部落差別は、今 ~TUBAME-JIROのブログ~

当事者の声、マイノリティの視点、差別の現実を踏まえた情報発信をしています。

「差別戒名」 死後まで差別された被差別部落


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 死者に対する「差別戒名」

被差別部落の人たちは死後も差別されてきた歴史があります。

戒名に「畜」「賤」「革」「穢」など差別されてきた人たちの身分や職業などをもとに、墓石や位牌、過去帳などに「差別戒名」が刻まれていました。

「差別戒名」は江戸時代中期から1940年頃までに、部落の檀信徒のみに「授与」され「不当に差別され、貶められた戒名」のことです。

また、各寺院が供養のために作成していた過去帳(戒名、俗名、死亡年月日、施主との続柄等記載)にも部落の死者に対しては「穢多、非人、新平民」などと添え書きされていました。

記載型式においても部落の死者のみが過去帳の「巻末に一括記載」「一字下げ記載」「別冊」などの差別事例も多く報告されいます。

差別戒名と知らず供養してきた部落の人たち

私は大学生の時、「リバティおおさか」で、初めて差別戒名を見て、死後まで部落差別されてきた歴史に悔しさでいっぱいになりました。

差別と貧困のなか教育を奪われ、その差別戒名の文字を読めずに、大切な先祖のお墓だと供養してきたムラの人たちもいました。

宗教が差別に加担してきた歴史をしっかりと学ぶことがいかに大事なことか。私たちの当たり前の生活や慣習のなかに差別の文化として根付いていないか、しっかりと見抜く力が、ほんと大事になってきます。

 

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教団に差別戒名の指南書が

これらは単に差別戒名をつけた僧侶個人の差別意識の問題ではなく、江戸時代初期に差別戒名をどのようにつけるかという本があいつで刊行されていました。

葬儀や戒名など全般にわたって差別的な指導がおこなわれてきた背景がありしました。
これらの指南書*1は、宗派の創始者の書物とともに宗派の教本となり、明治以後もその差別性が指摘されることがありませんでした。

1980年代に入り、仏教界、日本の宗教界も部落差別解消に向けて取り組むようになり、これらの問題が明らかになってきました。曹洞宗だけでなく、浄土真宗両派、天台宗真言宗、浄土宗、臨済宗日蓮宗などにも及んでいました。

 曹洞宗は40年間かけて回収・供養

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曹洞宗は1981年9月、永平寺において『曹洞宗差別戒名追善供養」をおこない、全1万カ寺以上の寺院を対象に実態調査をおこないました。特に、部落と関係がある寺院約550カ寺については、さらに詳細な追加調査をおこないました。

そこで253カ寺に差別戒名の墓石(145カ寺)・位牌(25カ寺)・過去帳218カ寺)の存在が明らかになり(2006年時点)、下記の基本方針のもと全ての差別戒名に対する改正等の取り組みを実施しています。

 ①「差別戒名」墓石は、差別を隠蔽することにならないように、埋めない」「砕かない」「隠さない」という原則にたち、身元調査に悪用されないように個人墓地から、寺院境内の「合同供養棟」などに合祀するようにしました。

②位牌や過去帳の「差別戒名」は、一般的な戒名への書き換えをおこない、寺院過去帳の書き換えをおこなってきました。

 

 今回、40年間かかり「差別戒名」墓石のすべてを寺社へ移設が完了しました。

2020年6月5日付けの「中外日報」に曹洞宗の差別戒名の記事が掲載されました。

【「差別戒名」が刻まれた墓石を檀家の墓地から三界萬霊供養塔に移設する「改正」作業を進めてきた曹洞宗はこのほど、全国145カ寺にあった全ての「差別戒名」墓石の移設を完了させた。今年3月、最後の1カ寺となっていた埼玉県の寺院で追善法要を営み、あらゆる差別の撤廃と人権の確立の実現に向け、さらなる精進を誓った。

宗務庁は全国寺院へのアンケートや現地調査などを実施し、全国253カ寺に差別戒名が記された墓石(145カ寺)と過去帳218カ寺)があることを把握した。】

  

www.chugainippoh.co.jp

*1: 曹洞宗の指南書・・・『禅門小僧訓』は、禅宗の儀式等の方法などが書かれている本であり、その最初の項目が「餌取ー穢多之事」という「差別戒名」のつけ方が掲載されていました。

江戸時代は『貞観政要格式目』(15世紀初頭成立)、『諸回向清規』(1566)、『無園慈悲集』(1660)など臨済宗や浄土宗の僧侶によって書かれた差別戒名の「指南書」もあいつで出されていました。

ここに脚注を書きます

「部落問題って?」ざっくり言うと(入門編)

1、 部落差別って?

被差別部落(略して「部落」、「同和地区」)は「全国6000部落、300万人」と言われてきました。1993年の総務庁調査では同和地区は全国で4533カ所、同和地区人口(部落外からの転入者を含めた人口)は約216万人。同和関係者(部落出身者)は約89万人います。

現代の部落差別とは、部落に生まれた(育った)、住んでいる(いた)など、部落に地縁・血縁関係などにルーツを持っていたり、そう「みなされた人」への差別です。部落出身者でなくても、部落に引っ越して住むことで世間からは「部落の人」と「みなされて」差別を受けることもあります。

2、 どんな差別があるの?

部落に対する偏見や差別言動、差別投書など日常生活における差別のほかに、結婚差別、就職差別、土地差別(マイホーム購入などで同和地区を忌避)など利害が絡む場面において差別が顕在化しています。また、結婚相手が部落出身かどうか調べる差別身元調査も後を絶ちません。


子どもの結婚相手が部落出身だった場合、5人に1人が「反対」という調査結果があります。
 大分県…37%(2014年)
 熊本県…35%(2015年)
 堺市…20%(2015年)

 3、部落の歴史

江戸時代の身分制度において「武士」「百姓」「町人」とは別に「穢多」(えた)・「非人」(ひにん)などと呼ばれ、身分上厳しく差別れていた人たちがいました。

「えた」身分の人たちの多くは農業などに従事しながら「皮革業」(武具・馬具、太鼓や雪駄)、「竹細工」「村の警備」「神事・芸能」「薬の製造・販売」など、多様な仕事に従事していました。


1871年(明治4年)に「解放令」(賤民廃止令)が出され「えた」「ひんに」と呼ばれた被差別民も「平民」と同様になりました。しかし、人々の差別的慣習や意識は残ったままで、仕事や学校、地域社会などで様々な差別を受けてきました。

4、部落解放運動の歴史 

1922年3月(大正11年)、京都の岡崎公会堂で「全国水平社」創立大会がおこなわれ全国から2000人を超える部落出身者らが参加しました。「人の世に熱あれ、人間に光あれ」と謳われた「水平社宣言」「日本初の人権宣言」とも言われています。

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全国水平社

水平社は、差別者への抗議と謝罪・反省を求める糾弾闘争を展開していきました。「部落民を差別をして何が悪い」と差別が公然化し、被差別者も泣き寝入りをしていた状態を糾弾闘争によって変えていきました。

戦後1946年(昭21)、全国水平社の指導者たちにより「部落解放全国委員会」が結成され、1955年(昭30)に部落解放同盟と改称し、現在に至ります(全国35都府県連に組織)。


戦後の被差別部落は「累積した差別の結果」、劣悪な住環境の実態、長欠不就学、不安定就労など生活レベルにおいても様々な問題を引き起こしていました。

この「実態的差別」の現実が、部落への偏見や忌避意識などの「心理的差別」を生みだし「差別と貧困の悪循環」が続きました。

このような差別の結果の状態を放置していることが差別行政であるとして、行政闘争が展開されていきました。個人の差別意識レベルだけでなく、その差別の結果に対する補償を求めていく闘いが展開されていきます。

 5、同和行政って?

