発信をしています。

第7話「違反通報とポジティブ情報の発信」~ネット社会と部落差別⑦~

ネット差別に対して、個人でもやれることがある。

(1)違反通報

 差別投稿を見つけた場合は、できるだけ「違反通報」を行うことも大事である。TwitterYouTubeなどの大手のSNSは、差別や人権侵害に対して「通報」フォームが設けられている。通報が多いほど、担当者の目にもとまりやすくなる。

 2018年春、「ネトウヨ春のBAN祭り」と称し、ネット上のヘイト動画に対して、大量の違反通報が行われた。その結果、多くのヘイトスピーチ動画が削除された。また、ヘイトサイトに掲載されている広告主に通報し、企業が広告配信を停止しはじめる動きも起きている。

  現実社会では、殺人などの犯罪を目撃したら警察に通報する。火事を発見したら消防車を呼ぶ。ネット空間でも同様である。差別的書き込みを目撃したら放置せずに、しっかりと通報し、対応を迫ることが大事である。

差別投稿・デマ情報が放置されることで、どんどん環境が悪化していく。印象操作・デマの拡散が広がっていく。差別投稿は犯罪という意識をもち、通報、除去させていく取り組みを、誰もが当然のこととして、行えるようになることが大事である。

 

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(2)「カウンター投稿」と「デマ」の否定

差別投稿や質問サイトに、積極的にカウンター投稿をしていくことも重要である。ネット上の差別情報を放置することで新たな差別と偏見が拡散されていく。できるだけ多くの個人がカウンター投稿や情報発信することが重要である。

Yahoo! 知恵袋」の部落問題についての質問は同じ内容も多い。回答にそなえて、基本となるしっかりしたテンプレート原稿を作成しておく取り組みなども必要だ。

デマは「本人がデマであると知るまでは真実であり、事実である」ため、デマ情報に対してははっきり否定し、正しい情報を提示する。デマや偏見情報をネット上で無視し続けることは、結果として差別・偏見を助長し続けることになる。デマを否定する投稿が重要である。

そして、ネット上に蔓延する部落問題のネガティブな情報をはるかに凌駕するほど、ポジティブな情報をどんどん発信していくことが求められている。

 

(3)SNSを活用した情報発信、教育・啓発

部落差別を解消するための「教育・啓発」(「部落差別解消推進法」第5条)にとっても、ネット上での情報発信は非常に重要であり、自治体や各種団体、個人などがネット上での情報発信に積極的に取り組む必要がある。

まずは、若者たちや学生、部落問題を知らない人、もっと学びたいと関心を持ってくれた人たちが、部落問題について、学べる総合情報サイトの作成が必須である。

部落史や芸能・文化、音楽、解放運動史、同和行政、同和教育、差別事件、様々な切り口で動画や写真、マンガなどを使って誰もが気軽に学べるサイトが必要である。

「ネットはデマや差別的サイトも多いので、どのサイトならちゃんと学べますか」などの質問を私もよく受けるが、自信を持ってお勧めできるサイトが少ないために、困ってしまう。

すでに、認定NPO法人ニューメディア人権機構のホームページ「ふらっと」などがあるが、ネット上では部落問題のサイト、ポジティブ情報の発信が決定的に不足している。

ネット対策、メディア戦略は部落差別解消にとって非常に重要であり、行政や運動団体・研究機関などが予算と人員を配置し、総力を挙げた取り組みを進める必要がある。

たとえば、ネット版『部落問題・人権辞典』の作成と無料公開、ウィキペディア「部落問題」関連項目への積極的な投稿、部落問題の総合サイト・ニュースサイトの作成、SNSを活用した情報発信などは、すぐにでも取りかかれる。

YouTubeなどを利用して、動画でのCMや啓発動画を募集するなどしてみてはどうだろうか。すでに行政や教育委員会で人権ポスターや人権フォトコンテストなどを実施している。同様に動画サイトでの「部落差別解消推進法」の周知など、ネットを使った様々な取り組みも検討していく必要がある。

 また、教育委員会や人権教育研究協議会などが、部落問題や各人権課題を学ぶ際に「おすすめサイト」のリストなどを作成し、紹介するということも求められている。

 

(4)ネットを活かした反差別・人権運動の展開

    個人においても違反通報やカウンター投稿、ネット上での正しい情報発信などの取り組みを積極的に行っていくことも重要である。2011年に開設された「BURAKUHERITAGE」は、東京や大阪の部落出身者の若者や研究者などの有志が立ち上げたサイトである。個々人の体験や思いを軸に、部落に関わる多様な情報発信をしている。イベントや学習会なども開催し、反差別の緩やかなつながりを広げている。

また、若手の活動家や研究者などの有志が、前述した「ABDARC」を立ち上げ、『全国部落調査・復刻版』裁判の支援サイトを開設し、TwitterFacebookなどのSNSを活用して情報発信し、イベントや学習会を開催している。サイトには、若者たちにわかりやすく裁判情報や部落問題の基礎などを学べるコンテンツが作られている。部落問題や裁判に関するQ&A、お勧めの本、裁判用語や傍聴日記など、ネットを活かした新しいスタイルの部落解放運動が展開されている。

ABDARCは、部落出身の当事者だけでなく、反ヘイトスピーチのカウンターやLGBT、障害者差別、反貧困、反原発、環境問題などに取り組む多様な人たちが集まっているのが特徴だ。私もABDARCのメンバーとして関わっている。

また、私も個人的にSNSなどを通して反差別の情報発信をしている。差別の現実や部落問題についての情報発信をすることで、部落問題について関心を持ってくれたり、裁判を支援してくれる仲間も増えてきた。ネット上での新たな反差別のネットワークが広がっていることを実感している。

ネットが差別を強化している状況がある一方で、差別をなくしていく大きな武器にもなる。差別的書き込みへのカウンターや差別記事投稿者をブロックして集中包囲することもできる。インターネットを基盤にしている差別者に対しては、それなりの闘い方もある。ネットのマイナス面だけでなく、プラス面を活用し、部落差別や人権問題の解決に向けて取り組んでいきたい。

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2017年6月、ABDARCのイベントが上智大学で行われ、学生や多くの人が参加。

最後は、やっぱり人権・同和教育が大事!

最後に、ネット対策はあくまでも「対策」であり、やはり現実社会での人権教育、部落問題学習が大切である。今後、デジタル・メディアリテラシー教育としての人権学習という視点も重要である。

「寝た子を起こすな」論はもう通用しない。「寝た子はネットで起こされる」時代になった。子どもたちや若者がネット上の差別的情報を見たとしても、「だから、どうしたんや!」と言える力、差別や偏見・デマ情報を鵜呑みにしない力をつける必要がある。そのために、ネット対策だけでなく、最低限の部落問題学習をどの学校でも実施する必要がある。

近畿大学の学生を対象にした意識調査では、「部落問題の学習経験がない・覚えていない」が2009年は2割だったが、2015年は4割であった。全国的に同和教育、部落問題学習が後退している。また、関西圏の大学生を対象にした調査においても、「部落出身の知人・友人が、いない・わからない」が85%にのぼる。学生や若者にとって部落や部落出身者は抽象的な「記号」となり、リアリティがなくなっている。

   その意味では、人権・部落問題学習においては歴史だけなく、部落差別の現実や当事者の話を聞くなど「顔の見える部落問題学習」「当事者との出会い学習」などが重要になってくる。

    部落差別解消推進法の第5条には「教育・啓発の充実」が明記されている。学校や地域、職場などあらゆる場において部落差別をなくするための学習機会を保障することによって、今日に厳然する部落差別を撤廃していくことが基本であることを確認しておきたい。

第6話 「企業のネット対策」~ネット社会と部落差別⑥ 

企業のネット差別対策としては、以下の取り組みがあげられる。


①「差別禁止」規定を利用規約

インターネットサービス提供業者は、企業の社会的責任として、差別投稿を放置せず、差別問題の解決に向けて、主体的に取り組む必要がある。そのために、サービス提供時に、利用者との契約約款(利用規約)に「差別投稿の禁止」事項を設け、差別投稿に対する通報窓口を設け、差別投稿の削除をすることが求められる

ヘイトスピーチ対策法」「部落差別解消推進法」(2016年)の施行を受けて、2017年3月プロバイダ・通信関係4団体は「違法・有害情報への対応等に関する契約約款モデル条項の解説」を改訂した。

注目されるのは、「契約約款モデル」第1条の禁止事項「不当な差別を助長する等の行為」という規定に「不当な差別的取扱いを助長・誘発する目的で、特定の地域がいわゆる同和地区であるなどと示す情報をインターネット上に流通させる行為」が該当するとした点である。今後、この「契約約款モデル」に準じて、実際に各事業者の約款を改訂する作業を進めさせていくことが重要となっている。

また、業界団体において部落差別投稿における削除基準(ガイドライン)を策定することで、削除判断が行い易くなる。自社での削除判断に迷う場合は、第3者機関で審議する場を設定するなどの仕組みも検討する必要がある。

