部落差別は、今 ~TUBAME-JIROのブログ~

当事者の声、マイノリティの視点、差別の現実を踏まえた情報発信をしています。

原告の名前や住所、部落が晒される裁判闘争

西日本新聞の連載【さらされた部落リスト❾法廷編

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原告になることで、新たに差別被害が生まれる

鳥取ループは出版差止めの仮処分を求めた裁判(16.3)で、原告の名前や住所、被差別体験が書かれた陳述書を全てネット上に掲載しました。その情報をもとに部落探訪し、その個人に関する情報や中傷・差別投稿を繰り返していました。だから、本裁判の原告を募った時、多くの同盟員が躊躇し、悔しい思いをしながらも原告になることを断念したもの多かったです。
当初は1000人ぐらいが対象となっていましたが、結果、原告になれたのは250人ほどでした。さらし差別を行う確信犯に、誰が自らの生い立ちや個人情報を渡したいか。自分だけでなく家族や地域が差別されるリスクを高めることを引き受ける覚悟が求められました。そのことを痛感して私も原告になることに躊躇しました。
原告になるということは、そのようなリスクと差別を引き受けることであり、本当に覚悟がいりました。ましてやネットをまったく使わない高齢の先輩たちにとっては、鳥取ループがおこなうネット差別は得たいのしれない恐怖になっていました。
だからこそ「原告になって欲しい」と同盟員に声をかけるのがどれだけ辛かったか。「やっちゃん、ごめん」と本当に悔しい思いで語る先輩たちを前に、それ以上、何も言えませんでした。「誰か1人でも原告になる人がいなければ、その県の差別の実態や声を届けることが出来ない」との思いから、私も覚悟を決めました。結果、山口県からは私1人が原告となりました。
地裁判決では、そのような理由から原告を出せなかった10県と原告1人の6県が、差別被害を認定されず、差し止め対象から除外されてしまいました。ほんとに悔しいです。差別の厳しさが、逆に差別の現実をおおい隠してしまったんです。
【何度読み返しても歯がゆいが、何度書いても同じような内容になるだろう。福岡県在住の原告の女性(63)は、自分の陳述書にそんな感情を抱いた。
「陳述書は宮部氏に渡ります」。2018年8月、打ち合わせで飛び出した弁護団の説明に、女性は耳を疑った。「それじゃ書けない」。思わず声が出た。】
【「書ける範囲で書いてください」と弁護士に言われ、女性は1カ月間、悩み抜いた。暮らしの中で感じる部落差別を書きたいが、具体的になるほど公開された場合のリスクは大きい。法廷自体が、宮部氏に被差別部落に関する新たな情報を与える場になりかねない。
完成させた陳述書は2700字ほど。≪全国的に多くの差別事件が起こっています≫≪差別は受けた人の心に大きな打撃を与えます≫。記述の大半は抽象的になった。】
中国地方の被差別部落に住む男性(81)は、原告になることを諦めた。
50代の息子が2人、20代の孫が5人いる。正面切って部落問題を話したことはない。息子たちは離れた土地に暮らし、自分と違い部落差別をなくすことを目指す運動に関わりはない。被差別部落出身という自覚があるのかすら分からない。】
【宮部氏の行為は許せない。泣き寝入りしたくもないが、自分の情報がネット上に拡散され、息子や孫が「被差別部落の人間か」と言われることを想像すると、踏み切れなかった。原告に名を連ね、何度も東京に足を運ぶ後輩の姿に、やるせなさを覚える。「本当なら自分も進んで原告にならんといかんのに…」】
これが、晒し差別の現実であり、今回の裁判が他の裁判と違う理由。
裁判が始まると原告らの部落が『部落探訪』で晒され、親族の経営するお店まで突撃されネットに掲載されるなど、深刻な二次被害はいまも続います。
ここまでされても、部落を晒す情報がネットから削除されていません。多くの人がYouTubeTwitterに削除要請をしていますが5年以上も放置されたままです。理由は明らか。このような行為を差別として禁止する法律がないからです。プロバイダは訴訟リスクを恐れ「違法」なものしか削除しません。部落差別解消推進法は理念法であり、差別禁止規定がないからです。全水100年。このような確信犯の攻撃的差別が起きてる現代、差別を禁止する法が必要です。そこに全力に取り組んでいかなければいけない。