同和行政とは、部落差別解消に向けて取り組む行政のことです。

戦後の部落解放運動の高まりのなかで、1965年(昭40)に内閣「同和対策審議会」答申が出され、同和問題の解決は国の責務であり、国民的課題である」」「寝た子を起こすな」という考えでは差別はなくならいとして、同和問題解決に向けた施策がスタートしました。

1969年(昭44)に同和対策事業「特別措置法」(特措法)が施行され2002年までの33年間、同和地区の住環境整備や教育・福祉・就労対策、同和教育(部落差別解消の人権教育)などが行われてきました。


2002年に「特措法」が失効すると同時に「部落問題は解決した」「終わった」という誤った認識などが広がり、学校や社会教育などでも部落問題に関する研修が激減していきました。

同和行政・同和教育が後退するなかで、逆に部落差別に対する社会規範が緩み、各地で悪質な差別事件が続発していきました。同時に2000年代以降、インターネットの普及により、新たな部落差別の形を生み出し、深刻化していきました。

 

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参議院・法務委員会で「部落差別解消推進法」が可決・成立

6、「部落差別解消推進法」施行(2016年12月)

このような状況の中、2016年12月に「部落差別解消推進法」(以下、「推進法」)が成立・施行されました。

推進法の第1条では「現在もなお部落差別が存在する」として、部落差別の解消に向けて国・地方自治体の責務を明らかにしました。具体的施策として、部落差別解消に向けて

「相談体制の充実」(第3条)、

「部落差別解消のための教育・啓発の推進」(第4条)、

「部落差別の実態調査」(第5条)

など国や地方自治体は部落差別解消に向けて取り組むことが求められました。

 

7、情報化社会における部落差別の深刻化

「部落差別解消推進法」成立の背景には、インターネットを悪用した部落差別の深刻化があります。ネット上の部落差別として

①偏見・差別情報氾濫、

②「部落地名総鑑」(同和地区の一覧リスト)の公開

などの問題が指摘されています。

 

近年はインターネット・SNSを悪用した差別事件が深刻化しています。部落に対する偏見・差別情報の拡散、全国の部落の一覧リスト(ネット版「部落地名総鑑」)や部落出身者の個人情報リストなどがネットに掲載され、各地の部落の動画や画像をブログやSNS上で差別的に「晒す」などの差別扇動が起きています。

 

8、「全国部落調査」復刻版裁判

 2016年2月、「鳥取ループ」と名乗るMという人物が代表を務める神奈川県の出版社(『示現舎』)が、「部落地名総鑑の原点」との見出しで『復刻版 全国部落調査』を出版するとしてAmazonで予約受付を開始し、そのデータを「同和地区wiki」という形でインターネット上でも公開しました。

 

『全国部落調査』とは、戦前、1935年に政府の外郭団体が全国約5300カ所の部落の実態調査をおこなった調査報告書です。部落の所在地・戸数・生活程度などが書かれており、部落地名総鑑の原点」とも言われた本です。

 

1975年(昭50)に発覚した部落地名総鑑』差別事件では、この本が悪用されて『部落地名総鑑』が作られ、大手の企業300社以上が一冊5万円で購入し、部落出身者の就職差別や結婚差別の身元調査に悪用されていました。法務省は10年間かけて663冊を回収し、すべて焼却処分にしました。この事件をきっかけに企業における就職差別撤廃の取り組み、同和問題・人権問題解決の取り組みがはじまりました。

 

鳥取ループ・示現舎は「同和問題のタブーをおちょくる」として、10年ほど前から同和地区の所在地を特定し、ネット上に晒してきた確信犯です。

法務局や行政から何度も人権侵犯事案との指導を受け、裁判でも負け続けていますが、ネット上に同和地区の所在地や動画や画像などをさらす行為を繰り返しています。

2016年3月、解放同盟の訴えをうけて裁判所は示現舎に対して『復刻版・全国部落調査』の出版禁止の仮処分決定を下しました。同年4月にはネット上に掲載された「同和地区wiki」というサイトも削除命令の仮処分決定が下されました。

 現在、部落解放同盟と同盟員ら248名が原告となり、一人110万円、合計約2億8000万円の名誉棄損等の民事訴訟をおこなっています。これまで東京地裁で8回の公判がおこなわれており、今年中に地裁判決が出される予定です。

 

★入門編のおすすめ図書

『知っていますか?部落問題 一門一答 第3版』(解放出版社、2013年) 
『はじめての部落問題』(角岡伸彦、文春新書、2007年)
『土地差別―部落問題を勧化る』(奥田均、解放出版社、2006年)
『結婚差別~データーで読む現実と課題』(奥田均、解放出版社、2007年)
『結婚差別の社会学』(齋藤直子、勁草書房、2017年)

『人権教育への招待』(神村早織・森実編著、解放出版社、2019年)

『部落差別解消推進法を学ぶ』(奥田均、解放出版社、2019年)
「ネットと差別扇動」(津田大介、谷口真由美、荻上チキ、川口泰司、解放出版社、2019年)

関西電力問題について解放同盟が声明!

関西電力高浜町の元助役の金品受領をめぐる問題について、解放同盟中央本部が10月7日に声明を表明した。

主なポイントは下記になる。

 ①「森山氏自身による私利私欲という問題に部落解放同盟としては一切の関与も存在していない」

②1975年の「女性教員に対する糾弾」は解放同盟が関与した差別事件ではない。

関西電力の問題の「本質が同和問題」にあるとする一部の間違った考への反論

④「同和利権」の「風評被害」がネットで増大、高浜町に差別的な文章やメール

⑤明らかにされるべきは原発建設をめぐる地元との癒着ともととれる関係、資金の流れ

⑥「同和利権報道」に対して、カウンターなど多くの団体や個人が批判を展開

 以下が解放同盟のコメントになる。

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福井県高浜町元助役から関西電力幹部への金品受領問題に関する部落解放同盟のコメント

 関西電力の幹部ら20人が福井県高浜町の元助役森山栄治氏(以下、森山氏という)から約3億2千万相当の金品を受け取っていたという問題で、森山氏自身にスポットをあて、森山氏の隠然たる力の背景には、部落解放同盟の存在があり、同和の力を利用し、差別をなくすという名目で、関西電力を恐れさせ、地元高浜町で確固たる地位を築くまでに至ったとする報道内容が一部で取り上げられている。

 また、森山氏が町長をもしのぐ権威をもつに至る背景に、部落解放同盟の存在があり、高浜町関西電力に対してプレッシャーをかけていたとも報道されている。

しかも週刊誌にとどまらずネット上でも、「高浜町助役は、地元同和のドンだった」など、差別的な書き込みが拡散され、社会意識として存在する部落差別意識を巧みに利用した差別文章が流布されている。

マスコミ関係者や一部のネットユーザーなどによって拡散されようとしている部落差別の助長拡大の現状に対して、わが同盟として明確な見解とこの事件に対する同盟としての態度を明らかにしておきたい。

 

まず、その第一には、森山氏自身による私利私欲という問題に部落解放同盟としては一切の関与も存在しないという点である。

森山氏は、1969年京都府綾部市職員から高浜町に入庁している。
1970年部落解放同盟福井県連高浜支部が結成され、福井県内唯一の解放同盟支部の結成ということもあって、部落解放同盟福井県連合会も同時に結成されている。

その結成に尽力したこともあって、森山氏は県連書記長(同時に高浜支部書記長)に就任。2年間書記長の要職に就いている。

しかし、その言動が高浜町への厳しい指摘であったり、福井県に対する過度な指摘等が問題とされ、2年で書記長職を解任されており、それ以後、高浜町の職員として従事するようになる。

確かに解放同盟の関係者であり、県連結成に尽力したひとりではあるが、解放同盟内で影響力を持っていたのは、2年間の書記長当時だけであり、それ以後は、解放同盟福井県連や高浜町支部の運営等において関与することはなく、もっぱら高浜町の助役として原発の3号機・4号機の誘致と増設に奔走したと思われる。

 

第二に、部落解放同盟福井県連(同高浜支部)の状況についてである。

部落解放同盟福井県連合会は、高浜支部の一支部だけで構成されており、その所帯数も80世帯ほどの被差別部落であり、同盟員数に至っても200名ほどの小さい県連の1つである。

福井県に対する交渉においても中央本部役員が同行し、県との協議を進めているのが現状であり、福井県高浜町、ましてや関西電力に大きな影響を及ぼすほどの組織ではない。

 ネットや週刊誌で一部指摘されている1975年の「女性教員に対する糾弾」という事例についても解放同盟福井県連・高浜支部ともにまったく知る由もない出来事であり、解放同盟が関与した差別事件ではないことを指摘しておきたい。

また、関西電力との関係においても、解放同盟福井県連・高浜支部はまったくの無関係であり、関電を相手に交渉を持ったり、要求書を提出したりなどの行為は一切ないこともつけ加えておきたい。

さらには、高浜町福井県に対しては、部落解放同盟中央本部と福井県連との合同の要求書を作成し、提出しており、年に数回程度協議の場をもっているなど、真摯に対応している。

つまり、「原発マネー」や度を超えた同和予算などが高浜町被差別部落に施策として実施された経緯はなく、社会性を持った要求内容であり、行政の議事録を振り返ってもらえれば理解できるものである。

 

第三は、この一連の経過の本質が、同和問題にあるとする一部の間違った考え方への反論である。

森山氏が培ってきた町を支配するかの如き振る舞いは、解放同盟の影響力を利用し、関電との蜜月な関係をつくりあげたのだと一部が報じている。

しかし、第二のところで指摘したとおり、福井県連は、高浜支部のみの組織であり、影響力が決して高いという団体ではない。

また、森山氏自身も1972年から書記長を退任し、解放同盟を離れ、同盟の影響力がまったくない状況時に、森山氏は助役へと上り詰め、高浜町全体に大きな影響力を持つに至るのである。

