部落差別は、今 ~TUBAME-JIROのブログ~

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第3話「バラまかれた『部落地名総鑑』」~ネット社会と部落差別③~

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(1)確信犯の鳥取ループ・示現舎

ネット上に同和地区の所在地情報を意図的に掲載し、拡散し続けてきた鳥取ループ・示現舎の宮部龍彦という人物がいる。「鳥取ループ」とはブログ名(管理人・宮部)であり、「示現舎」とは宮部が共同代表をつとめる出版社(社員2名)である。

2005年、ブログ「鳥取ループ」を開設した宮部は、「同和問題のタブーをおちょくる」として、行政に同和地区の所在地情報を開示請求し、得たい情報が非開示となると裁判を起こし、同時にネットで公開をくり返してきた。

示現舎のブログでは「部落探訪」として、全国の部落を回り、住宅や個人宅の表札・車のナンバー、商店、墓碑などを写真や動画で撮影し、住所とともにネット公開し続けている。

さらに、子どもたちや青年の顔が映っている動画投稿を二次利用してYouTubeに掲載し、保護者や地元関係者が削除要請をしても拒否し、ネット上で公開し続けている。

宮部はITの技術者であり、様々なネットの機能を使い、部落を暴き・晒し続けてきた。現在、全国5300カ所の同和地区の所在地(地域名、住所、戸数、人口、職業等)がネット上に公開されている。Googleマップを悪用し、全国の同和地区がマッピングされ、地図まで作成された。

滋賀県では、解放同盟の支部員800人以上の住所・氏名・年齢・生年月日等の個人情報がネット公開され、Googleマップを利用し、自宅がマッピングされて、ネット上に晒されていた。

(3)『全国部落調査』復刻版の出版計画

2015年冬、鳥取ループ(宮部)が東京都内の大学図書館で『全国部落調査』を発見し、その情報をネット公開した。『全国部落調査』とは、1935年に政府の外郭団体である中央融和事業協会が全国の部落の実態調査をおこなった報告書である。

1935年当時の5300カ所の部落の地名や人口、戸数、職業、生活程度などが記されており、表紙には「㊙」と書かれている。戦後、この報告書が探偵社・興信所に悪用されて「部落地名総鑑」が作成され、販売されたと言われている。

1975年に発覚した「部落地名総鑑」差別事件では、法務省が10年かけて企業などから663冊を回収した。現在までに10種類が確認されており、企業や調査会社などが就職や結婚の際の身元調査の目的で購入していた。

鳥取ループ(宮部)は、昭和初期の部落の町名・住所等を現在の住所に加筆修正して2015年の年末頃、「同和地区wiki」というサイト上に掲載した。

「同和地区wiki」は2012年、鳥取ループ(宮部)が開設したサイトで、部落の所在地だけでなく、全国市町村別にその部落に住む人の名字リスト1万人以上が作成され、ネット公開されていた(「部落人名総鑑」)。

さらに「部落解放同盟関係人物一覧」なども掲載され、各都府県連や支部長など運動関係者の1000人以上の名前や自宅住所、電話番号まで載せられていた。

(4) Amazonで予約販売開始

2016年2月、鳥取ループ・示現舎は「部落地名総鑑の原点」とのサブタイトルをつけ、『復刻 全国部落調査』という書籍名で出版しようと、通販サイトのアマゾンを通じて予約受付を開始した。

解放同盟をはじめ、人権教育にかかわる教員や多くの人たちが抗議し、アマゾンは、販売中止にした。しかし、示現舎の宮部は出版を諦めておらず、翌3月に解放同盟中央本部書記長が宮部と面談し、出版中止を求めたが拒否され、話し合いは決別に終わった。

この問題は、国会(2016年3月10日 参議院法務委員会)でも取り上げられた。法務大臣は「人権擁護上、看過できない問題であり、あってはらない」と『復刻版 全国部落調査』出版とネット公開に対する見解を示した。

東京法務局長も「人権侵犯」として、示現舎の宮部に対し出版を中止するよう「説示」したが、彼は拒否した。

(5) 出版禁止・サイト削除の仮処分決定後もネット上で拡散

解放同盟は横浜地裁に出版禁止の仮処分の申立をおこない、2016年3月28日、出版禁止の仮処分が決定した。「同和地区WIKI」についてもウエブサイト掲載禁止の仮処分を申し立て、4月18日、削除の仮処分が決定された。*1

