部落差別は、今 ~TUBAME-JIROのブログ~

当事者の声、マイノリティの視点、差別の現実を踏まえた情報発信をしています。

第6話 「企業のネット対策」~ネット社会と部落差別⑥ 

企業のネット差別対策としては、以下の取り組みがあげられる。


①「差別禁止」規定を利用規約

インターネットサービス提供業者は、企業の社会的責任として、差別投稿を放置せず、差別問題の解決に向けて、主体的に取り組む必要がある。そのために、サービス提供時に、利用者との契約約款(利用規約)に「差別投稿の禁止」事項を設け、差別投稿に対する通報窓口を設け、差別投稿の削除をすることが求められる

ヘイトスピーチ対策法」「部落差別解消推進法」(2016年)の施行を受けて、2017年3月プロバイダ・通信関係4団体は「違法・有害情報への対応等に関する契約約款モデル条項の解説」を改訂した。

注目されるのは、「契約約款モデル」第1条の禁止事項「不当な差別を助長する等の行為」という規定に「不当な差別的取扱いを助長・誘発する目的で、特定の地域がいわゆる同和地区であるなどと示す情報をインターネット上に流通させる行為」が該当するとした点である。今後、この「契約約款モデル」に準じて、実際に各事業者の約款を改訂する作業を進めさせていくことが重要となっている。

また、業界団体において部落差別投稿における削除基準(ガイドライン)を策定することで、削除判断が行い易くなる。自社での削除判断に迷う場合は、第3者機関で審議する場を設定するなどの仕組みも検討する必要がある。

くり返すように、急務の課題は、被害者からの削除要請を受けて対応する「事後対応」でなく、ネットサービス配信企業の社会的責任として、差別投稿をさせない「事前対応」である。

すでに日本でも「児童の保護」犯罪等への対策として、Mobage(モバゲー)、mixi(ミクシー)、GUEE(グリー)などの会社は、24時間365日、200~400人の体制で違反書込をチェックしている。システムがNGワードを自動チェックし、グレー判定された投稿がスタッフに通知され、削除される。

MIXI規約違反の悪質書込み、違反常習者は退会処分される。過去に未成年の子どもや女性などが犯罪に巻き込まれる事件があり、企業が提供するサービス(商品)の社会的信用を担保するための必要経費と位置づけ、人件費をかけて対応しているという。

ホームページ、ブログ、掲示板、SNSなどネットサービスは、すべてサーバー内のコンピューターを通過する。したがって、差別語・侮辱語の自動収集チェックのシステムを導入し、発信者に警告を表示することも技術的には可能であるが、「不適切ワード」を自動的にチェックするのみの対応は、かつてメディアが行った「禁句マニュアル」と変わらない。

差別語をいっさい使わずに差別することは可能であり、ヘイトスピーチを行うことも可能である。また逆に、差別問題をどうなくしていくかを議論するサイト上で交わされる言葉も「不適切ワード」に引っかかる場合もあり得る。

つまり、言葉のみをピックアップして削除するだけでは解決にはならず、悩ましい問題が残る。だからこそ、先にあげてようにネット上の部落差別についての削除基準が重要となる。

②差別サイトへの広告配信の停止(経済制裁

民間企業でも、差別サイトに広告配信をしない、広告撤退をする動きが出始めている。悪質な差別サイトほど閲覧数が多く、広告収入で儲けようとするサイト運営者の活動資金となっている。だからこそ、差別サイトからの広告撤退は、ネット差別に対する有効な取り組みとなっている。

ヘイトスピーチなどの温床となってきた「保守速報」という有名な「まとめサイト」がある。在日朝鮮人の李信恵さんが同サイト管理人を訴えた裁判で2018年6月、大阪高裁は同サイト管理人に200万円の支払いを命じた地裁判決を支持した。

判決では、李さんへの民族差別や誹謗中傷が「人種差別及び女性差別にあたる」として、ヘイトスピーチ女性差別の複合差別であることを認めた。

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同サイトへの広告を掲載するエプソンに対して、市民がその事実を通報した。エプソンは自社の広告が掲載されている事実を知らなかった。翌日、エプソンは「保守速報」への広告配信を停止した。その後、次々と「保守速報」へ広告配信していた企業が撤退し、最終的に全ての企業が広告配信を停止した。