この一連の事件の本質が同和問題ではなく、原発3号機、4号機の誘致・建設にあると言うことがここからでも理解できよう。

つまり、解放同盟や同和問題という力を利用して隠然たる力を持つに至るという短絡的な問題ではなく、原発の建設運営をスムーズに持って行こうとする福井県高浜町関西電力による忖度が、森山氏を肥大化させ、森山氏が首を縦に振らなければ原発関連の工事が進まないという癒着ともとれる関係にまで膨れあがったのである。

また、助役退任後は、京都に住むところを移し、原発関連の企業の役員となり、権限を振るっていたという事実を見れば、「部落解放同盟の力を笠に着て」という範囲のものではないことが理解できるだろう。

 

さいごに、関西電力がとりまとめた調査委員会による報告書は、森山氏の一方的な叱責、罵倒、恫喝があり、それに臆してしまいズブズブの関係に至ったと記述されている。

そして、それが一部の週刊誌やネットでは、関電がビビった背景に同和がある。解放同盟の存在があると結びつけている。森山氏を高浜町のドンと扱い、逆らう者などいない。

ならず者呼ばわりするために、被差別部落の出身である。解放同盟の関係者であるという「部落は怖いもの」とする予断や偏見を利用し、さらに森山氏をアンタッチャブルの扱いにくい人物に一部マスコミは差別を利用して肥大化させているのではないだろうか。

部落と森山氏を結びつけることで、さらなる「風評被害」がネットで増大されている。高浜町にも差別的な文章やメールが後を絶たないと報告されている。

明らかにされなければならないのは、原発建設を巡る地元との癒着ともとれる関係であり、それにともなう資金の流れの透明化こそが、この事件の本質であるはずだ。

それを部落差別によって、事件の本質を遠のかせてしまうことになることだけは本意ではない。

原発の誘致・建設に至る闇の深さという真相を究明することは棚上げし、人権団体にその責任をすり替えようとする悪意ある報道を許すことは出来ない。
また、いち早くこうした“同和利権報道”に対して、ヘイトスピーチなどに反対してきた多くの団体や個人が批判を展開してくれていることもつけ加えておきたい。

 

2019年10月7日
部落解放同盟中央本部
執行委員長 組坂 繁之

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10/7に解放同盟中央本部が出したコメント

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関電事件は本当に「同和利権」なのか?~週刊「文春」「新潮」の記事をファクトチェック!~

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◆社会意識としての差別意識を利用

週刊文春週刊新潮(2019年10月10日号)は、関西電力高浜町の元助役の問題の背後には解放同盟がいて、元助役からの金品授与を拒否できなかったとのストーリーを展開している。

しかし、今回の金品授与問題で解放同盟が関与していた証拠はどこに示されていない。その証拠も出さずに、社会意識としての差別意識を利用し、共産党町議の証言で記事を展開。

鳥取ループ・示現舎のブログでは「関電が恐怖した高浜町助役は 地元同和のドンだった!」との記事が大反響。百田尚樹や著名なジャーナリスト、一部国会議員も示現舎の記事を参考に「関電問題は同和マター」との発信し始めている。Twitterやネット上では「関電問題=同和利権」としてトレンド入りまでしたという状況。

ただでさえ、今回の関電問題は「江戸時代の時代劇か!」と思わすぐらいの事件であり、社会的な関心も高い。そこに「同和マター」を入れることで、ネット上ではPVを稼げる絶好のネタになる。炎上商法で儲ける人たちにとってもおいしい話となっていく。

◆ネタ元は共産党鳥取ループ・示現舎

元助役を「『人権団体』で糾弾活動」(文春)と見出しに使い、社会意識として存在する「部落=怖い」の差別意識を利用していく。「人権団体を率いて、差別をなくす、糾弾活動の名目で恐怖政治を敷き、高浜町民を手懐けていく、まさに暗黒町政の時代だった」(文春)と地元関係者の証言として共産党町議の声を掲載。

何十年にわたり部落差別の存在を否定し、同和行政に反対し続けてきた共産党の地元町議の主張をベースに記事が展開。記事は「部落地名総鑑」出版事件の被告である鳥取ループ・示現舎のブログに掲載された三品純の記事と類似。本人が週刊誌に原稿を持ち込んだのかと思ったぐらい同じスタンスで書かれている。

「元助役=部落民?=解放同盟=糾弾=同和利権」のストーリーで、今回の問題の「本質」を「同和利権」「解同=糾弾」にすり変えていく典型的な印象操作。

◆フェイクと印象操作、ファクトから考える

ここで取り上げられた記事は約40年前の教員差別事件。しかも、これは解放同盟として行った糾弾会でない。そして、過去、多くの差別事件を「部落差別ではない」としてきた共産党の主張をもとにした一方的な記述。

そもそも高浜町でこの数十年間、解放同盟が行った糾弾会は10回もない。確かに、元助役は50年前に1~2年程、解放同盟で活動してたと記事には書いている。しかし、その後、町職員となってからは解放同盟の役員として糾弾会を実施した事実はなく、完全なフェイクである。

◆「同和行政=同和利権」という偏見

ただし、行政幹部として同和行政や同和教育に熱心に取り組んできた方ということは事実とのこと。差別と貧困の厳しい実態を改善するための対策として、国が特別措置法を制定し33年間にわたり格差是正と部落差別解消の取り組みを実施してきたのは事実である。

一部に不祥事はあったが、その多くは適正に実施され行政監査や議会承認を受けて実施れてきた。その結果、貧困や進学、進路保障など多くの成果があったことも事実。2002年、約20年前に「特措法」は失効した。

行政幹部が部落差別解消に向けて対応するのは当然であり、それの何が問題なのか。しかも、元助役は30年前の1988年に助役を退職し、今年3月に90歳で亡くなっている。
今回の金品授与問題に解放同盟支部がどう関与したのか、そんな証拠もしめさず、背景に部落問題、部落出身?というストリーを展開していく。

◆デマであれば自らも加害者になる自覚を

とにかく、現時点で明確な根拠や証拠もないのに「関西電力=解放同盟が~、同和利権が~」というノリで、拡散する人たちは、それが事実でないときは、部落に対する予断と偏見を広め、差別意識を増幅する加害者となっていることを自覚しておいてほしい。「森友問題=同和利権」のフェイクを思い出す。

今回の問題、「メディアと差別報道」「フェイクと差別扇動」「ニューレイシズム」の象徴的な部落差別の事例となっており、「部落差別解消推進法」施行3年の成果を一瞬で吹き飛ばす事態にならないか心配している。

メディアも含めて、しっかりとした対応をお願いしたい。

メルカリでの「部落地名総鑑」出品事件が問うもの

 

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 「全国部落調査」復刻版裁判の第8回弁論手続が9月11日、東京地裁で開かれ、原告・解放同盟の弁護団から準備書面が提出された。今回の準備書面では、示現舎がばらまいた同和地区情報により広範な二次被害が生じている現実などが提起された。


メルカリで「復刻版」が3冊出品
 今年1月~3月にかけて、インターネット上のフリーマッケである「メルカリ」において、本件出版物である『復刻 全国部落調査』そのものを印刷した出版物が3冊販売されるという事件が発生した。

唐津市の職員が当該出品を発見、佐賀県が「メルカリ」本社に対して取引中止を要請し、本社が出品を取り下げた。しかし、その間、すでに3冊落札されていた。

出品者は高校生 本人は反省・県へ
 出品者は佐賀県内の高校生3年生(出品当時)であった。

出品者は今年3月22日、ネットニュースで自分の販売行為が記事で掲載され、社会的に大きな問題になっていることに驚き、佐賀県に連絡。3月29日に県職員と面談し、追加製本した2冊を同課に引き渡し、陳謝した。

出品者は高校1年生の時、現代社会の授業で部落問題についてふれたことをきっかけに、示現舎のサイトを閲覧。全国の被差別部落の所在地などが掲載されており、自分も所持しておきたいと2017年2月から3月にかけて『復刻版 全国部落調査』のデーターを3冊印刷して製本。

友人に見せたがあまり反応がなく、その後、放置していた。

高3になり、部屋の整理をきっかけに2019年1月に最初の1冊をメルカリに出品したら5555円という高額で売れたことに驚き、続いて残りの2冊も出品し、3500円、5000円で落札された。短期間でこれだけ高額で売れて需要があるのだと実感し、追加で2冊を製本して出品しようとしたころで、販売中止になった。

 

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◆「売れれば良い」と安易な気持ちで出品

3月下旬、佐賀県が本人と面会、事情聴取をおこなった。

出品者は部落について中学生の時に学習した記憶はある。高校1年生の時、社会の授業で先生が部落問題について話したが、「あまり詳しいことについては触れられなかったのでもっと知りたい」と思い、ネットで検索したら示現舎のブログや全国の部落の地名が書かれたサイト、『復刻 全国部落調査』のPDFデータを配布するサイトを見た。