くり返すように、急務の課題は、被害者からの削除要請を受けて対応する「事後対応」でなく、ネットサービス配信企業の社会的責任として、差別投稿をさせない「事前対応」である。

すでに日本でも「児童の保護」犯罪等への対策として、Mobage(モバゲー)、mixi(ミクシー)、GUEE(グリー)などの会社は、24時間365日、200~400人の体制で違反書込をチェックしている。システムがNGワードを自動チェックし、グレー判定された投稿がスタッフに通知され、削除される。

MIXI規約違反の悪質書込み、違反常習者は退会処分される。過去に未成年の子どもや女性などが犯罪に巻き込まれる事件があり、企業が提供するサービス(商品)の社会的信用を担保するための必要経費と位置づけ、人件費をかけて対応しているという。

ホームページ、ブログ、掲示板、SNSなどネットサービスは、すべてサーバー内のコンピューターを通過する。したがって、差別語・侮辱語の自動収集チェックのシステムを導入し、発信者に警告を表示することも技術的には可能であるが、「不適切ワード」を自動的にチェックするのみの対応は、かつてメディアが行った「禁句マニュアル」と変わらない。

差別語をいっさい使わずに差別することは可能であり、ヘイトスピーチを行うことも可能である。また逆に、差別問題をどうなくしていくかを議論するサイト上で交わされる言葉も「不適切ワード」に引っかかる場合もあり得る。

つまり、言葉のみをピックアップして削除するだけでは解決にはならず、悩ましい問題が残る。だからこそ、先にあげてようにネット上の部落差別についての削除基準が重要となる。

②差別サイトへの広告配信の停止(経済制裁

民間企業でも、差別サイトに広告配信をしない、広告撤退をする動きが出始めている。悪質な差別サイトほど閲覧数が多く、広告収入で儲けようとするサイト運営者の活動資金となっている。だからこそ、差別サイトからの広告撤退は、ネット差別に対する有効な取り組みとなっている。

ヘイトスピーチなどの温床となってきた「保守速報」という有名な「まとめサイト」がある。在日朝鮮人の李信恵さんが同サイト管理人を訴えた裁判で2018年6月、大阪高裁は同サイト管理人に200万円の支払いを命じた地裁判決を支持した。

判決では、李さんへの民族差別や誹謗中傷が「人種差別及び女性差別にあたる」として、ヘイトスピーチ女性差別の複合差別であることを認めた。

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同サイトへの広告を掲載するエプソンに対して、市民がその事実を通報した。エプソンは自社の広告が掲載されている事実を知らなかった。翌日、エプソンは「保守速報」への広告配信を停止した。その後、次々と「保守速報」へ広告配信していた企業が撤退し、最終的に全ての企業が広告配信を停止した。

その結果、同サイトは収入源を絶たれ、サイト運営が厳しい状況に追い込まれていた。(BUZZ FEED NEWS「嫌韓サイト」はなぜ黙認されていたのか?「保守速報」から広告会社が自主的に撤退 2018/06/23)

この件から浮かび上がったのは、広告配信業者も「差別禁止」規定があることは知っているが、膨大な配信先のサイトをすべてチェックしきれていないという実態だ。ネット広告に掲載する企業、それを取り次ぐ広告配信企業などに、ヘイトサイトや部落差別を助長するサイトへの広告配信の停止を申し入れることは、差別サイトの運営に大きな影響を与えることが出来る。

鳥取ループ・示現舎も、『全国部落調査・復刻版』出版事件が国会で取り上げられたさい、「社会的な話題となるほど、自分たちのサイトの閲覧数が増え、広告収入で儲かる」とTwitter上で公言していた。

ネット上の広告配信の際に、「差別サイトには掲載しない」という条件を企業がつけることで、差別サイトへの収入源を絶つことができる。この取り組みは、ネット上の差別問題の解決に向けて大きな役割を果たすことになる。

③ネット上の『部落地名総鑑』の回収・規制

鳥取ループ・示現舎との裁判が決着しても、すでにネット上に大量に拡散されたネット版『部落地名総鑑』をすべて回収するのは困難である。しかし、検索サイトでフィルタリングをかけて表示できなくすることや、検索上位に表示させない対応は技術的には可能である。

すでにYahoo!では、有害サイトフィルタリングサービスを無料で配信しており、「自殺サイト」「学校裏サイト」「アダルトサイト」「暴力」「出会い系」などの「違法・有害情報」を専門スタッフが最新情報を収集・管理し、フィルタリングをかけて表示できないようにしている。

この数年、日本国内だけでなく、世界各国で「ナチスによるホロコースト(ユダヤ人虐殺)はなかった」という差別的デマの投稿が勢いをましている。Google社は検索エンジンで、ユダヤ人虐殺の「ホロコースト」の歴史的事実を否定するサイトなど「信頼できない情報」は、検索上位にならないよう、検索エンジンの表示方針を見直している。

Facebook社は2016年12月末からフェイクニュース拡散防止対策として、ニュースが「虚偽かもしれない」場合、報告できる仕組みを導入した。報告を受けた記事は、報道機関などが入る第三者機関のチェックを受け、虚偽とされた記事には警告や、なぜその記事が「フェイク」なのかの理由まで表示するようにしている。

次にSNS対策に乗り出したドイツの取り組みを紹介したい。

ドイツのネット対策の取り組み

ドイツでは2018年1月1日より、「ネットワーク貫徹法(SNS対策法)」(ソーシャルメディアにおける法執行を改善するための法律)が施行された(2017年9月成立)。ヘイトスピーチフェイクニュース、違法コンテンツの速やかな削除をソーシャルメディアに義務づけた。

ドイツではヘイトスピーチは刑法の「民衆扇動罪」に当たり、違法である。また、ホロコースト否定やナチス称賛などの投稿は、違法とされている。新法では、「明らかに違法な」投稿を24時間以内に削除しないサイトは、最大5000万ユーロ(約68億


円)の罰金が科せられる(ただし違法かの判断に時間を有する場合は1週間の猶予あり)。規制の対象は利用者200万人超えのSNSとメディア企業で、主にFacebookYouTubeTwitterなどが対象である。

SNS対策法」ではSNS事業者に、違法内容「削除義務」「苦情対応手続(違法通報窓口)整備義務」「苦情対応状況の報告義務」を課し、これらの義務に違反した場合の過料が定められた。

SNS対策法がドイツで成立した背景には、ドイツ国内で2015年以降増加し、100万人以上を受け入れた難民の存在がある。難民の犯罪が増えたなどの排斥運動、ネット上でのヘイトクライムが2年間で3倍に増加し、何千、何万人のヘイトデモが各地で起きつづけているからである。法案成立に批判もあったが、マース法務相は「表現の自由は刑法に抵触するものまで認められているわけではない」と述べている。 

これらの取り組みは、EUでも進みはじめており、今後、ネット対策の先駆的な取り組みとして、注視していく必要がある。 

 

★参考文献

津田大介『情報戦争を生き抜く 武器としてのメディアリテラシー』(朝日新書、2018.11)

 

第5話 行政がモニタリング(削除要請)を開始!~ネット社会と部落差別⑤~

(1) 行政の取り組み

①モニタリング(削除対応)実施と当面の課題

行政はネット上の部落差別の実態把握につとめ、差別投稿の削除に取り組む必要がある。すでに、三重県兵庫県鳥取県滋賀県(人権センター)、香川県香川県人権啓発推進会議)、奈良県全市町村(「啓発連協」)、広島県福山市兵庫県尼崎市伊丹市姫路市三田市、埼玉県内、大分県内や鳥取県内、山口県内の自治体では人権担当課や民間団体等の協力を得てモニタリング(ネットパトロール)が実施されている。

今後、全国の自治体でモニタリングが実施されるように取り組むと同時に、各地のモニタリング結果を集約し、ネット上の部落差別の実態把握を行う仕組みが必要である。

県や市町村が実施するモニタリングは、当該自治体の情報を中心にチェックするため、他の自治体に関連する投稿の場合、削除要請等に動いていないケースも多い。

また、掲示版や差別サイトには、地元以外の差別投稿も発見するし、県や市町村をまたいで投稿されているものある。そのため、都道府県レベル、全国レベルでの実態を集約する必要性がある。

今後は「モニタリング団体連絡協議会(仮)」などを立ち上げ、各地のモニタリング結果の情報を集約する仕組みをつくり、ネット上の部落差別やヘイトスピーチ等の実態把握と課題整理、ネット人権侵害、部落差別の解決に向けて効果的に取り組んでいく必要がある。

すでに、(一社)部落解放・人権研究所の第6研究部門では2017年度より「ネットと部落差別研究会」を立ち上げ、ネット上の部落差別の実態把握と対策に向けた研究が行われている。

2018年7月には「第1回モニタリング団体ネットワーク会議」が行われ、モニタリング団体のネットワーク化、情報交換の学習会が実施されている。

2018年12月には「ネットと部落差別研究集会」を開催し、モニタリングの普及=ネット上の部落差別の実態把握(立法事実の収集)と対策に向けて動き始めている。

 