その結果、同サイトは収入源を絶たれ、サイト運営が厳しい状況に追い込まれていた。(BUZZ FEED NEWS「嫌韓サイト」はなぜ黙認されていたのか?「保守速報」から広告会社が自主的に撤退 2018/06/23)

この件から浮かび上がったのは、広告配信業者も「差別禁止」規定があることは知っているが、膨大な配信先のサイトをすべてチェックしきれていないという実態だ。ネット広告に掲載する企業、それを取り次ぐ広告配信企業などに、ヘイトサイトや部落差別を助長するサイトへの広告配信の停止を申し入れることは、差別サイトの運営に大きな影響を与えることが出来る。

鳥取ループ・示現舎も、『全国部落調査・復刻版』出版事件が国会で取り上げられたさい、「社会的な話題となるほど、自分たちのサイトの閲覧数が増え、広告収入で儲かる」とTwitter上で公言していた。

ネット上の広告配信の際に、「差別サイトには掲載しない」という条件を企業がつけることで、差別サイトへの収入源を絶つことができる。この取り組みは、ネット上の差別問題の解決に向けて大きな役割を果たすことになる。

③ネット上の『部落地名総鑑』の回収・規制

鳥取ループ・示現舎との裁判が決着しても、すでにネット上に大量に拡散されたネット版『部落地名総鑑』をすべて回収するのは困難である。しかし、検索サイトでフィルタリングをかけて表示できなくすることや、検索上位に表示させない対応は技術的には可能である。

すでにYahoo!では、有害サイトフィルタリングサービスを無料で配信しており、「自殺サイト」「学校裏サイト」「アダルトサイト」「暴力」「出会い系」などの「違法・有害情報」を専門スタッフが最新情報を収集・管理し、フィルタリングをかけて表示できないようにしている。

この数年、日本国内だけでなく、世界各国で「ナチスによるホロコースト(ユダヤ人虐殺)はなかった」という差別的デマの投稿が勢いをましている。Google社は検索エンジンで、ユダヤ人虐殺の「ホロコースト」の歴史的事実を否定するサイトなど「信頼できない情報」は、検索上位にならないよう、検索エンジンの表示方針を見直している。

Facebook社は2016年12月末からフェイクニュース拡散防止対策として、ニュースが「虚偽かもしれない」場合、報告できる仕組みを導入した。報告を受けた記事は、報道機関などが入る第三者機関のチェックを受け、虚偽とされた記事には警告や、なぜその記事が「フェイク」なのかの理由まで表示するようにしている。

次にSNS対策に乗り出したドイツの取り組みを紹介したい。

ドイツのネット対策の取り組み

ドイツでは2018年1月1日より、「ネットワーク貫徹法(SNS対策法)」(ソーシャルメディアにおける法執行を改善するための法律)が施行された(2017年9月成立)。ヘイトスピーチフェイクニュース、違法コンテンツの速やかな削除をソーシャルメディアに義務づけた。

ドイツではヘイトスピーチは刑法の「民衆扇動罪」に当たり、違法である。また、ホロコースト否定やナチス称賛などの投稿は、違法とされている。新法では、「明らかに違法な」投稿を24時間以内に削除しないサイトは、最大5000万ユーロ(約68億


円)の罰金が科せられる(ただし違法かの判断に時間を有する場合は1週間の猶予あり)。規制の対象は利用者200万人超えのSNSとメディア企業で、主にFacebookYouTubeTwitterなどが対象である。

SNS対策法」ではSNS事業者に、違法内容「削除義務」「苦情対応手続(違法通報窓口)整備義務」「苦情対応状況の報告義務」を課し、これらの義務に違反した場合の過料が定められた。

SNS対策法がドイツで成立した背景には、ドイツ国内で2015年以降増加し、100万人以上を受け入れた難民の存在がある。難民の犯罪が増えたなどの排斥運動、ネット上でのヘイトクライムが2年間で3倍に増加し、何千、何万人のヘイトデモが各地で起きつづけているからである。法案成立に批判もあったが、マース法務相は「表現の自由は刑法に抵触するものまで認められているわけではない」と述べている。 

これらの取り組みは、EUでも進みはじめており、今後、ネット対策の先駆的な取り組みとして、注視していく必要がある。 

 

★参考文献

津田大介『情報戦争を生き抜く 武器としてのメディアリテラシー』(朝日新書、2018.11)