出品した高校生は「部落地名総鑑の原点」とタイトルが表紙に書かれてあったが、「部落地名総鑑」が就職差別や結婚差別などに悪用されてきたものであるとは知らなかったという。

示現舎のサイトをみて「復刻版」が出版禁止になっていることは知っていたが、原告の解放同盟が出している情報については知らなかったとのこと。

本人は「出品時に部落差別につながるとい認識はなかった。希少な書籍のようなので売れればいいなくらいの安易な気持ちだった」と応えた。

  ◆事件の背景・問題点と課題 

 示現舎のバラマキの結果

今回の事件は、示現舎が裁判所から出版禁止の仮処分決定を受けた後、開き直り、『復刻版 全国部落調査』のデーターをPDFで無料公開し、拡散を煽り、キンドル版での作成方法までを指南し扇動した結果、生じた事件である。

 ②問われる学校同和教育

 今回の出品者は現役の高校生であったことは、これまでの学校同和教育のあり方が問われている事件でもある。

本人は社会の授業などで、部落差別については学習した記憶はあるが「あまり詳しいことには触れられなかった」「出品時に部落差別につながるとは思わなかった」と言っていた。

過去、そして現在、どれだけの人が身元調査により結婚差別や就職差別に苦しめられてきたのか、「部落差別が現存する」社会において「部落地名総鑑」がいかに危険なものであるのか「差別の現実認識」が欠落していた。

「顔の見える」部落問題学習、「差別の現実から深く学ぶ」学習が求められている。

 ③「部落地名総鑑」の売買の禁止

部落地名総鑑」の売買を可能にしていたメルカリの責任が問われている。唐津市の職員から報告を受けて、佐賀県はすぐにメルカリへ販売中止を求める連絡を名何度も入れたが無視されていた。最終的に2月4日、佐賀県の部長名による「内容証明」郵便でメルカリ本社へ送付して初めて応答があり、販売中止となった。

今後、「部落地名総鑑」(『復刻  全国部落調査』)などが通販サイト・オークションサイトで出品禁止されるよう、業界団体あげてのガイドライン・ルール作り、法整備が求められている。

④政府、法務省の課題

今年5月22日、解放同盟と法務省との政府交渉がおこなわれた。そこでは、落札された3冊(『復刻 全国部落調査』)を法務省が回収したのかが問われた。法務省は回収しておらず、メルカリにも回収依頼の要請をおこなっていないことが明らかとなった。

1975年に発覚した「部落地名総鑑」事件では、法務省は10年間かけて663冊を回収し、すべて焼却処分した。今回も購入者は企業や探偵事務所などの可能性もあり、それらが部落出身者の差別身元調査に悪用される危険性が高いために、早急に回収するべきだとの声が相次いだ。

メルカリは、登録した出品者、購入者はすべて会員であり、購入者の名前や住所等の個人情報を把握している。そのため誰が購入したのかは自明のことなのである。裁判所から出版禁止の仮処分が出されている本であるにも関わらず、法務省が放置している現状は許されない。

メルカリでの「部落地名総鑑」出品事件は、まだ終わっていない。

ここで問われた課題をしっかりと受け止め、「部落差別解消推進法」の具体化に向けて、プラットホーム事業者の社会的責任や法の不備、学校同和教育の充実、差別禁止法、人権侵害救済法の必要性も含めて議論していく必要がある。

第7話「違反通報とポジティブ情報の発信」~ネット社会と部落差別⑦~

ネット差別に対して、個人でもやれることがある。

(1)違反通報

 差別投稿を見つけた場合は、できるだけ「違反通報」を行うことも大事である。TwitterYouTubeなどの大手のSNSは、差別や人権侵害に対して「通報」フォームが設けられている。通報が多いほど、担当者の目にもとまりやすくなる。

 2018年春、「ネトウヨ春のBAN祭り」と称し、ネット上のヘイト動画に対して、大量の違反通報が行われた。その結果、多くのヘイトスピーチ動画が削除された。また、ヘイトサイトに掲載されている広告主に通報し、企業が広告配信を停止しはじめる動きも起きている。

  現実社会では、殺人などの犯罪を目撃したら警察に通報する。火事を発見したら消防車を呼ぶ。ネット空間でも同様である。差別的書き込みを目撃したら放置せずに、しっかりと通報し、対応を迫ることが大事である。

差別投稿・デマ情報が放置されることで、どんどん環境が悪化していく。印象操作・デマの拡散が広がっていく。差別投稿は犯罪という意識をもち、通報、除去させていく取り組みを、誰もが当然のこととして、行えるようになることが大事である。

 

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(2)「カウンター投稿」と「デマ」の否定

差別投稿や質問サイトに、積極的にカウンター投稿をしていくことも重要である。ネット上の差別情報を放置することで新たな差別と偏見が拡散されていく。できるだけ多くの個人がカウンター投稿や情報発信することが重要である。

Yahoo! 知恵袋」の部落問題についての質問は同じ内容も多い。回答にそなえて、基本となるしっかりしたテンプレート原稿を作成しておく取り組みなども必要だ。

デマは「本人がデマであると知るまでは真実であり、事実である」ため、デマ情報に対してははっきり否定し、正しい情報を提示する。デマや偏見情報をネット上で無視し続けることは、結果として差別・偏見を助長し続けることになる。デマを否定する投稿が重要である。

そして、ネット上に蔓延する部落問題のネガティブな情報をはるかに凌駕するほど、ポジティブな情報をどんどん発信していくことが求められている。

 

(3)SNSを活用した情報発信、教育・啓発

部落差別を解消するための「教育・啓発」(「部落差別解消推進法」第5条)にとっても、ネット上での情報発信は非常に重要であり、自治体や各種団体、個人などがネット上での情報発信に積極的に取り組む必要がある。

まずは、若者たちや学生、部落問題を知らない人、もっと学びたいと関心を持ってくれた人たちが、部落問題について、学べる総合情報サイトの作成が必須である。

部落史や芸能・文化、音楽、解放運動史、同和行政、同和教育、差別事件、様々な切り口で動画や写真、マンガなどを使って誰もが気軽に学べるサイトが必要である。

「ネットはデマや差別的サイトも多いので、どのサイトならちゃんと学べますか」などの質問を私もよく受けるが、自信を持ってお勧めできるサイトが少ないために、困ってしまう。

すでに、認定NPO法人ニューメディア人権機構のホームページ「ふらっと」などがあるが、ネット上では部落問題のサイト、ポジティブ情報の発信が決定的に不足している。

ネット対策、メディア戦略は部落差別解消にとって非常に重要であり、行政や運動団体・研究機関などが予算と人員を配置し、総力を挙げた取り組みを進める必要がある。

たとえば、ネット版『部落問題・人権辞典』の作成と無料公開、ウィキペディア「部落問題」関連項目への積極的な投稿、部落問題の総合サイト・ニュースサイトの作成、SNSを活用した情報発信などは、すぐにでも取りかかれる。

YouTubeなどを利用して、動画でのCMや啓発動画を募集するなどしてみてはどうだろうか。すでに行政や教育委員会で人権ポスターや人権フォトコンテストなどを実施している。同様に動画サイトでの「部落差別解消推進法」の周知など、ネットを使った様々な取り組みも検討していく必要がある。

 また、教育委員会や人権教育研究協議会などが、部落問題や各人権課題を学ぶ際に「おすすめサイト」のリストなどを作成し、紹介するということも求められている。

 

(4)ネットを活かした反差別・人権運動の展開

    個人においても違反通報やカウンター投稿、ネット上での正しい情報発信などの取り組みを積極的に行っていくことも重要である。2011年に開設された「BURAKUHERITAGE」は、東京や大阪の部落出身者の若者や研究者などの有志が立ち上げたサイトである。個々人の体験や思いを軸に、部落に関わる多様な情報発信をしている。イベントや学習会なども開催し、反差別の緩やかなつながりを広げている。

また、若手の活動家や研究者などの有志が、前述した「ABDARC」を立ち上げ、『全国部落調査・復刻版』裁判の支援サイトを開設し、TwitterFacebookなどのSNSを活用して情報発信し、イベントや学習会を開催している。サイトには、若者たちにわかりやすく裁判情報や部落問題の基礎などを学べるコンテンツが作られている。部落問題や裁判に関するQ&A、お勧めの本、裁判用語や傍聴日記など、ネットを活かした新しいスタイルの部落解放運動が展開されている。

ABDARCは、部落出身の当事者だけでなく、反ヘイトスピーチのカウンターやLGBT、障害者差別、反貧困、反原発、環境問題などに取り組む多様な人たちが集まっているのが特徴だ。私もABDARCのメンバーとして関わっている。

また、私も個人的にSNSなどを通して反差別の情報発信をしている。差別の現実や部落問題についての情報発信をすることで、部落問題について関心を持ってくれたり、裁判を支援してくれる仲間も増えてきた。ネット上での新たな反差別のネットワークが広がっていることを実感している。

ネットが差別を強化している状況がある一方で、差別をなくしていく大きな武器にもなる。差別的書き込みへのカウンターや差別記事投稿者をブロックして集中包囲することもできる。インターネットを基盤にしている差別者に対しては、それなりの闘い方もある。ネットのマイナス面だけでなく、プラス面を活用し、部落差別や人権問題の解決に向けて取り組んでいきたい。

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2017年6月、ABDARCのイベントが上智大学で行われ、学生や多くの人が参加。

最後は、やっぱり人権・同和教育が大事!