その一方、示現舎(宮部)は、出版禁止の仮処分決定が出るや、その訴訟資料一式と『全国部落調査』のコピーをヤフーオークションに出品した。解放同盟をはじめ多くの人がヤフーに抗議したが、ヤフーは取引を中止せず、2016年4月1日、150件の入札の中、51,000円で落札されてしまった。

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出版禁止の仮処分を受けた宮部はさらに開き直り、ウエブサイトに『復刻 全国部落調査』のデータを公開し、拡散をあおり続けた。海外の電子図書館にもデータを送り、キンドル版(電子図書)や個人で印刷製本する仕方まで教示し、拡散し続けた。

その結果、現在では、コピーサイト・類似サイトが多数作成され、差別身元調査に利用されるという深刻な状況が続いている。2019年1月にメルカリで「部落地名総鑑・復刻版」が3冊も販売されていた。コピーサイトはミラーサイトとも呼ばれ、ネット上で公開されたウエブサイトとまったく同じ内容の複製サイトのこと。

 現在、解放同盟員ら248名が原告となり、示現舎に対する裁判がおこなわれている(同盟員1人につき110万円、原告総数248名、合計2億7500万円の損害賠償を求める民事訴訟である)。

 

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(6) 差別身元調査の犯罪性

鳥取ループ・示現舎の行為の最大の犯罪性は、この社会に部落差別が厳然と存在するなかで、ネット検索で容易に差別身元調査を可能にしたことである。

結婚や就職という重大な岐路にさいして、部落出身を理由に差別を受け、多くの青年たちの命と人生が奪われてきた。部落差別は〈差異〉がない差別である。

それゆえに、部落出身者を排除しようとする側は、部落出身者を特定するために、身元調査を行おうとする。

だからこそ、それを許さない取り組みとして、寺の過去帳壬申戸籍の閲覧禁止、戸籍・住民票不正取得の禁止、差別図書『部落地名総鑑』に対する抗議が行われてきた。

今回、『部落地名総鑑』の原本ともいえる『復刻版 全国部落調査』をアマゾンが予約取り扱いを開始したことに対して、「部落の所在地を暴いた図書を扱い、販売することじたいが差別行為」として関係者たちが真っ先にアマゾンに抗議したのは、その意味においてだった。

本人の同意なく他者が部落出身者を「暴き」「晒す」行為は、明確なプライバシー侵害である。

何より、この社会に部落差別があるもとで、ネット版「部落地名総鑑」を不特定多数に公開することは、許されない差別行為である。

ところが鳥取ループ(宮部)は、部落の所在地を暴き、部落出身者をネット上に晒しておきながら、そこで生じる差別や人権侵害などの責任は取らないというスタンスをとっている。

「復刻版」裁判の第1回口頭弁論後の記者会見(2016年7月)で、宮部は「全国部落調査がネットに出たのが今年の1月5日なんで、そんな深刻な問題だったらね、自殺者の一人や二人でも出てるかと思ったらそんなことまったくないわけです」と言い放った。自分が公開した情報で、結婚差別を受け、部落出身者が自死することがあっても、なんとも思わず、部落の人たちの命や尊厳をまるで「モノ」のように扱っている。私は彼の差別的好奇心のために、部落の人たちが人体実験をされていると感じ、底知れぬ恐ろしさを覚えた。

※「ストップ部落調査」HP「2016.7.5第1回口頭弁論宮部・三品記」

http://www.stop・burakuchousa.com/loop/450/

 ※「

www.abdarc.net

」(対鳥取ループ裁判支援サイト)

 

★川口泰司「ネット社会と部落差別の現実」(『部落解放研究209号』、2018年11月)より

 

 

*1:示現舎(宮部)は、仮処分決定を不服とし抗告したが、認められなかった。2017年9月に出版禁止の仮処分決定が確定、ウエブサイト掲載禁止の仮処分決定も、示現舎の抗告は認められず2018年1月に確定した。