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2018年12月15日、「ネットと部落差別」研究集会(大阪市内)。写真右から荻上チキ(評論家)、谷口真由美(大阪国際大学准教授)、津田大介(ジャーナリスト)、川口泰司(山口県人権啓発センター)

 

②削除基準・ガイドラインの作成

差別投稿などの削除要請をより効果的に実施するためにも、国や地方自治体レベルで、どのような内容の投稿において削除要請を行うのかなどの基本方針(ガイドライン・削除基準)の作成が急務である。

ヘイトスピーチ解消法」施行(2016年6月)を受けて、法務省は「ヘイトスピーチ対策プロジェクトチーム」を立ち上げ、「何がヘイトヘイトスピーチにあたるのか」の一定の基準を整理し、「参考情報」として希望する自治体に公表してきた。


部落問題においても同様に「どのような行為を部落差別とするのか」の基準設定を進める必要がある。国が削除基準を設けることで、モニタリング団体や市民の削除要請やプロバイダ等の削除対応が行いやすくなる。

2004年から三重県のモニタリング事業の委託を受けて、削除要請に取り組んできた(公財)反差別・人権研究所みえの松村元樹事務局長は、ネット上の部落差別についての削除基準をつぎのように示している。

(1)同和地区の所在地を公開する・問い合わせる・教示する投稿(差別を助長・扇動・誘発することを目的もしくは結果として差別を招来する可能性があるかたちで)

(2)同和地区への土地差別や同和地区関連の物件忌避につながる投稿

(3)同和地区出身者の身元調査につながる投稿

(4)同和地区出身者を本人同意なくアウティング(暴露)する投稿。

(5)同和地区出身者との結婚差別・交際時における差別に関する投稿

(6)同和地区や同和地区出身者への差別意識や偏見を助長・扇動する投稿

(7)同和地区や同和地区出身者への誹謗中傷や攻撃的な投稿など

※松村元樹「ネット対策の現状と課題」(『ネット上の部落差別と今後の課題』、2018年)より

上記(1)~(7)の削除対象の基準は、長年にわたる部落解放運動、同和行政の取り組みの結果、現在では部落差別事象として判断し、対応しているものである。法務省地方自治体、業界団体では上記のような基準(ガイドライン)の作成に、今後、取り組んでいく必要がある。

現実社会では賤称語を使用した差別落書きや差別発言、同和地区を調べる土地差別、身元調査、差別問い合せなどは、行政も部落差別事案として対応してきた。

ネットからリアルに波及して差別事件が次々と起こる中、ネット空間も公共圏と見なされるべきであり、公の言論社会なのである。現実社会においてアウトな差別的言辞は、ネット上でもアウトであり、許さない、放置しないという対応が当然求められている。

総務省がブロバイダ業界団体へ要請

2017年1月、総務省は国内のプロバイダー大手4団体に対して、部落差別解消推進法、ヘイトスピーチ解消法に踏まえた差別投稿への対策を要請した。

2017年3月、業界団体は「契約約款モデル」で「差別を誘発・助長する目的での同和地区情報の掲載」と「ヘイトスピーチ」を差別禁止規定に該当するとの解説改訂をおこなった。

法務省が同和地区情報の対応を強化(2018年12月通達)

2018年12月、法務省は地方法務局にネット上にある同和地区(被差別部落)に関する情報の対応強化(削除要請)の通達を出した。

法務局は、従来は特定の人物を対象としていたり、差別の助長・誘発が目的だったりする場合に限ってプロバイダーなどに削除要請をしていたが、目的に関係なく、特定地域を同和地区であると明示していれば原則として削除を要請するとした。(学術研究等は除く)強制力はないものの、これまでの運用に比べ、踏み込んだ対応となる。

 ④ネット被害者は自力救済

しかしながら、ネット空間のほとんどの差別的書き込みが放置されている現況は否めない。

ネット上で人権侵害を受けて法務省・地方法務局に相談しても、現状では基本的に被害者本人がプロバイダ等へ削除依頼を行わなければならない。

自分で被害を回復することが困難な事情がある場合や削除されない場合に、初めて法務局がプロバイダ等へ削除「要請」を実施することになる。

2017年に法務省・地方法務局がネット上の人権侵犯事件として処理したのは2217件で過去最高であった。

しかし、法務省がプロバイダ等へ削除「要請」をしたのは25.6%(568件)である。大半は被害者に「プロバイダ責任制限法」にもとづく削除要請の方法等を教える「援助」という対応である。*1

個人で削除依頼をしても、なかなか削除してもらえない。

海外サーバーを経由している場合、サーバーが置かれている国の言語と法律で依頼する必要があり、削除対応はもっと困難になる。苦労の末、仮にその投稿を削除させることが出来たとしても、再び書き込むことが容易であり、同じことが繰り返される。

たとえ、書き込んだ相手の特定ができて、名誉毀損などで民事訴訟を起こしても、損害賠償の金額以上に裁判費用がかかり、経済的にも精神的にも負担が大きい。

また、裁判中には個人攻撃なども増え、被害がより悪化する恐れがある。現状ではネット被害者は圧倒的に不利な状況である。*2

⑤相談体制の充実

こうした状況にあって、行政や地方自治体などが、ネット上の人権侵害の被害者に対する相談窓口を設置し、相談体制の充実に取り組むことが求められている。

現在、総務省の外郭団体として「違法・有害情報相談センター」、法務省には「インターネット人権相談受付窓口」があり、インターネットで相談を受け付けている。

しかし、年々増加するネット人権侵害の相談に対して、相談員の数や体制などが圧倒的に追いついていない状況がある。

「部落差別解消推進法」では国・地方自治体に対して「相談体制の充実」(第四条)が求められている。

まずは、ネット上の人権侵害に対する相談窓口を設置し、市民へ周知する事が急務である。そして、被害者の権利回復の支援が出来る相談員のスキルアップ、関係機関との連携・充実などに取り組む必要がある。

⑥「プロバイダ責任制限法」と同ガイドラインの改正

被害者救済の課題としては、法制度の問題がある。「プロバイダ責任制限法」(2002年)施行により、被害者から要請があった場合、プロバイダは「発信者情報の開示」と「削除」が可能となった。

しかし、「発信者情報の開示」は、損害賠償請求などで訴訟する場合のみの対応であり、ネット上での被害、人権侵害を被っていても訴訟をしなければ開示されない。

プロバイダによる「削除」も、実際には裁判所からの仮処分決定などの明確な違法性が証明できない限り、現状では訴訟リスクを怖れ、プロバイダは容易に削除しない。

実行性を高めるためには法改正をおこない、「発信者情報の開示請求」の条件緩和、差別投稿を削除してもプロバイダに賠償責任が生じないという「免責」事項を設ける必要がある。

そもそも、被害が起きた後の「発信情報の開示」「削除」という「事後」対応でなく、差別投稿をさせない「事前」対応が重要である。

たとえば現実社会では、駐車場でも公園でも、場を提供している側には「安全管理義務」がある。提供している場で違法行為や危険行為が行われると、利用者が被害を受ける危険があり、損害賠償責任が生じる恐れがあるからだ。

SNSなどの「場」のサービス提供事業者にも「安全管理義務」が当然求められるが、ネット上ではほとんどの差別的書き込み・差別デマが放置されている。つまり、差別が許されているのだ。

現状ではネット上でのサービス提供事業者には、ネットの書き込みを常時監視する義務はない。「プロバイダ責任制限法 名誉毀損・プライバシー関係ガイドライン」(第3版2011年、補訂2014年)には、「常時監視義務がない」とされている。今後、同ガイドイランの改正を行い、具体的な対策を行うことが求められている。 

 

*1:法務省「平成29年における「人権侵犯事件」の状況について(概要)」(2018年3月20日、報道発表資料

*2:佐藤佳弘「ネット人権侵害の現状と被害者救済の課題」『ネット上の部落差別と今後の課題』(2018年、部落解放・人権研究所編)

第4話「部落地名総鑑」公開、「晒し差別」の被害~ネット社会と部落差別④~


(1)
地域や職場では

部落差別の克服に向けて、行政や教育現場、企業や宗教界などが長年にわたって積み上げてきた取り組みを、インターネットの便利な機能を悪用した鳥取ループ・示現舎は、一瞬で破壊してしまった。

鳥取ループ・示現舎は、「部落地名総鑑を公開しても深刻な差別なんか起きない」と主張している。

しかし、すでにネット上では「どこが部落か」「部落出身者かどうか」を調べるためにウエブ版『復刻 全国部落調査』や『同和地区wiki』が参照され、結婚相手の身元調査や不動産取引における土地差別調査(同和地区か否かの調査)、行政等への同和地区問い合わせ事件も起きている。