最後に、ネット対策はあくまでも「対策」であり、やはり現実社会での人権教育、部落問題学習が大切である。今後、デジタル・メディアリテラシー教育としての人権学習という視点も重要である。

「寝た子を起こすな」論はもう通用しない。「寝た子はネットで起こされる」時代になった。子どもたちや若者がネット上の差別的情報を見たとしても、「だから、どうしたんや!」と言える力、差別や偏見・デマ情報を鵜呑みにしない力をつける必要がある。そのために、ネット対策だけでなく、最低限の部落問題学習をどの学校でも実施する必要がある。

近畿大学の学生を対象にした意識調査では、「部落問題の学習経験がない・覚えていない」が2009年は2割だったが、2015年は4割であった。全国的に同和教育、部落問題学習が後退している。また、関西圏の大学生を対象にした調査においても、「部落出身の知人・友人が、いない・わからない」が85%にのぼる。学生や若者にとって部落や部落出身者は抽象的な「記号」となり、リアリティがなくなっている。

   その意味では、人権・部落問題学習においては歴史だけなく、部落差別の現実や当事者の話を聞くなど「顔の見える部落問題学習」「当事者との出会い学習」などが重要になってくる。

    部落差別解消推進法の第5条には「教育・啓発の充実」が明記されている。学校や地域、職場などあらゆる場において部落差別をなくするための学習機会を保障することによって、今日に厳然する部落差別を撤廃していくことが基本であることを確認しておきたい。

第6話 「企業のネット対策」~ネット社会と部落差別⑥ 

企業のネット差別対策としては、以下の取り組みがあげられる。


①「差別禁止」規定を利用規約

インターネットサービス提供業者は、企業の社会的責任として、差別投稿を放置せず、差別問題の解決に向けて、主体的に取り組む必要がある。そのために、サービス提供時に、利用者との契約約款(利用規約)に「差別投稿の禁止」事項を設け、差別投稿に対する通報窓口を設け、差別投稿の削除をすることが求められる

ヘイトスピーチ対策法」「部落差別解消推進法」(2016年)の施行を受けて、2017年3月プロバイダ・通信関係4団体は「違法・有害情報への対応等に関する契約約款モデル条項の解説」を改訂した。

注目されるのは、「契約約款モデル」第1条の禁止事項「不当な差別を助長する等の行為」という規定に「不当な差別的取扱いを助長・誘発する目的で、特定の地域がいわゆる同和地区であるなどと示す情報をインターネット上に流通させる行為」が該当するとした点である。今後、この「契約約款モデル」に準じて、実際に各事業者の約款を改訂する作業を進めさせていくことが重要となっている。

また、業界団体において部落差別投稿における削除基準(ガイドライン)を策定することで、削除判断が行い易くなる。自社での削除判断に迷う場合は、第3者機関で審議する場を設定するなどの仕組みも検討する必要がある。

くり返すように、急務の課題は、被害者からの削除要請を受けて対応する「事後対応」でなく、ネットサービス配信企業の社会的責任として、差別投稿をさせない「事前対応」である。

すでに日本でも「児童の保護」犯罪等への対策として、Mobage(モバゲー)、mixi(ミクシー)、GUEE(グリー)などの会社は、24時間365日、200~400人の体制で違反書込をチェックしている。システムがNGワードを自動チェックし、グレー判定された投稿がスタッフに通知され、削除される。

MIXI規約違反の悪質書込み、違反常習者は退会処分される。過去に未成年の子どもや女性などが犯罪に巻き込まれる事件があり、企業が提供するサービス(商品)の社会的信用を担保するための必要経費と位置づけ、人件費をかけて対応しているという。

ホームページ、ブログ、掲示板、SNSなどネットサービスは、すべてサーバー内のコンピューターを通過する。したがって、差別語・侮辱語の自動収集チェックのシステムを導入し、発信者に警告を表示することも技術的には可能であるが、「不適切ワード」を自動的にチェックするのみの対応は、かつてメディアが行った「禁句マニュアル」と変わらない。

差別語をいっさい使わずに差別することは可能であり、ヘイトスピーチを行うことも可能である。また逆に、差別問題をどうなくしていくかを議論するサイト上で交わされる言葉も「不適切ワード」に引っかかる場合もあり得る。

つまり、言葉のみをピックアップして削除するだけでは解決にはならず、悩ましい問題が残る。だからこそ、先にあげてようにネット上の部落差別についての削除基準が重要となる。

②差別サイトへの広告配信の停止(経済制裁

民間企業でも、差別サイトに広告配信をしない、広告撤退をする動きが出始めている。悪質な差別サイトほど閲覧数が多く、広告収入で儲けようとするサイト運営者の活動資金となっている。だからこそ、差別サイトからの広告撤退は、ネット差別に対する有効な取り組みとなっている。

ヘイトスピーチなどの温床となってきた「保守速報」という有名な「まとめサイト」がある。在日朝鮮人の李信恵さんが同サイト管理人を訴えた裁判で2018年6月、大阪高裁は同サイト管理人に200万円の支払いを命じた地裁判決を支持した。

判決では、李さんへの民族差別や誹謗中傷が「人種差別及び女性差別にあたる」として、ヘイトスピーチ女性差別の複合差別であることを認めた。

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同サイトへの広告を掲載するエプソンに対して、市民がその事実を通報した。エプソンは自社の広告が掲載されている事実を知らなかった。翌日、エプソンは「保守速報」への広告配信を停止した。その後、次々と「保守速報」へ広告配信していた企業が撤退し、最終的に全ての企業が広告配信を停止した。

その結果、同サイトは収入源を絶たれ、サイト運営が厳しい状況に追い込まれていた。(BUZZ FEED NEWS「嫌韓サイト」はなぜ黙認されていたのか?「保守速報」から広告会社が自主的に撤退 2018/06/23)

この件から浮かび上がったのは、広告配信業者も「差別禁止」規定があることは知っているが、膨大な配信先のサイトをすべてチェックしきれていないという実態だ。ネット広告に掲載する企業、それを取り次ぐ広告配信企業などに、ヘイトサイトや部落差別を助長するサイトへの広告配信の停止を申し入れることは、差別サイトの運営に大きな影響を与えることが出来る。

鳥取ループ・示現舎も、『全国部落調査・復刻版』出版事件が国会で取り上げられたさい、「社会的な話題となるほど、自分たちのサイトの閲覧数が増え、広告収入で儲かる」とTwitter上で公言していた。

ネット上の広告配信の際に、「差別サイトには掲載しない」という条件を企業がつけることで、差別サイトへの収入源を絶つことができる。この取り組みは、ネット上の差別問題の解決に向けて大きな役割を果たすことになる。

③ネット上の『部落地名総鑑』の回収・規制

鳥取ループ・示現舎との裁判が決着しても、すでにネット上に大量に拡散されたネット版『部落地名総鑑』をすべて回収するのは困難である。しかし、検索サイトでフィルタリングをかけて表示できなくすることや、検索上位に表示させない対応は技術的には可能である。

すでにYahoo!では、有害サイトフィルタリングサービスを無料で配信しており、「自殺サイト」「学校裏サイト」「アダルトサイト」「暴力」「出会い系」などの「違法・有害情報」を専門スタッフが最新情報を収集・管理し、フィルタリングをかけて表示できないようにしている。

この数年、日本国内だけでなく、世界各国で「ナチスによるホロコースト(ユダヤ人虐殺)はなかった」という差別的デマの投稿が勢いをましている。Google社は検索エンジンで、ユダヤ人虐殺の「ホロコースト」の歴史的事実を否定するサイトなど「信頼できない情報」は、検索上位にならないよう、検索エンジンの表示方針を見直している。

Facebook社は2016年12月末からフェイクニュース拡散防止対策として、ニュースが「虚偽かもしれない」場合、報告できる仕組みを導入した。報告を受けた記事は、報道機関などが入る第三者機関のチェックを受け、虚偽とされた記事には警告や、なぜその記事が「フェイク」なのかの理由まで表示するようにしている。

次にSNS対策に乗り出したドイツの取り組みを紹介したい。

ドイツのネット対策の取り組み

ドイツでは2018年1月1日より、「ネットワーク貫徹法(SNS対策法)」(ソーシャルメディアにおける法執行を改善するための法律)が施行された(2017年9月成立)。ヘイトスピーチフェイクニュース、違法コンテンツの速やかな削除をソーシャルメディアに義務づけた。

