死者に対する「差別戒名」
被差別部落の人たちは死後も差別されてきた歴史があります。
戒名に「畜」「賤」「革」「穢」など差別されてきた人たちの身分や職業などをもとに、墓石や位牌、過去帳などに「差別戒名」が刻まれていました。
「差別戒名」は江戸時代中期から1940年頃までに、部落の檀信徒のみに「授与」され「不当に差別され、貶められた戒名」のことです。
また、各寺院が供養のために作成していた「過去帳」(戒名、俗名、死亡年月日、施主との続柄等記載)にも部落の死者に対しては「穢多、非人、新平民」などと添え書きされていました。
記載型式においても部落の死者のみが過去帳の「巻末に一括記載」「一字下げ記載」「別冊」などの差別事例も多く報告されいます。
差別戒名と知らず供養してきた部落の人たち
私は大学生の時、「リバティおおさか」で、初めて差別戒名を見て、死後まで部落差別されてきた歴史に悔しさでいっぱいになりました。
差別と貧困のなか教育を奪われ、その差別戒名の文字を読めずに、大切な先祖のお墓だと供養してきたムラの人たちもいました。
宗教が差別に加担してきた歴史をしっかりと学ぶことがいかに大事なことか。私たちの当たり前の生活や慣習のなかに差別の文化として根付いていないか、しっかりと見抜く力が、ほんと大事になってきます。
教団に差別戒名の指南書が
これらは単に差別戒名をつけた僧侶個人の差別意識の問題ではなく、江戸時代初期に差別戒名をどのようにつけるかという本があいつで刊行されていました。
葬儀や戒名など全般にわたって差別的な指導がおこなわれてきた背景がありしました。
これらの指南書*1は、宗派の創始者の書物とともに宗派の教本となり、明治以後もその差別性が指摘されることがありませんでした。
1980年代に入り、仏教界、日本の宗教界も部落差別解消に向けて取り組むようになり、これらの問題が明らかになってきました。曹洞宗だけでなく、浄土真宗両派、天台宗、真言宗、浄土宗、臨済宗、日蓮宗などにも及んでいました。
曹洞宗は40年間かけて回収・供養
曹洞宗は1981年9月、永平寺において『曹洞宗差別戒名追善供養」をおこない、全1万カ寺以上の寺院を対象に実態調査をおこないました。特に、部落と関係がある寺院約550カ寺については、さらに詳細な追加調査をおこないました。
そこで253カ寺に差別戒名の墓石(145カ寺)・位牌(25カ寺)・過去帳(218カ寺)の存在が明らかになり(2006年時点)、下記の基本方針のもと全ての差別戒名に対する改正等の取り組みを実施しています。
①「差別戒名」墓石は、差別を隠蔽することにならないように、「埋めない」「砕かない」「隠さない」という原則にたち、身元調査に悪用されないように個人墓地から、寺院境内の「合同供養棟」などに合祀するようにしました。
②位牌や過去帳の「差別戒名」は、一般的な戒名への書き換えをおこない、寺院過去帳の書き換えをおこなってきました。
今回、40年間かかり「差別戒名」墓石のすべてを寺社へ移設が完了しました。
2020年6月5日付けの「中外日報」に曹洞宗の差別戒名の記事が掲載されました。
【「差別戒名」が刻まれた墓石を檀家の墓地から三界萬霊供養塔に移設する「改正」作業を進めてきた曹洞宗はこのほど、全国145カ寺にあった全ての「差別戒名」墓石の移設を完了させた。今年3月、最後の1カ寺となっていた埼玉県の寺院で追善法要を営み、あらゆる差別の撤廃と人権の確立の実現に向け、さらなる精進を誓った。
宗務庁は全国寺院へのアンケートや現地調査などを実施し、全国253カ寺に差別戒名が記された墓石(145カ寺)と過去帳(218カ寺)があることを把握した。】