鳥取県内の町役場では、ネット版『復刻 全国部落調査』を見た人物から同和地区かどうかの問い合わせ電話がかかってきている。

電話の主は、自分の娘の結婚相手がその町の出身で、「ネットで調べたら同和地区一覧に出ている地名なので、本当にこの地区は同和地区かどうか教えて欲しい」と問い合わせてきた。

【具体例】「YahOO!知恵袋」より(BA=ベストアンサー)

質問者A「大阪市○○(地名)は被差別部落の地域なのでしょうか?」(2017/5/17)

BA→「同和地区.COM(リンク先アドレス)……詳しくはそちらに照らし合わせてご判断下さい」

 

質問タイトル「同和地区について」(2017/12/26)

質問者B「たまたま嫁ぎ先の姓をネットで検索していたら〇〇県同和地区WIKIというWikipediaに、夫の実家と姓が同和地区であると書かれていました。……夫の実家がほんとに同和地区であるか調べる方法はありますか?」

 

質問タイトル「部落地名総鑑(ネット版)の正確度/信葱性に関して」(2017/8/4)

質問「私の出身地を上司に伝えたところ、数日後に『被差別部落だね。ご愁傷様』と言われ驚愕しました。何故そう思うか確認したところ『インターネット版の部落地名総鑑や同和地区wikiに載っていたから』とのこと……。」 

 

 滋賀県内のシルバー人材センターでは2017年3月、男性が喫茶コーナーに県内の同和地区一覧リストを置いて、自由に持ち帰れるよう配布していた。

配布資料には「同和地区WIKI」の情報が利用され、滋賀県内の同和地区の住所一覧(市町村別、地区名、戸数、人口)などが書かれていた。また、配布用資料には、県内の同和地区情報だけなく、同和地区出身者や在日コリアンの有名人など100名以上の個人名がリスト化されていた。 

(2)学校現場への影響

ネット上には鳥取ループ・示現舎が拡散した『同和地区wiki』のコピーサイト、類似サイトが多数存在している。これらのサイトは、「部落」「同和」で検索をするとアクセス数が多いために、検索画面の上位に表示される。

スマホを持つ子どもたちが、ネットで部落問題について知ろうとすれば、差別的情報を真っ先に閲覧することになる。

ある中学校では、子どもたちが興味本位で地元の部落を調べ、学校で部落出身者暴きをしていた事件も起きるなど、すでに教育現場では、ネット版「部落地名総鑑」を利用した問題も各地で起きている。

関西のある大学では、学生がネット上の「部落地名総鑑」「部落人名総鑑」を利用して、自分や友人、恋人などが部落出身でないかを調べ、差別的なレポートを提出していた。他の大学でも同様のケースが報告されている。

(3) 解放同盟や個人への差別投書や攻撃

 2016年2月、福岡県では解放同盟筑後地区協議会に差別ハガキが送られてきた。文面には「インターネット版部落地名総鑑を閲覧しておりましたら、久留米市〇〇町〇〇の地名が掲載されていませんでした。これは不当な差別だと存じます」と書かれた上で、その地区名を追加するように求める内容であった。

東京都では2017年7月、解放同盟荒川支部・墨田支部「エタ ヒニン ヨツの情報保持者様」などと書かれた差別投書やハガキが連続して送られる事件が起きている。手紙には鳥取ループのサイトには不正確な箇所がある」と書かれていた。投書の主は、鳥取ループのネット版『部落地名総鑑』を見て、「部落の正確な所在地をMに知らせて掲載させ、公開させろ」と主張していたのである。

刃物入りの差別投書が個人宅へ

2017年3月から5月にかけて、解放同盟事務所や個人の自宅などへ差別文書と共に、ナイフやアイスピックを送りつける差別事件が連続9件発生している。解放同盟三重県連や大阪府連、中央本部大阪事務所、組坂中央執行委員長の自宅などに送られてきた。

組坂委員長の自宅に届いた差別投書は、開封時に手が切れるようにカッターの刃が2枚、封筒の裏側にテープでとめられており、組坂委員長は手を負傷した。 

  

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組坂委員長の自宅に届いた差別投書。開封時に負傷するようにカッターの刃がテープで留められて負傷した。

4) 裁判支援者に対する嫌がらせや誹謗中傷、個人攻撃

この間、裁判の支援者や個人、鳥取ループ・示現社を批判する個人や団体などがターゲットにされ、匿名の何者かによってその個人情報が次々とネット上に晒され、個人攻撃が行われ、二次被害も生じている。

2017年に「全国部落調査・復刻版事件」の裁判を応援しようと、若手の研究者や個人などが「ABDARC(アブダーク)」(Anti-Buraku Discrimination Action Resource Center)という裁判支援サイトを立ち上げ、イベントが行われた。

すぐに「ABDARC関係者人物一覧」というサイトが作られ、イベントでのパネラーや支援者、スタッフの個人情報が掲載され、デマや歪曲記事、誹謗中傷や嫌がらせの記事が掲載された。なかには、自宅住所や電話番号、顔写真まで掲載されている仲間もいる。

ネット上での名誉毀損に関する民事裁判では、裁判期間中にさらなる二次被害が生じる危険性もある。裁判では提訴した時点での被害について争われ、裁判中に生じたその他の権利侵害については、損害賠償の対象にならない。

現状では、ネット人権侵害の被害者が、裁判を起こし勝訴しても損害賠償額も少なく、裁判における二次被害が大きいため、民事訴訟を起こす人は少ない。だからこそ、国による人権侵害救済機関の設置が求められている。

 

(5) 自宅に非通知電話、差別ハガキが

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正月に川口宅に届いた差別ハガキ

私自身も『全国部落調査』復刻版出版事件について講演やイベントなどでも鳥取ループらの行為を批判していた。すぐに鳥取ループからもブログやツイッターなどで名指しで記事が書かれるようになっていた。2016年の秋頃から、私の自宅に非通知の無言電話が掛かってくるようになっていた。

2017年の正月、私の自宅に差別ハガキ(年賀状)が送られてきた。表には、私の自宅住所と名前が書かれ、差出人は不明。年賀状であるために消印はなかった。裏面に手書きで「エタ死ね」と書かれていた。

小学5年生になる子どもが第一発見者だった。それが何より辛く、胸が締めつけられる思いをした。子どもが不安げな顔をして、差別ハガキを私に見せた。その文字を見た瞬間、私は頭が真っ白になり、心臓を刃物でえぐられる痛みがした。

「パパ、死ねって書かれているけど、大丈夫なん?殺されない?」

と心配する子どもに対して、

「大丈夫だからね」と答えるのが精一杯だった。

そして、「エタって、どういう事なん?」と聞かれた。

差別ハガキを手にした娘を前に、エタの意味を説明するのは、本当にしんどかった。

どこで自宅住所が分かったのか? 私の名前をネットで検索すると、いくつかサイトに自宅住所と電話番号が掲載されていた。その情報を元に、何者かが差別ハガキを送りつけた可能性があった。

すぐに、サイトにあげられている自宅住所の削除を求め、法務局に相談に行った。差別ハガキに利用されたネット上の個人情報、類似犯による二次被害の防止を法務局に訴えた。

その後、多くの人たちがサイトに削除要請・違反通報をした結果、削除された。しかし、一度ネット上に掲載された情報を完全に消去することは難しく、現在は別のサイトに掲載されている状況が続いている。

 

★川口泰司「ネット社会と部落差別の現実」(『部落解放研究209号』、2018年11月)より

第2話「フェイクと差別意識の増幅」~ネット社会と部落差別②~

(1) 検索上位に差別情報が

今、ネットで「部落差別」「同和問題」と検索ワードを入れると、検索上位を占めているのは、差別的情報(投稿・動画等)である。ネット上では正しい情報が常に検索上位にくるとは限らない。差別的サイトでもアクセス数が多いほど検索上位に表示されるからだ。*1

部落問題についてネットで検索すると、デマや偏見などの悪質な投稿・情報が検索上位に掲載されている。トップページにある差別的情報を読んで、部落問題を「わかった」つもりになると、見事にデマ・偏見をとりこんでいく危険性がある。

ある中学校では、人権教育の授業のなかで、ネット検索した情報を元に生徒から「同和地区には怖い人たちが多く住んでいる」「暴力団山口組の7~8割は部落出身者」との発表があり、教師が発言の内容を確認すると「ウィキペディアに書いてあった」と言われ、慌ててデマ情報であると指摘したケースも報告されている。 

ベストアンサーの7割が偏見・差別情報 

Yahoo! 知恵袋」という有名な質問サイトがある。2013年、(公財)「反差別・人権研究所みえ」が質問上位1000件(「同和」検索)を分析した。それによると、3分の1が「偏見に基づく差別的な質問」333件(33%)、次の3分の1が「知識を問う質問」313件(31%)、残りの3分の1が、身元調査(70件)や結婚差別(25件)、土地差別(25件)などの深刻な相談であった。