ドイツではヘイトスピーチは刑法の「民衆扇動罪」に当たり、違法である。また、ホロコースト否定やナチス称賛などの投稿は、違法とされている。新法では、「明らかに違法な」投稿を24時間以内に削除しないサイトは、最大5000万ユーロ(約68億


円)の罰金が科せられる(ただし違法かの判断に時間を有する場合は1週間の猶予あり)。規制の対象は利用者200万人超えのSNSとメディア企業で、主にFacebookYouTubeTwitterなどが対象である。

SNS対策法」ではSNS事業者に、違法内容「削除義務」「苦情対応手続(違法通報窓口)整備義務」「苦情対応状況の報告義務」を課し、これらの義務に違反した場合の過料が定められた。

SNS対策法がドイツで成立した背景には、ドイツ国内で2015年以降増加し、100万人以上を受け入れた難民の存在がある。難民の犯罪が増えたなどの排斥運動、ネット上でのヘイトクライムが2年間で3倍に増加し、何千、何万人のヘイトデモが各地で起きつづけているからである。法案成立に批判もあったが、マース法務相は「表現の自由は刑法に抵触するものまで認められているわけではない」と述べている。 

これらの取り組みは、EUでも進みはじめており、今後、ネット対策の先駆的な取り組みとして、注視していく必要がある。 

 

★参考文献

津田大介『情報戦争を生き抜く 武器としてのメディアリテラシー』(朝日新書、2018.11)

 

第5話 行政がモニタリング(削除要請)を開始!~ネット社会と部落差別⑤~

(1) 行政の取り組み

①モニタリング(削除対応)実施と当面の課題

行政はネット上の部落差別の実態把握につとめ、差別投稿の削除に取り組む必要がある。すでに、三重県兵庫県鳥取県滋賀県(人権センター)、香川県香川県人権啓発推進会議)、奈良県全市町村(「啓発連協」)、広島県福山市兵庫県尼崎市伊丹市姫路市三田市、埼玉県内、大分県内や鳥取県内、山口県内の自治体では人権担当課や民間団体等の協力を得てモニタリング(ネットパトロール)が実施されている。

今後、全国の自治体でモニタリングが実施されるように取り組むと同時に、各地のモニタリング結果を集約し、ネット上の部落差別の実態把握を行う仕組みが必要である。

県や市町村が実施するモニタリングは、当該自治体の情報を中心にチェックするため、他の自治体に関連する投稿の場合、削除要請等に動いていないケースも多い。

また、掲示版や差別サイトには、地元以外の差別投稿も発見するし、県や市町村をまたいで投稿されているものある。そのため、都道府県レベル、全国レベルでの実態を集約する必要性がある。

今後は「モニタリング団体連絡協議会(仮)」などを立ち上げ、各地のモニタリング結果の情報を集約する仕組みをつくり、ネット上の部落差別やヘイトスピーチ等の実態把握と課題整理、ネット人権侵害、部落差別の解決に向けて効果的に取り組んでいく必要がある。

すでに、(一社)部落解放・人権研究所の第6研究部門では2017年度より「ネットと部落差別研究会」を立ち上げ、ネット上の部落差別の実態把握と対策に向けた研究が行われている。

2018年7月には「第1回モニタリング団体ネットワーク会議」が行われ、モニタリング団体のネットワーク化、情報交換の学習会が実施されている。

2018年12月には「ネットと部落差別研究集会」を開催し、モニタリングの普及=ネット上の部落差別の実態把握(立法事実の収集)と対策に向けて動き始めている。

 

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2018年12月15日、「ネットと部落差別」研究集会(大阪市内)。写真右から荻上チキ(評論家)、谷口真由美(大阪国際大学准教授)、津田大介(ジャーナリスト)、川口泰司(山口県人権啓発センター)

 

②削除基準・ガイドラインの作成

差別投稿などの削除要請をより効果的に実施するためにも、国や地方自治体レベルで、どのような内容の投稿において削除要請を行うのかなどの基本方針(ガイドライン・削除基準)の作成が急務である。

ヘイトスピーチ解消法」施行(2016年6月)を受けて、法務省は「ヘイトスピーチ対策プロジェクトチーム」を立ち上げ、「何がヘイトヘイトスピーチにあたるのか」の一定の基準を整理し、「参考情報」として希望する自治体に公表してきた。


部落問題においても同様に「どのような行為を部落差別とするのか」の基準設定を進める必要がある。国が削除基準を設けることで、モニタリング団体や市民の削除要請やプロバイダ等の削除対応が行いやすくなる。

2004年から三重県のモニタリング事業の委託を受けて、削除要請に取り組んできた(公財)反差別・人権研究所みえの松村元樹事務局長は、ネット上の部落差別についての削除基準をつぎのように示している。

(1)同和地区の所在地を公開する・問い合わせる・教示する投稿(差別を助長・扇動・誘発することを目的もしくは結果として差別を招来する可能性があるかたちで)

(2)同和地区への土地差別や同和地区関連の物件忌避につながる投稿

(3)同和地区出身者の身元調査につながる投稿

(4)同和地区出身者を本人同意なくアウティング(暴露)する投稿。

(5)同和地区出身者との結婚差別・交際時における差別に関する投稿

(6)同和地区や同和地区出身者への差別意識や偏見を助長・扇動する投稿

(7)同和地区や同和地区出身者への誹謗中傷や攻撃的な投稿など

※松村元樹「ネット対策の現状と課題」(『ネット上の部落差別と今後の課題』、2018年)より

上記(1)~(7)の削除対象の基準は、長年にわたる部落解放運動、同和行政の取り組みの結果、現在では部落差別事象として判断し、対応しているものである。法務省地方自治体、業界団体では上記のような基準(ガイドライン)の作成に、今後、取り組んでいく必要がある。

現実社会では賤称語を使用した差別落書きや差別発言、同和地区を調べる土地差別、身元調査、差別問い合せなどは、行政も部落差別事案として対応してきた。

ネットからリアルに波及して差別事件が次々と起こる中、ネット空間も公共圏と見なされるべきであり、公の言論社会なのである。現実社会においてアウトな差別的言辞は、ネット上でもアウトであり、許さない、放置しないという対応が当然求められている。

総務省がブロバイダ業界団体へ要請

2017年1月、総務省は国内のプロバイダー大手4団体に対して、部落差別解消推進法、ヘイトスピーチ解消法に踏まえた差別投稿への対策を要請した。

2017年3月、業界団体は「契約約款モデル」で「差別を誘発・助長する目的での同和地区情報の掲載」と「ヘイトスピーチ」を差別禁止規定に該当するとの解説改訂をおこなった。

法務省が同和地区情報の対応を強化(2018年12月通達)

2018年12月、法務省は地方法務局にネット上にある同和地区(被差別部落)に関する情報の対応強化(削除要請)の通達を出した。

法務局は、従来は特定の人物を対象としていたり、差別の助長・誘発が目的だったりする場合に限ってプロバイダーなどに削除要請をしていたが、目的に関係なく、特定地域を同和地区であると明示していれば原則として削除を要請するとした。(学術研究等は除く)強制力はないものの、これまでの運用に比べ、踏み込んだ対応となる。

 ④ネット被害者は自力救済

しかしながら、ネット空間のほとんどの差別的書き込みが放置されている現況は否めない。

ネット上で人権侵害を受けて法務省・地方法務局に相談しても、現状では基本的に被害者本人がプロバイダ等へ削除依頼を行わなければならない。

自分で被害を回復することが困難な事情がある場合や削除されない場合に、初めて法務局がプロバイダ等へ削除「要請」を実施することになる。

2017年に法務省・地方法務局がネット上の人権侵犯事件として処理したのは2217件で過去最高であった。

しかし、法務省がプロバイダ等へ削除「要請」をしたのは25.6%(568件)である。大半は被害者に「プロバイダ責任制限法」にもとづく削除要請の方法等を教える「援助」という対応である。*1

個人で削除依頼をしても、なかなか削除してもらえない。

海外サーバーを経由している場合、サーバーが置かれている国の言語と法律で依頼する必要があり、削除対応はもっと困難になる。苦労の末、仮にその投稿を削除させることが出来たとしても、再び書き込むことが容易であり、同じことが繰り返される。

たとえ、書き込んだ相手の特定ができて、名誉毀損などで民事訴訟を起こしても、損害賠償の金額以上に裁判費用がかかり、経済的にも精神的にも負担が大きい。

また、裁判中には個人攻撃なども増え、被害がより悪化する恐れがある。現状ではネット被害者は圧倒的に不利な状況である。*2

⑤相談体制の充実

こうした状況にあって、行政や地方自治体などが、ネット上の人権侵害の被害者に対する相談窓口を設置し、相談体制の充実に取り組むことが求められている。

現在、総務省の外郭団体として「違法・有害情報相談センター」、法務省には「インターネット人権相談受付窓口」があり、インターネットで相談を受け付けている。

しかし、年々増加するネット人権侵害の相談に対して、相談員の数や体制などが圧倒的に追いついていない状況がある。

「部落差別解消推進法」では国・地方自治体に対して「相談体制の充実」(第四条)が求められている。

まずは、ネット上の人権侵害に対する相談窓口を設置し、市民へ周知する事が急務である。そして、被害者の権利回復の支援が出来る相談員のスキルアップ、関係機関との連携・充実などに取り組む必要がある。

