部落差別は、今 ~TUBAME-JIROのブログ~

当事者の声、マイノリティの視点、差別の現実を踏まえた情報発信をしています。

「プロ責法」改正は部落差別解消にどう影響するの?

プロバイダ責任制限法」改正って?

2021年4月21日、「プロバイダ責任制限法」(「プロ責法」)が改正され、匿名の発信者が特定されやすくなりました。今後、ネット上で深刻化する誹謗中傷、差別投稿の民事訴訟刑事告発が増えることが予想さます。

すでに警察庁は「第4次犯罪被害者等基本計画」に初めて「ネット中傷」対策を記載し、本年4月からネット誹謗中傷等の相談体制の充実に取り組み始めています。

今回は「プロ責法」改正のポイント、部落差別解消に向けた今後の課題について考えたいと思います。

投稿者特定の裁判が1回に!(改正前は2回)

今回の法改正で1回の裁判で発信者が特定できるようになりました。これまでは裁判➀「IPアドレス」開示→裁判②「契約者情報」開示という2回の裁判をおこなっていましたが、今後は①「IPアドレス等」開示は裁判所の判断(非訴)で可能となりました。裁判所が「権利侵害」の可能性が高いと判断すれば、被害者はIPアドレス等(投稿日時)を教えてもらえます。そして次に接続プロバイダに契約者情報(名前や住所など)を教えてもらい匿名の発信者(投稿者)を見つけ出します。

 発信者が分かれば、相手に名誉毀損や侮辱、プライバシー侵害などで損害賠償請求の裁判(民事訴訟)を行います。同時に警察に 刑事告発(侮辱罪、名誉毀損罪、脅迫罪)も出来ます。

ネット被害者の負担が大きすぎ!(被害者救済の課題)

ネット中傷の裁判(開示請求・削除仮処分⇒本訴・賠償請求)は最低でも「50~100万円」は必要と言われています。勝訴しても弁護士費用などを考えると金銭的メリットはほぼありません(弁護士費用等=慰謝料)。刑事告訴しても「侮辱罪」は科料1万円以下。木村花さんの中傷投稿者は侮辱罪で、二人(大阪府福井県)とも科料9000円でした。日本ではネット人権侵害の被害者が圧倒的に不利な状況です。

 【課題】

➀被害者の裁判費用の支援
 国や地方自治体等で裁判費用支援が必要(人権侵害救済機関・制度の構築)
 例)長崎県はコロナ差別のネット中傷などの裁判費用を一部負担しています。
・弁護士料5万円(相談)、開示請求に関わる訴訟費用の半額負担(上限30万円)

➁部落差別解消の視点は、抜け落ちている。
今回は発信者情報の開示(裁判簡素化)が中心の改正でした。しかし、鳥取ループやヘイターなどの確信犯は名前や住所を公表して活動しています。それらの悪質な確信犯に対しては、今回の法改正では意味がありません。 


【部落差別解消に「プロ責法」改正をどう活かせる?】

「侵害情報」(第3条)に「同和地区の識別情報の摘示」を該当させる。

今回の法改正では新たに「侵害情報」という言葉が使われています。「侵害情報」と判断された場合のみ「削除」や「開示」が可能となります(第3条2項)。

②「名誉毀損・プライバシー関係ガイドライン」の削除対象に「同和地区の識別情報の摘示」を明確に盛り込むこと!
どのような投稿を削除対象とするのか、過去の裁判判例法務省の見解などにもとづきガイドラインが作成されています。今後、法改正を踏まえたガイドラインの改定(第5版)があると思います。そこにしっかりと、法務省の依命通達を踏まえ、削除対象に「同和地区の識別情報の摘示」を盛り込ませる必要があります。
また、鳥取ループ・示現舎との裁判判決が9月27日に出されます。この裁判に勝訴し、その判例を踏まえ、今後、プロバイダの削除基準にしていくことも大事です。

3、「部落差別解消推進法」を強化改正が必要!
「部落差別解消推進法」には「差別禁止」規定がありません。「推進法」を強化改正し、「差別禁止」規定を盛り込む必要があります。その際にポイントが「行為規制」という視点です。解放運動の活動家など個人に対する誹謗中傷などはどこまでが「批判」なのか、プロバイダには判断が難しいところがあります。

しかし、差別身元調査や土地差別調査などの「行為」は現実社会では部落差別であるとして、行政や企業なども「禁止」ということで取り組みを進めています。

そこで下記の3つのは部落差別「行為」として、最低限、法令・ガイドラインで禁止する。

➀結婚や就職の差別身元調査
➁土地差別調査(不動産取引において同和地区の物件か調べる)
③同和地区の識別情報の摘示(暴露)

すでに、和歌山県の「部落差別解消推進条例」(2020年12月改正)は上記のような形で「行為規制」の項目を入れました。プロバイダに対しても、条例で示した部落差別(行為)を認識したら「削除」(拡散・送信防止)義務を入れています。今後、鳥取ループ裁判の完全勝利、「部落差別解消推進法」の強化改正、包括的差別禁止法の制定、人権侵害救済機関の設置に向けた取り組みにむけて、一つひとつ立法事実を積み上げていきましょう。