これらの質問・相談に対し、多くの人が回答している。しかし、質問者自身が部落問題について「無知・無理解」であるため、何が正しい回答なのか判断できない。

その結果、「ベストアンサー」とされた回答の約7割が「部落は怖い」などの差別的回答が採用されていた。「Yahoo! 知恵袋」には深刻な結婚差別の相談もあったが、「(部落出身者との結婚は)やめておいた方がいい」などのアドバイスが多く、結婚を断念したケースもある。

問題は「Yahoo! 知恵袋」だけではない。他の質問サイトや掲示板等でも、「どこが部落か?」「結婚相手が部落出身かを調べるには?」などの質問に、ネット版「部落地名総鑑」(同和地区wikiミラーサイト等)が紹介され、結婚相手の身元調査や上地差別調査などに利用されている事例が多く見られる。

 (2) 動画サイトによる偏見・差別意識の増幅

 YouTubeなどの動画サイトでも、「同和」や「部落」で検索すると、差別意識を助長するだけでなく、部落差別を扇動する動画であふれている。実際に同和地区へ行き、地区内の住宅や道路などを撮影してBGMを入れ、差別的に編集した動画が何十万回と再生されている。閲覧再生数の上位は差別動画で埋め尽くされている。アクセス数が高いために、同和問題に関心を持った人が、そのような差別的サイトを上から順に見ていき、差別意識と偏見が増幅させられていく。

文字情報より動画のほうが差別意識を増幅させる影響が強く、視聴後、強烈なマイナスイメージが残る。学校や社会教育、行政や企業等で発信している部落問題についての知識や反差別情報をはるかに凌駕する量で差別情報が拡散され、再生産され続けている。しかも、一度、差別的動画をクリックすると、「あなたにおすすめ」として、同様の動画が次々に表示されて流れていく。

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「森友問題は同和利権」というフェイク動画

2018年4月上旬のYouTubeの「同和」検索の再生回数上位は、「森友問題は同和利権」というタイトルのデマ動画である。「森友学園の『本件の特殊性』とは同和地区のこと。バックに解放同盟がいる。だから8億円の値引きが行われた」と、何の根拠もない嘘偽のデマ動画が、再生回数の上位を占めていた。

この「森友問題は同和利権」という動画は、東京都の区議会議員が投稿したもので、何本もアップされており、極めて悪質である。再生回数は合計50万回以上である。

「部落差別解消推進法」が施行され、その具体化に向けて真っ先に取り組まなければならない区議会議員が、部落差別を助長・誘発するデマ動画(フェイクニュース)を何本も作成し、公然と流し続けている。再生回数が多ければ多いほど、アフリエイト・広告収入が投稿者に入るため、議員という立場にある者が差別をビジネスにしていた事実も明らかとなった。 

(3)当事者の閲覧ダメージ(二次被害
差別投稿が放置され、それを当事者が閲覧したときに受けるダメージは、計り知れない。自分のルーツや肯定的アイデンティティが否定され、社会への不安と緊張が強いられる「二次被害」を受け続けることになる。「自分の出自が明らかになれば、攻撃対象になるかもしれない」という不安や恐怖を強いられ、社会と人間に対する信頼が壊されるという現実もしっかりと押さえておく必要がある。

2011年1月「在特会」の副会長K(当時)が、奈良県御所市の水平社博物館前で部落差別及び在日朝鮮人に対するヘイトスピーチを1時間近く行った。部落差別の賤称語をもちいて「卑しい連中、文句あったらいつでも来い」と叫び続けたKの差別街宣動画がYouTubeにアップされ、動画サイトで流され続けた。f:id:TUBAME-JIRO:20190413004858j:plain

水平社博物館は、Kに対し名誉毀損民事訴訟を起こし、2012年7月に勝訴した。しかし、KがアップしたYouTube動画は、裁判が終わるまでの1年半、流され続けた。

人権教育や社会科の授業で子どもたちが水平社の学習をする、あるいは水平社博物館に就学旅行や研修で訪問する子どもたちが事前学習としてネットで「水平社」と検索すると、トップにこの動画が表示され閲覧する状況が続いた。

私も何人もの学校の先生から、「あの動画を何とかしてほしい。生徒たちが最初に見てしまう。特に、部落の子どもたちや保護者があの動画を見て、ショックを受けている」と相談を受けた。

私自身、この数年、差別的サイトのモニタリングを行い、差別投稿や動画などを見てきた。当初は気づかなかったが、精神的なダメージが蓄積され続けていた。とくに動画や画像は、何日たっても、時々フラッシュバックする。

匿名掲示版やコメント欄への差別投稿、差別動画が何十万回も閲覧され、それに対して、何千人もの人が「いいね!」と評価している。ネット上の差別が放置されることは、社会に存在する部落差別を助長するだけでなく、当事者に対する二次的差別(被害)を与え続ける。

それだけではない。部落出身者に向けられた差別投稿が「無視」「放置」され続けている現実は、当事者にとっては「誰もおかしいと指摘しない」=「みんな同じように思っているかもしれない」と感じさせてしまう。自らのルーツやアイデンティティを否定され、社会からの疎外感、孤立感、無力感を持たされてしまう心理的な被害についても注意しておかなければならない。

 

★川口泰司「ネット社会と部落差別の現実」(『部落解放研究209号』、2018年11月)より

*1:※2018年春頃から市民や行政によるモニタリングと通報によって、GoogleYahoo!YouTubeなどが差別問題へのSEO対策等の取り組みが強化され、少しずつであるが改善の傾向が見られる

第3話「バラまかれた『部落地名総鑑』」~ネット社会と部落差別③~

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(1)確信犯の鳥取ループ・示現舎

ネット上に同和地区の所在地情報を意図的に掲載し、拡散し続けてきた鳥取ループ・示現舎の宮部龍彦という人物がいる。「鳥取ループ」とはブログ名(管理人・宮部)であり、「示現舎」とは宮部が共同代表をつとめる出版社(社員2名)である。

2005年、ブログ「鳥取ループ」を開設した宮部は、「同和問題のタブーをおちょくる」として、行政に同和地区の所在地情報を開示請求し、得たい情報が非開示となると裁判を起こし、同時にネットで公開をくり返してきた。

示現舎のブログでは「部落探訪」として、全国の部落を回り、住宅や個人宅の表札・車のナンバー、商店、墓碑などを写真や動画で撮影し、住所とともにネット公開し続けている。

さらに、子どもたちや青年の顔が映っている動画投稿を二次利用してYouTubeに掲載し、保護者や地元関係者が削除要請をしても拒否し、ネット上で公開し続けている。

宮部はITの技術者であり、様々なネットの機能を使い、部落を暴き・晒し続けてきた。現在、全国5300カ所の同和地区の所在地(地域名、住所、戸数、人口、職業等)がネット上に公開されている。Googleマップを悪用し、全国の同和地区がマッピングされ、地図まで作成された。

滋賀県では、解放同盟の支部員800人以上の住所・氏名・年齢・生年月日等の個人情報がネット公開され、Googleマップを利用し、自宅がマッピングされて、ネット上に晒されていた。

(3)『全国部落調査』復刻版の出版計画

2015年冬、鳥取ループ(宮部)が東京都内の大学図書館で『全国部落調査』を発見し、その情報をネット公開した。『全国部落調査』とは、1935年に政府の外郭団体である中央融和事業協会が全国の部落の実態調査をおこなった報告書である。

1935年当時の5300カ所の部落の地名や人口、戸数、職業、生活程度などが記されており、表紙には「㊙」と書かれている。戦後、この報告書が探偵社・興信所に悪用されて「部落地名総鑑」が作成され、販売されたと言われている。

1975年に発覚した「部落地名総鑑」差別事件では、法務省が10年かけて企業などから663冊を回収した。現在までに10種類が確認されており、企業や調査会社などが就職や結婚の際の身元調査の目的で購入していた。

鳥取ループ(宮部)は、昭和初期の部落の町名・住所等を現在の住所に加筆修正して2015年の年末頃、「同和地区wiki」というサイト上に掲載した。

「同和地区wiki」は2012年、鳥取ループ(宮部)が開設したサイトで、部落の所在地だけでなく、全国市町村別にその部落に住む人の名字リスト1万人以上が作成され、ネット公開されていた(「部落人名総鑑」)。

さらに「部落解放同盟関係人物一覧」なども掲載され、各都府県連や支部長など運動関係者の1000人以上の名前や自宅住所、電話番号まで載せられていた。

(4) Amazonで予約販売開始

2016年2月、鳥取ループ・示現舎は「部落地名総鑑の原点」とのサブタイトルをつけ、『復刻 全国部落調査』という書籍名で出版しようと、通販サイトのアマゾンを通じて予約受付を開始した。

解放同盟をはじめ、人権教育にかかわる教員や多くの人たちが抗議し、アマゾンは、販売中止にした。しかし、示現舎の宮部は出版を諦めておらず、翌3月に解放同盟中央本部書記長が宮部と面談し、出版中止を求めたが拒否され、話し合いは決別に終わった。

この問題は、国会(2016年3月10日 参議院法務委員会)でも取り上げられた。法務大臣は「人権擁護上、看過できない問題であり、あってはらない」と『復刻版 全国部落調査』出版とネット公開に対する見解を示した。