⑥「プロバイダ責任制限法」と同ガイドラインの改正

被害者救済の課題としては、法制度の問題がある。「プロバイダ責任制限法」(2002年)施行により、被害者から要請があった場合、プロバイダは「発信者情報の開示」と「削除」が可能となった。

しかし、「発信者情報の開示」は、損害賠償請求などで訴訟する場合のみの対応であり、ネット上での被害、人権侵害を被っていても訴訟をしなければ開示されない。

プロバイダによる「削除」も、実際には裁判所からの仮処分決定などの明確な違法性が証明できない限り、現状では訴訟リスクを怖れ、プロバイダは容易に削除しない。

実行性を高めるためには法改正をおこない、「発信者情報の開示請求」の条件緩和、差別投稿を削除してもプロバイダに賠償責任が生じないという「免責」事項を設ける必要がある。

そもそも、被害が起きた後の「発信情報の開示」「削除」という「事後」対応でなく、差別投稿をさせない「事前」対応が重要である。

たとえば現実社会では、駐車場でも公園でも、場を提供している側には「安全管理義務」がある。提供している場で違法行為や危険行為が行われると、利用者が被害を受ける危険があり、損害賠償責任が生じる恐れがあるからだ。

SNSなどの「場」のサービス提供事業者にも「安全管理義務」が当然求められるが、ネット上ではほとんどの差別的書き込み・差別デマが放置されている。つまり、差別が許されているのだ。

現状ではネット上でのサービス提供事業者には、ネットの書き込みを常時監視する義務はない。「プロバイダ責任制限法 名誉毀損・プライバシー関係ガイドライン」(第3版2011年、補訂2014年)には、「常時監視義務がない」とされている。今後、同ガイドイランの改正を行い、具体的な対策を行うことが求められている。 

 

*1:法務省「平成29年における「人権侵犯事件」の状況について(概要)」(2018年3月20日、報道発表資料

*2:佐藤佳弘「ネット人権侵害の現状と被害者救済の課題」『ネット上の部落差別と今後の課題』(2018年、部落解放・人権研究所編)

第4話「部落地名総鑑」公開、「晒し差別」の被害~ネット社会と部落差別④~


(1)
地域や職場では

部落差別の克服に向けて、行政や教育現場、企業や宗教界などが長年にわたって積み上げてきた取り組みを、インターネットの便利な機能を悪用した鳥取ループ・示現舎は、一瞬で破壊してしまった。

鳥取ループ・示現舎は、「部落地名総鑑を公開しても深刻な差別なんか起きない」と主張している。

しかし、すでにネット上では「どこが部落か」「部落出身者かどうか」を調べるためにウエブ版『復刻 全国部落調査』や『同和地区wiki』が参照され、結婚相手の身元調査や不動産取引における土地差別調査(同和地区か否かの調査)、行政等への同和地区問い合わせ事件も起きている。

鳥取県内の町役場では、ネット版『復刻 全国部落調査』を見た人物から同和地区かどうかの問い合わせ電話がかかってきている。

電話の主は、自分の娘の結婚相手がその町の出身で、「ネットで調べたら同和地区一覧に出ている地名なので、本当にこの地区は同和地区かどうか教えて欲しい」と問い合わせてきた。

【具体例】「YahOO!知恵袋」より(BA=ベストアンサー)

質問者A「大阪市○○(地名)は被差別部落の地域なのでしょうか?」(2017/5/17)

BA→「同和地区.COM(リンク先アドレス)……詳しくはそちらに照らし合わせてご判断下さい」

 

質問タイトル「同和地区について」(2017/12/26)

質問者B「たまたま嫁ぎ先の姓をネットで検索していたら〇〇県同和地区WIKIというWikipediaに、夫の実家と姓が同和地区であると書かれていました。……夫の実家がほんとに同和地区であるか調べる方法はありますか?」

 

質問タイトル「部落地名総鑑(ネット版)の正確度/信葱性に関して」(2017/8/4)

質問「私の出身地を上司に伝えたところ、数日後に『被差別部落だね。ご愁傷様』と言われ驚愕しました。何故そう思うか確認したところ『インターネット版の部落地名総鑑や同和地区wikiに載っていたから』とのこと……。」 

 

 滋賀県内のシルバー人材センターでは2017年3月、男性が喫茶コーナーに県内の同和地区一覧リストを置いて、自由に持ち帰れるよう配布していた。

配布資料には「同和地区WIKI」の情報が利用され、滋賀県内の同和地区の住所一覧(市町村別、地区名、戸数、人口)などが書かれていた。また、配布用資料には、県内の同和地区情報だけなく、同和地区出身者や在日コリアンの有名人など100名以上の個人名がリスト化されていた。 

(2)学校現場への影響

ネット上には鳥取ループ・示現舎が拡散した『同和地区wiki』のコピーサイト、類似サイトが多数存在している。これらのサイトは、「部落」「同和」で検索をするとアクセス数が多いために、検索画面の上位に表示される。

スマホを持つ子どもたちが、ネットで部落問題について知ろうとすれば、差別的情報を真っ先に閲覧することになる。

ある中学校では、子どもたちが興味本位で地元の部落を調べ、学校で部落出身者暴きをしていた事件も起きるなど、すでに教育現場では、ネット版「部落地名総鑑」を利用した問題も各地で起きている。

関西のある大学では、学生がネット上の「部落地名総鑑」「部落人名総鑑」を利用して、自分や友人、恋人などが部落出身でないかを調べ、差別的なレポートを提出していた。他の大学でも同様のケースが報告されている。

(3) 解放同盟や個人への差別投書や攻撃

 2016年2月、福岡県では解放同盟筑後地区協議会に差別ハガキが送られてきた。文面には「インターネット版部落地名総鑑を閲覧しておりましたら、久留米市〇〇町〇〇の地名が掲載されていませんでした。これは不当な差別だと存じます」と書かれた上で、その地区名を追加するように求める内容であった。

東京都では2017年7月、解放同盟荒川支部・墨田支部「エタ ヒニン ヨツの情報保持者様」などと書かれた差別投書やハガキが連続して送られる事件が起きている。手紙には鳥取ループのサイトには不正確な箇所がある」と書かれていた。投書の主は、鳥取ループのネット版『部落地名総鑑』を見て、「部落の正確な所在地をMに知らせて掲載させ、公開させろ」と主張していたのである。

刃物入りの差別投書が個人宅へ

2017年3月から5月にかけて、解放同盟事務所や個人の自宅などへ差別文書と共に、ナイフやアイスピックを送りつける差別事件が連続9件発生している。解放同盟三重県連や大阪府連、中央本部大阪事務所、組坂中央執行委員長の自宅などに送られてきた。

組坂委員長の自宅に届いた差別投書は、開封時に手が切れるようにカッターの刃が2枚、封筒の裏側にテープでとめられており、組坂委員長は手を負傷した。 

  

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組坂委員長の自宅に届いた差別投書。開封時に負傷するようにカッターの刃がテープで留められて負傷した。

4) 裁判支援者に対する嫌がらせや誹謗中傷、個人攻撃

この間、裁判の支援者や個人、鳥取ループ・示現社を批判する個人や団体などがターゲットにされ、匿名の何者かによってその個人情報が次々とネット上に晒され、個人攻撃が行われ、二次被害も生じている。

2017年に「全国部落調査・復刻版事件」の裁判を応援しようと、若手の研究者や個人などが「ABDARC(アブダーク)」(Anti-Buraku Discrimination Action Resource Center)という裁判支援サイトを立ち上げ、イベントが行われた。

すぐに「ABDARC関係者人物一覧」というサイトが作られ、イベントでのパネラーや支援者、スタッフの個人情報が掲載され、デマや歪曲記事、誹謗中傷や嫌がらせの記事が掲載された。なかには、自宅住所や電話番号、顔写真まで掲載されている仲間もいる。

ネット上での名誉毀損に関する民事裁判では、裁判期間中にさらなる二次被害が生じる危険性もある。裁判では提訴した時点での被害について争われ、裁判中に生じたその他の権利侵害については、損害賠償の対象にならない。

現状では、ネット人権侵害の被害者が、裁判を起こし勝訴しても損害賠償額も少なく、裁判における二次被害が大きいため、民事訴訟を起こす人は少ない。だからこそ、国による人権侵害救済機関の設置が求められている。

 

