部落差別は、今 ~TUBAME-JIROのブログ~

当事者の声、マイノリティの視点、差別の現実を踏まえた情報発信をしています。

1、地方自治体が把握した部落差別の現実 ~法務省「部落差別」実態調査結果から~

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2019年法務省「部落差別」実態調査より

法務省が2019年に「部落差別解消推進法」第6条にもとづき「4つの実態調査」を実施し、2020年6月に「報告書」が出されました。

「4つの実態調査」とは、

1、法務省が把握した差別事例(過去5年)
2、地方自治体が把握した差別事例(過去5年)
3、インターネット上の部落差別事例
4、国民意識調査(全国1万人対象)
 
地方自治体が把握する差別事件の調査」から見たいと思います。

(1)年間2000件以上、部落差別の相談

①毎年、全国の県市町村の自治体に対して年間2000~2400件の部落差別の相談があることが明らかになりました。

人権侵害の被害者が法務局や市役所等に相談にいくのは1割もいません。この数字は「氷山の一角」であり、差別を受けた被害者が相談できていないいケースが圧倒的に多いことを踏まえておく必要があります。

②相談内容としては「結婚・交際差別」が毎年50~100件、差別表現は年間500~600件あり、厳しい部落差別の現実が明らかとなっています。差別の被害者救済、差別禁止法の整備が急がれます。

(2)結婚差別、差別発言は2倍、ネット差別は3倍に!

 結婚差別の相談は毎年50~100件あります。過去5年間(2013~2017年)で比較すると、個人を対象とする「差別表現」は101件から194件へと2倍に増えています。そのうちインターネット上は3倍(13%から43%)に増加しています。

(3)土地差別事件の実態把握を!

①「その他」の相談は年間1400~1500件あり、「同和地区の所在地」の問い合わせなども含まれています。今回の調査では、土地差別については調査項目に入っていませんでした。

②この間、マンション開発業者や住宅販売会社による土地差別調査事件、市民の同和地区問合せ事件などが問題となってきました。

今後、国交省による土地差別、宅地建物取引における部落差別の実態調査の実施に取り組んでい引く必要があります。すでに全国10府県以上で実施されてきた土地差別に関わる実態調査の結果を集約することなどはすぐにできます。

 (4)ネット上の部落差別とモニタリング

①インターネット上の部落差別解消にむけて全国で133の自治体がモニタリングを実施していました(2019年2月時点)。

地方自治体の部落差別等の相談事例の調査では「モニタリングによる認知は『相談等』に該当しない」としており、上記の相談件数(年間2400件)には含まれていません。

③ネット上の部落差別を含めるとさらに差別事例の件数は増加することになります。特に現在の部落差別の主戦場はネット上となっています。ネット上における部落差別の現実は別項目で報告したいと思います。

④今回の調査では「国が公権力によるモニタリングを推奨していると受け止められるような調査内容を及び手法を避けるなど、表現の自由に十分留意したものとすべき」としています。

インターネット上の部落差別解消に取り組む自治体のモニタリング(削除要請)の取り組みを、法務省が否定しかねない記述となっており注意する必要があります。

新型コロナウイルスの感染者や家族等に対するネット上での誹謗中傷や個人情報さらしなどの深刻な差別の現実を踏まえ、全国で20府県以上の自治体がコロナ差別のモニタリングをおこなっています。個人の出自や差別を扇動する投稿、人権侵害の誹謗中傷は表現の自由ではありません。無法地帯化しているネット上の差別に対する取り組みを強化する必要があります。

 

⑥すでに同和地区の所在地情報をインターネット上に掲載すること(識別情報の摘示)は「表現の自由」ではなく人権侵犯事件として処理(削除対応)するよう各地方法務局に依命通達を出しています。
 モニタリングの取り組みを否定するのではなく、法務省地方自治体と連携しネット上の部落差別の解消に向けた取り組みを強化していく必要があります。

 

  (5)差別事件の加害者に対する改善要求は1割

 地方自治体の差別事件への対応は「関係機関の案内・紹介等」が4割前後であり、差別事件の加害者(行為者)への改善要求は1割でした。差別事件の加害者に対する改善要求等の取り組みが今後の課題です。そのためには「和歌山県部落差別解消推進条例」(2020年施行)のように、差別行為を禁止し、行政として説示・改善をもとめる法令を整備する取り組みが求められています。

 地方自治体の今後の課題

(1)人権問題の専門相談窓口の設置

「人権問題の専門相談窓口・人権相談対応は半数以上」ですが、専門の職員を配置した常設の窓口は少ないです。専門相談窓口の設置・周知、相談員のスキルアップなどが課題です。

 

(2)学校での同和教育が重要

「差別表現」はネット上のものが多数を占めていますが、根本的な解決のためには、学校教育における部落問題学習の充実、地域や職場などにおける市民啓発の徹底が必要です。

(3)鳥取ループ・示現舎の「部落探訪」の削除
 ネット上の差別事件は「同一のウエッブサイトの重複相談もある」として課題が明確である。鳥取ループ・示現舎の「部落探訪」のような悪質な同一サイトへの対応強化が求めれています。