東京法務局長も「人権侵犯」として、示現舎の宮部に対し出版を中止するよう「説示」したが、彼は拒否した。

(5) 出版禁止・サイト削除の仮処分決定後もネット上で拡散

解放同盟は横浜地裁に出版禁止の仮処分の申立をおこない、2016年3月28日、出版禁止の仮処分が決定した。「同和地区WIKI」についてもウエブサイト掲載禁止の仮処分を申し立て、4月18日、削除の仮処分が決定された。*1

その一方、示現舎(宮部)は、出版禁止の仮処分決定が出るや、その訴訟資料一式と『全国部落調査』のコピーをヤフーオークションに出品した。解放同盟をはじめ多くの人がヤフーに抗議したが、ヤフーは取引を中止せず、2016年4月1日、150件の入札の中、51,000円で落札されてしまった。

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出版禁止の仮処分を受けた宮部はさらに開き直り、ウエブサイトに『復刻 全国部落調査』のデータを公開し、拡散をあおり続けた。海外の電子図書館にもデータを送り、キンドル版(電子図書)や個人で印刷製本する仕方まで教示し、拡散し続けた。

その結果、現在では、コピーサイト・類似サイトが多数作成され、差別身元調査に利用されるという深刻な状況が続いている。2019年1月にメルカリで「部落地名総鑑・復刻版」が3冊も販売されていた。コピーサイトはミラーサイトとも呼ばれ、ネット上で公開されたウエブサイトとまったく同じ内容の複製サイトのこと。

 現在、解放同盟員ら248名が原告となり、示現舎に対する裁判がおこなわれている(同盟員1人につき110万円、原告総数248名、合計2億7500万円の損害賠償を求める民事訴訟である)。

 

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(6) 差別身元調査の犯罪性

鳥取ループ・示現舎の行為の最大の犯罪性は、この社会に部落差別が厳然と存在するなかで、ネット検索で容易に差別身元調査を可能にしたことである。

結婚や就職という重大な岐路にさいして、部落出身を理由に差別を受け、多くの青年たちの命と人生が奪われてきた。部落差別は〈差異〉がない差別である。

それゆえに、部落出身者を排除しようとする側は、部落出身者を特定するために、身元調査を行おうとする。

だからこそ、それを許さない取り組みとして、寺の過去帳壬申戸籍の閲覧禁止、戸籍・住民票不正取得の禁止、差別図書『部落地名総鑑』に対する抗議が行われてきた。

今回、『部落地名総鑑』の原本ともいえる『復刻版 全国部落調査』をアマゾンが予約取り扱いを開始したことに対して、「部落の所在地を暴いた図書を扱い、販売することじたいが差別行為」として関係者たちが真っ先にアマゾンに抗議したのは、その意味においてだった。

本人の同意なく他者が部落出身者を「暴き」「晒す」行為は、明確なプライバシー侵害である。

何より、この社会に部落差別があるもとで、ネット版「部落地名総鑑」を不特定多数に公開することは、許されない差別行為である。

ところが鳥取ループ(宮部)は、部落の所在地を暴き、部落出身者をネット上に晒しておきながら、そこで生じる差別や人権侵害などの責任は取らないというスタンスをとっている。

「復刻版」裁判の第1回口頭弁論後の記者会見(2016年7月)で、宮部は「全国部落調査がネットに出たのが今年の1月5日なんで、そんな深刻な問題だったらね、自殺者の一人や二人でも出てるかと思ったらそんなことまったくないわけです」と言い放った。自分が公開した情報で、結婚差別を受け、部落出身者が自死することがあっても、なんとも思わず、部落の人たちの命や尊厳をまるで「モノ」のように扱っている。私は彼の差別的好奇心のために、部落の人たちが人体実験をされていると感じ、底知れぬ恐ろしさを覚えた。

※「ストップ部落調査」HP「2016.7.5第1回口頭弁論宮部・三品記」

http://www.stop・burakuchousa.com/loop/450/

 ※「

www.abdarc.net

」(対鳥取ループ裁判支援サイト)

 

★川口泰司「ネット社会と部落差別の現実」(『部落解放研究209号』、2018年11月)より

 

 

*1:示現舎(宮部)は、仮処分決定を不服とし抗告したが、認められなかった。2017年9月に出版禁止の仮処分決定が確定、ウエブサイト掲載禁止の仮処分決定も、示現舎の抗告は認められず2018年1月に確定した。

第1話「ネット社会における差別の変化」 ~ネット社会と部落差別①~

「部落差別解消推進法」施行とネット差別

今、インターネット上では、部落に対するデマや偏見、差別的情報が圧倒的な量で発信され、爆発的に拡散している。部落問題について「無知・無理解」な人ほど、そうした偏見やデマを内面化し、差別を正当化する情報の影響をうけている。

さらに、差別身元調査・土地差別調査の手段ともなる「部落地名総鑑」「部落人名総鑑」が作成され、ネット上で公開されている。ネット検索で容易に、部落出身者を特定する差別身元調査が可能になるという状況が起きている。

こうしたネット空間の部落差別が放置されていることで、現実社会に生きる被差別部落の人々への差別がエスカレートしている。

公共圏である市民社会では許されない差別行為であっても、ネット空間に投げ込まれた差別発言や差別的デマは、実質、無規制。逆に、ネット空間で生み出された部落差別が、これまで積み上げてきた人権基準を破壊し、後退させる事態を招いている。

「部落差別解消推進法」(以下、「推進法」)成立の背景には、このようなネット上での部落差別の深刻化がある。

同法第1条には「情報化の進展に伴って部落差別に関する状況の変化が生じている」として、国会での法案審議においても、ネット上の部落差別がもたらす被害の現実が、何度も指摘された。

今後、国や地方自治体、企業、専門家などが協力して、現下の状況を分析し、部落差別撤廃に向けた総合的な取り組みを行っていくことが求められている。

以下、ネット社会における部落差別の現実と今後の課題について考えたい。

 

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  (1)「情報源」と「質」の変化

 現在、日本国内で何らかの形でインターネットを利用している人は1億人を突破している。ネットは多くの人の「情報源」となっている。

かつては、自分が知らない知識や情報は、テレビやラジオ、書籍・新聞・雑誌などから得ていた。新聞・雑誌・書籍などの出版物、テレビやラジオの情報は、編集段階での第3者のファクトチェックなどによって、情報の「質」は、ある程度確保されていたといえる。

その背景には、部落問題にかかわる差別表現に対する告発・抗議・糾弾が、1960年代以降、マスメディアの分野でおこなわれてきたことがある。メディアは社会の公器であり、メディアが発信する情報には社会的責任が問われる。

人権意識の高まりのなか、部落民に対する差別観念を助長・再生産するような表現は厳しく批判された。被差別マイノリティからの抗議をうけ、媒体としてのメディアと被差別マイノリティとの対話が積み上げられ、賤称語の無自覚な使用や差別表現は「被差別者を傷つけ、差別を助長する」として、抑制されるようになった。

しかし、SNSの普及は「情報」の「質」の変化をもたらし、社会自体の変質をもたらした。SNSにより、誰もが自由に情報発信できるようになった。気軽に書き込むことができ、画像や動画もアップできる。

個人の情報発信には第3者によるチェック体制はなく、ブロバイダーの削除基準も非常に緩い。デマやフェイクニュース、被差別マイノリティに対する差別や偏見を助長する書き込みも、そのまま発信されている。2000年代に入り、ネット上は部落出身者に対する憎悪、罵倒、デマがあふれかえるようになった。

差別デマや偏見を助長する書き込みでも、アクセス数やシェア(転送・リンク)数が多ければ、ネット上では検索上位に表記される。しかも、正しい情報やポジティブな情報よりも、ネガティブな情報、差別的サイトほど話題性があり、アクセス数が高い傾向がある。

とくに近年、「在日特権を許さない市民の会」(以下、在特会)などによるヘイトスピーチに代表されるように、差別デマが横行し、激化した。2011年、在特会副会長が水平社博物館前で部落差別街宣を行った事件は記憶に生々しい。かれらは、ネット空間から現実社会に出て、街頭で差別煽動を叫ぶデモをおこなうようになったのである。

インターネットを拠り所としていたかれらが拡大していった背景にはSNS、とりわけTwitterの爆発的な普及がある。2011年の東日本大震災時、スマートフォンの契約数は955万台、それが2017年には8100万台と、約8倍に増えた。それに伴って、TwitterFacebookYouTubeなどのSNSの利用者数も増大し、ネット空間で生みだされた言説が、現実社会にも大きな影響を及ぼしている。

 (2)「拡散力」と「蓄積」による印象操作

ネット社会の特徴は、情報の「拡散力」「蓄積」である。デマや偏見などの差別情報も一瞬で何千人、何万人に拡散し、ネット上に「蓄積」され続けていく。ごく少数の人間でも、デマやフェイクニュース、差別的情報を投稿し続ければ、ネット上ではその情報で埋め尽くされ、印象操作が起きる。