(5) 自宅に非通知電話、差別ハガキが

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正月に川口宅に届いた差別ハガキ

私自身も『全国部落調査』復刻版出版事件について講演やイベントなどでも鳥取ループらの行為を批判していた。すぐに鳥取ループからもブログやツイッターなどで名指しで記事が書かれるようになっていた。2016年の秋頃から、私の自宅に非通知の無言電話が掛かってくるようになっていた。

2017年の正月、私の自宅に差別ハガキ(年賀状)が送られてきた。表には、私の自宅住所と名前が書かれ、差出人は不明。年賀状であるために消印はなかった。裏面に手書きで「エタ死ね」と書かれていた。

小学5年生になる子どもが第一発見者だった。それが何より辛く、胸が締めつけられる思いをした。子どもが不安げな顔をして、差別ハガキを私に見せた。その文字を見た瞬間、私は頭が真っ白になり、心臓を刃物でえぐられる痛みがした。

「パパ、死ねって書かれているけど、大丈夫なん?殺されない?」

と心配する子どもに対して、

「大丈夫だからね」と答えるのが精一杯だった。

そして、「エタって、どういう事なん?」と聞かれた。

差別ハガキを手にした娘を前に、エタの意味を説明するのは、本当にしんどかった。

どこで自宅住所が分かったのか? 私の名前をネットで検索すると、いくつかサイトに自宅住所と電話番号が掲載されていた。その情報を元に、何者かが差別ハガキを送りつけた可能性があった。

すぐに、サイトにあげられている自宅住所の削除を求め、法務局に相談に行った。差別ハガキに利用されたネット上の個人情報、類似犯による二次被害の防止を法務局に訴えた。

その後、多くの人たちがサイトに削除要請・違反通報をした結果、削除された。しかし、一度ネット上に掲載された情報を完全に消去することは難しく、現在は別のサイトに掲載されている状況が続いている。

 

★川口泰司「ネット社会と部落差別の現実」(『部落解放研究209号』、2018年11月)より

第2話「フェイクと差別意識の増幅」~ネット社会と部落差別②~

(1) 検索上位に差別情報が

今、ネットで「部落差別」「同和問題」と検索ワードを入れると、検索上位を占めているのは、差別的情報(投稿・動画等)である。ネット上では正しい情報が常に検索上位にくるとは限らない。差別的サイトでもアクセス数が多いほど検索上位に表示されるからだ。*1

部落問題についてネットで検索すると、デマや偏見などの悪質な投稿・情報が検索上位に掲載されている。トップページにある差別的情報を読んで、部落問題を「わかった」つもりになると、見事にデマ・偏見をとりこんでいく危険性がある。

ある中学校では、人権教育の授業のなかで、ネット検索した情報を元に生徒から「同和地区には怖い人たちが多く住んでいる」「暴力団山口組の7~8割は部落出身者」との発表があり、教師が発言の内容を確認すると「ウィキペディアに書いてあった」と言われ、慌ててデマ情報であると指摘したケースも報告されている。 

ベストアンサーの7割が偏見・差別情報 

Yahoo! 知恵袋」という有名な質問サイトがある。2013年、(公財)「反差別・人権研究所みえ」が質問上位1000件(「同和」検索)を分析した。それによると、3分の1が「偏見に基づく差別的な質問」333件(33%)、次の3分の1が「知識を問う質問」313件(31%)、残りの3分の1が、身元調査(70件)や結婚差別(25件)、土地差別(25件)などの深刻な相談であった。

これらの質問・相談に対し、多くの人が回答している。しかし、質問者自身が部落問題について「無知・無理解」であるため、何が正しい回答なのか判断できない。

その結果、「ベストアンサー」とされた回答の約7割が「部落は怖い」などの差別的回答が採用されていた。「Yahoo! 知恵袋」には深刻な結婚差別の相談もあったが、「(部落出身者との結婚は)やめておいた方がいい」などのアドバイスが多く、結婚を断念したケースもある。

問題は「Yahoo! 知恵袋」だけではない。他の質問サイトや掲示板等でも、「どこが部落か?」「結婚相手が部落出身かを調べるには?」などの質問に、ネット版「部落地名総鑑」(同和地区wikiミラーサイト等)が紹介され、結婚相手の身元調査や上地差別調査などに利用されている事例が多く見られる。

 (2) 動画サイトによる偏見・差別意識の増幅

 YouTubeなどの動画サイトでも、「同和」や「部落」で検索すると、差別意識を助長するだけでなく、部落差別を扇動する動画であふれている。実際に同和地区へ行き、地区内の住宅や道路などを撮影してBGMを入れ、差別的に編集した動画が何十万回と再生されている。閲覧再生数の上位は差別動画で埋め尽くされている。アクセス数が高いために、同和問題に関心を持った人が、そのような差別的サイトを上から順に見ていき、差別意識と偏見が増幅させられていく。

文字情報より動画のほうが差別意識を増幅させる影響が強く、視聴後、強烈なマイナスイメージが残る。学校や社会教育、行政や企業等で発信している部落問題についての知識や反差別情報をはるかに凌駕する量で差別情報が拡散され、再生産され続けている。しかも、一度、差別的動画をクリックすると、「あなたにおすすめ」として、同様の動画が次々に表示されて流れていく。

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「森友問題は同和利権」というフェイク動画

2018年4月上旬のYouTubeの「同和」検索の再生回数上位は、「森友問題は同和利権」というタイトルのデマ動画である。「森友学園の『本件の特殊性』とは同和地区のこと。バックに解放同盟がいる。だから8億円の値引きが行われた」と、何の根拠もない嘘偽のデマ動画が、再生回数の上位を占めていた。

この「森友問題は同和利権」という動画は、東京都の区議会議員が投稿したもので、何本もアップされており、極めて悪質である。再生回数は合計50万回以上である。

「部落差別解消推進法」が施行され、その具体化に向けて真っ先に取り組まなければならない区議会議員が、部落差別を助長・誘発するデマ動画(フェイクニュース)を何本も作成し、公然と流し続けている。再生回数が多ければ多いほど、アフリエイト・広告収入が投稿者に入るため、議員という立場にある者が差別をビジネスにしていた事実も明らかとなった。 

(3)当事者の閲覧ダメージ(二次被害
差別投稿が放置され、それを当事者が閲覧したときに受けるダメージは、計り知れない。自分のルーツや肯定的アイデンティティが否定され、社会への不安と緊張が強いられる「二次被害」を受け続けることになる。「自分の出自が明らかになれば、攻撃対象になるかもしれない」という不安や恐怖を強いられ、社会と人間に対する信頼が壊されるという現実もしっかりと押さえておく必要がある。

2011年1月「在特会」の副会長K(当時)が、奈良県御所市の水平社博物館前で部落差別及び在日朝鮮人に対するヘイトスピーチを1時間近く行った。部落差別の賤称語をもちいて「卑しい連中、文句あったらいつでも来い」と叫び続けたKの差別街宣動画がYouTubeにアップされ、動画サイトで流され続けた。f:id:TUBAME-JIRO:20190413004858j:plain

水平社博物館は、Kに対し名誉毀損民事訴訟を起こし、2012年7月に勝訴した。しかし、KがアップしたYouTube動画は、裁判が終わるまでの1年半、流され続けた。

人権教育や社会科の授業で子どもたちが水平社の学習をする、あるいは水平社博物館に就学旅行や研修で訪問する子どもたちが事前学習としてネットで「水平社」と検索すると、トップにこの動画が表示され閲覧する状況が続いた。

私も何人もの学校の先生から、「あの動画を何とかしてほしい。生徒たちが最初に見てしまう。特に、部落の子どもたちや保護者があの動画を見て、ショックを受けている」と相談を受けた。

私自身、この数年、差別的サイトのモニタリングを行い、差別投稿や動画などを見てきた。当初は気づかなかったが、精神的なダメージが蓄積され続けていた。とくに動画や画像は、何日たっても、時々フラッシュバックする。

匿名掲示版やコメント欄への差別投稿、差別動画が何十万回も閲覧され、それに対して、何千人もの人が「いいね!」と評価している。ネット上の差別が放置されることは、社会に存在する部落差別を助長するだけでなく、当事者に対する二次的差別(被害)を与え続ける。

それだけではない。部落出身者に向けられた差別投稿が「無視」「放置」され続けている現実は、当事者にとっては「誰もおかしいと指摘しない」=「みんな同じように思っているかもしれない」と感じさせてしまう。自らのルーツやアイデンティティを否定され、社会からの疎外感、孤立感、無力感を持たされてしまう心理的な被害についても注意しておかなければならない。

 

★川口泰司「ネット社会と部落差別の現実」(『部落解放研究209号』、2018年11月)より

*1:※2018年春頃から市民や行政によるモニタリングと通報によって、GoogleYahoo!YouTubeなどが差別問題へのSEO対策等の取り組みが強化され、少しずつであるが改善の傾向が見られる