Yahoo!ニュース」の総コメント数の75%が、たった15%のヘビーユーザーとライトユーザーによって占められていたという調査結果が明らかになっている。あるヘビーユーザーは100個ほどのアカウントを使って、くり返し投稿していた。

韓国や北朝鮮、中国などに関するニュースのコメントは、ヘイトスピーチであふれていた。しかし、ヘイトスピーチ投稿の全体の25%が、たった1%の人間による投稿のくり返しが占められていたことも明らかとなっている(2015年4月、木村忠正・立教大学教授とYahoo!ニュースによる共同研究)。

『ネット炎上の研究』(2016,田中・山口)によれば、炎上参加者はネット利用者の0.5%であるにもかかわらず、世論を反映した意見として取り上げられるという。炎上を避けるために、圧倒的多数の中間層の人々が、議論と情報発信から撤退していくその結果、両極端な意見のみがネット上で情報発信され、議論が劣化し、意見が先鋭化されていくと同書はのべている。

また、欧米ではTwitterbot」機能(自動投稿システム)を使い、米国大統領選挙や英国EU離脱の国民投票においてもフェイクニュースが大量に流され、投票行動に影響し、社会的な問題となった。「ボット」(botはロボットの略)とは、事前設定によって、自動的にツイートを発信するプログラムのこと。大量のツイートを継続的に発信することも可能である。

すでに、大阪府内の同和地区の所在地情報がTwitterの「ボット」投稿により毎分ごとに投稿され続け、何度削除されても、自動的に投稿がくり返される問題も起きている。一部の人間が、差別情報を投稿し続けることで、ネット世論が作り出され、印象操作が起きる。

ネット空間では「デマも百回言えば、事実になる」という状況が簡単に生み出される。被差別マイノリティ集団や個人・団体に対する偏見が煽られ、荒唐無稽な差別デマが、容易に拡散される時代になっていることを自覚する必要がある。

 (3)「可視化」「接続化」「記録化」

 評論家の荻上チキ氏は、ネット社会を「可視化」「接続化」「記録化」と特徴づけている。

一つめは「可視化」で、今まで見えなかったものが、より見えるようになってきたこと。

二つめの「接続化」によって、今までつながらなかった人がつながる。

3つめが「記録化」である。ネット上ではアーカイブが残り、いつまでもログ(記録)が残る。一度ネット上に投稿された記述や画像などの情報は、本人が削除しても、どこかにログが残り、複写・拡散されやすく、消えにくい。これは「デジタル・タトゥー」と呼ばれている。

ネット空間を「棲(す)み処」にしていた「在特会」ら差別主義者たちが、ネットからリアル世界に出て、公然とヘイトスピーチをおこなう様子が「可視化」され、ネット上で「接続化」され、それらの言動が「記録化」されていくようになっていった。 

 

4)「フィルターバブル」と「エコーチェンバー」現象

また、ネット検索サービスの進化は、自分が見たい情報のみを得ることを可能にする。興味・関心がない情報、見たくない情報は見なくてすむ。GoogleFacebookアルゴリズムは、個々人のクリックしたデータを集約・分析・分類(フィルタリング)し、次回の検索からその人が興味・関心をもちそうな記事やサイトを優先的に表示する。つまり、自分が興味・関心のない情報、価値観の異なる意見はどんどん遮断されていく。

その結果、利用者は自分と同じような価値観や意見、興味関心にあうものだけに囲まれて、逆にそれ以外の情報から遮断されてしまう。

それがネット社会で起きる「フィルターバブル」現象だ。

SNSでは、自分が見たい人をフォローし、その人の投稿がタイムラインで流れてくる。嫌いな人はすぐにブロックして遮断できる。その結果、同じ価値観をもつ者同士がつながり、コミュニケーションをくり返していくようになり、しだいに、自分の周囲にある言説こそが真実であるかのような感覚におちいる。価値観や思考がより先鋭化し、言論の「二極化」や集団の「分極化」が生じやすくなっている。

これは「エコーチェンバー」とよばれる現象で、「エコーチェンバー」とは、閉じた空間で音が共鳴するよう設計された部屋のことだが、SNSなどによるコミュニケーションが、閉じた関係性を生み出し、それ以外の言説がある可能性に思い至らず、特定の考えに凝り固まってしまう危険性がある。

このようなネットのもつ特性が、マイノリティに対する偏見や差別意識エスカレートさせ、ヘイトスピーチ(差別憎悪煽動)・ヘイトクライム(差別憎悪犯罪)を惹起させる要因にもなっている。

 

参考文献

※曺慶鎬「インターネット上におけるコリアンに対するレイシズムと対策の効果」(『応用社会学研究』2017、No59)

 ※朝日新聞デジタル、「コメント欄にはびこる嫌韓・嫌中 ヤフーニュース分析」(2017年4月28日)

荻上チキ、「ウェブ社会と『新しい差別』」(雑誌『ヒューマンライツ』(2017年11月号)

荻上チキ、『ウェブ炎上』(ちくま新書、2007年) 

※田中辰雄・山口真一、『ネット炎上の研究』(勁草書房、2016年)

※平 和博『信じてはいけない-民主主義を壊すフェイクニュースの正体』(2017年、朝日新書

 ※イーライ・パリサー、『フィルターバブル-インターネットが隠していること』(2016年、早川書房

※阿久澤麻理子「インターネットと部落差別」(雑誌『部落解放』2017年9月号、解放出版社) 

 

 ★川口泰司「ネット社会と部落差別の現実」(『部落解放研究209号』、2018年11月)より

 

 

法務省が同和地区情報の削除対応を強化!

mainichi.jp

鳥取ループ・示現舎を意識した通知

 法務省同和地区の所在地情報の削除強化に取り組む方針を出しました(2018.12.27 通達)。明らかに鳥取ループを意識した、同和地区の所在地情報のバラまきへの対応指針です。あえて「差別解消」という名目をつけ、拡散する確信犯の対応もアウトにすると明確に位置付けました。

「部落差別解消推進法」施行から3年もかかったけど、一歩前進です。

このガイドラインをもとに、モニタリングと削除要請をプロバイダへ。企業へは広告撤退の通報など、どんどん展開していく取り組みが重要になってきます。
 2017年3月に国内プロバイダ業界団体も「同和地区情報の掲載」に関して差別禁止規定に該当するとの解釈を示し、各事業者の利用規約等の改正を呼びかけています。 法務省Googleマップ、ヤフーマップ、ヤフオク、メルカリも含めて「部落地名総鑑」への対応について、しっかりと取り組みを進めて欲しいです。

「諸刃の剣」には警戒

ただし、気をつけないといけないのは、この方針は諸刃の剣であることには注意する必要があります。正当な目的での実態調査や研究などの発表などの場合でも、規制・削除されることがないように注意しなければいけません。

法務省は「学術・研究などの正当な目的があり、情報の公表に合理的理由が認められるケースも想定されるため、『例外に該当するかどうかは個別事案ごとに判断する必要がある』としている」と回答しています。

上記の点をしっかりと踏まえて取り組んで行く必要があります。

法務省の削除依頼に法的拘束力がない

そして何よりの課題は、法務省がプロバイダに削除要請をしても法的拘束力がなく、あくまでSNS事業者の判断次第ということです。モニタリングで個人や行政が削除要請をし、法務省から削除要請をしても消えないケースもあります。それらの立法事実をしっかりと積み上げて行くことが今後、重要になってきます。

部落地名総鑑」はアウトという最低限のルールは、ネット上でも通用するようにする必要があると思います。

 

以下が、毎日新聞の記事(2019年3月24日)です。

インターネット上にある同和地区(被差別部落)に関する情報について、法務省人権擁護局が対応を強化した。従来は特定の人物を対象としていたり、差別の助長・誘発が目的だったりする場合に限ってプロバイダーなどに削除要請をしていたが、目的に関係なく、特定地域を同和地区であると明示していれば原則として削除を要請する強制力はないものの、これまでの運用に比べ、踏み込んだ対応となる。

 法務省がインターネット上の書き込みなどの情報を「人権侵害」とみなすのは、主に(1)名誉毀損(きそん)

(2)プライバシー侵害

(3)不当な差別的言動

(4)人種、社会的身分、門地(家柄)などの属性を理由に差別の助長・誘発を目的とした情報

――の4種類に分けられる。

同和地区の明示は(4)に該当する。

 現行の運用では、各地の法務局や地方法務局は(1)~(4)について被害者らからの申告を受けると調査を開始。

特定人物が対象となっている場合はプロバイダーへの削除要請などの措置を講じるが、(1)~(3)の不特定多数に対するものは削除要請までは行っていない

(4)については、差別を助長・誘発する目的であることが認められる場合、削除要請している。

 しかし、同和地区に関するネット情報の中には「部落差別の解消目的」などを掲げていながら、実質的な狙いは差別の助長・誘発であることが疑われるケースもあるという。法務省は削除要請の要件を逆手にとっている可能性があると判断し、昨年末に法務局・地方法務局に従来の運用を見直す通知を出した。

 通知は「特定の地域が同和地区である、またはあったと指摘する情報を公にすることは、差別の助長・誘発目的かどうかにかかわらず、人権擁護上許容し得ない」とし、「原則として削除要請などの措置の対象とすべきだ」と明記。ただし、学術・研究などの正当な目的があり、情報の公表に合理的理由が認められるケースも想定されるため、「例外に該当するかどうかは個別事案ごとに判断する必要がある」としている。

 

参考:2018年12月27日、法務省が地方法務局へ出した通達
 

 

以下、法務省通達の全文です。

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メルカリで「部落地名総鑑」が販売されていた!

「部落地名総鑑」佐賀県内からネット出品 出版中止の原本復刻版、3冊売れる

 

鳥取ループ・示現舎がPDFでバラまいた『復刻版・全国部落調査~部落地名総鑑の原点~』がメルカリで今年1月に3500円で3冊販売されていました。佐賀新聞(2019/3/22)、朝日新聞(3/23)に記事しています。

示現舎の責任はもちろんですが、部落差別に加担したメルカリの企業の社会的責任、法務省の指導も含めた国会での追及も必要です。

部落地名総鑑」が公然と販売されてしまっている現実。...
100年に渡る差別身元調査規制の人権基準、社会規範が壊されている状況は深刻です。

「身元調査の何がだめなの?」という空気感が醸成されていきます。

 

 

 

以下は、佐賀新聞(2019/3/22)の記事です。

部落地名総鑑佐賀県内からネット出品 出版中止の原本復刻版、3冊売れる

3/22(金) 9:15配信

佐賀新聞

 同和地区や被差別部落の地名を一覧化した「部落地名総鑑」の原本復刻版がインターネットのフリーマーケット佐賀県内から出品され、3冊が購入されていたとみられることが分かった。同著を巡っては部落解放同盟が申し立てた出版禁止の仮処分が決定し、東京地裁で本訴訟が続いている。

 唐津市佐賀県によると同市職員が今年1月20日フリマアプリに「復刻 全国部落調査」が出品されていることに気づいた。約200ページで、発送元地域は佐賀県、売価3500円とされ、「以前(大手通販サイトから)販売される予定だったが、突然出版中止となった幻の本」と解説が添えられていた。

 市から連絡を受けた県人権・同和対策課が翌21日、佐賀法務局に報告するとともに、運営会社にサイトを通じて「不適切な商品」と通告。その後、再度2月4日に削除を要請し、同日に削除されるまでの間、3冊が購入された形跡があった。

 「全国部落調査」は1936年に刊行された被差別部落の調査報告書で、「部落地名総鑑」の原本の一つとされる。神奈川県の出版社が2016年2月、ホームページで復刻版の出版を予告。部落解放同盟が出版差し止めを求める仮処分を申し立て、横浜地裁が同4月、出版禁止の仮処分を決定している。しかしネット上でダウンロードできたことから、出品本はこのデータを印刷したとみられる。

 部落解放同盟佐賀県連の濱本隆司委員長は「インターネットを悪用し、差別行為が広がっている現実を突きつけている」とし、「情報化の進展など状況の変化に対応した部落差別解消推進法に準じ、県や市町も条例化を急ぐべき」と話す。

ヘイト・フェイク対策、求められる人権教育の教材

ネット上の差別、人権侵害の現実に対する人権教育の教材化が各地で検討されています。一番大事なのは、個別人権学習だと思っています。それを前提とした上でどのような教材や人権学習が必要なのか、個人的には以下のような教材や授業案があればいいなと思っています。

1,違反通報のスキル、相談窓口の紹介

①通報スキルを身につける

SNS上で差別投稿や誹謗中傷などの投稿を発見したら、スルーしないで違反通報をする。そのスキル、通報の仕方などの具体的なスキル研修が必要。スルーすることで、ネット上の環境が悪化していくため、つねにクリーニングする必要がある。サイレントマジョリティではダメで、具体的にコメントに「悪いね」ボタンを押す、違反通報をするなどのワンアクションが大事。

LINEやTwitter、インスタなどのSNS上で、子どもたちは芸能人や知人などの攻撃的な投稿を目にします。自分の好きなタレントや友人・知人への暴力的投稿、誹謗中傷・差別投稿、悪口などが書かれたり場合は、ワンアクションすることの重要性を学ぶ学習教材が必要かと思います。

また自分が被害者になったときに、どうすればいいのか、相談窓口の紹介、悪質な場合は警察に相談できるなど、そんな被害者救済のスキルも学習する必要があると思います。

反差別のロールモデルの提示

「保守速報」のエプソンへの広告通報の取り組み。昨年の春~夏にかけて、「ネトウヨ春のBAN祭り」と称した、YouTube上のヘイト動画に対して、がんがん違反通報をして、多くのヘイト動画が削除されたり、アカウント停止に追い込みました。これはすごく大きな出来事でした。そのような取り組みの成果なども共有することも大事だと思います。

現実社会では、火事を目撃したら消防署へ通報します。殺人などの犯罪を目撃したら警察に通報します。大怪我をした人がいたら救急車を呼びます。同じように、ネット上での人権侵害を目撃したら、放置せず、通報する。それが「あたりまえ」になる価値観とスキル(通報先先等)を教えておくことが大事です。

2,ポジティブ情報の発信

①「安心・おすすめ」「ヘイトサイト」リストの作成

SNS等を通じて、どんどんポジティブ情報を発信していくことの重要性。例えば人権学習で子どもたちや学生・教職員が参考にできる「安心サイト」「おすすめサイト」などのリスト化。情報がありすぎて何が正しい情報なのか、専門知がないと「見抜け」ません。

私が医療に関する情報サイトをみても専門知がないために、なにがフェイク情報なのか見抜けません。その意味では人権課題毎に、信頼できる団体や機関などが「おすすめ」「ヘイトサイト」リストを作成して、参考にしてもらうということが求められていると思います。

②差別言説のパターンを事前に学習(ワクチン、抵抗力をつける)

 デマやフェイクニュースに対する抵抗力を付けるためには、実際にネット上ではどのようなデマや偏見の言説が飛び交っているのか、具体的に代表的なパターン化された言説を学習してくことが大事。

例えば、災害時になると「外国人の窃盗団が闊歩している」などのデマ言説。デマによる関東大震災での朝鮮人大虐殺、東日本大震災での外国人犯罪の増加(デマ)など。事前にそのような傾向があることを知っておけば、同じような事態に遭遇しても、「ん?ちょっと待て」と「保留」⇒「ファクトチェック」の態度を身につけることが大事。

特に、現代的レイシズムの言説がポイントかと。「部落差別はもうないのに、自分たちの利権さりのために、騒いでいるだけ」「学校で同和教育をやるから、部落差別が残る」(寝た子を起こすな論)「同和対策事業=同和利権」などの言説。

在日朝鮮人たちは特権を持った悪い奴ら。税金も払わず、生活保護を不正受給している」「日本の犯罪の多くが在日コリアン」などの言説。

 部落の歴史を学ぶことも大切だけど、実際にネット上で飛び交っているのは、上記のような「現代的レイシズム」の言説。実際にネット上のこれらの言説を授業で確認し、その間違いやファクトチェック(事実に基づく指摘)の学習などが効果的です。

③動画テキスト

動画を活用した情報発信も重要に。学校や行政では「人権ポスター」「人権作文」「人権フォトコンテスト」などをやってきましたが、ネット上では文字でなく動画が主流。「人権動画コンテスト」など、YouTubeなどを使って、作品募集やアップするなども必要ではないでしょうか?

また、これまでの読み物を中心とした副読本でなく、過去の教材などを動画風にして再作成してく取り組みも必要かと。被差別当事者などの生い立ちや体験談などたくさんの教材があります。それを読み聞かせ的な感じで、動画にアップしてくだけでもすごく影響があると思います。

その他、いろいろあるかと思いますが、上記の点については、先生でどんどん教材開発をして欲しいと思っています。

④匿名のヘイト投稿でも摘発される!

 昨年12月に大分市の60代男性が、川崎市在日コリアンの中学生へのヘイト投稿で、警察により摘発されました。今年1月、沖縄の男性がヘイト投稿をおこない、検察が犯人を特定し、略式起訴で罰金10万円を命じました。

ヘイトスピーチまとめサイト「保守速報」の管理人も200万円の損害賠償の判決が出ています。「ネット上の投稿をまとめただけ」という理屈は通用しなくなりました。

これまで民事で被害者が裁判を行ってきたのですが、刑事としてもヘイトスピーチが「名誉毀損」「侮辱罪」として摘発されるようになってきました。匿名性での書き込みであっても、突き止めることが出来る。その時は社会的な責任が問われること、これらの事実を踏まえた学習教材も子どもたちに大事かと。

ネット上にも「マナーとルールが必要!」という価値観を当然にしていくことが教材も求められていると思います。