部落差別は、今 ~TUBAME-JIROのブログ~

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関電事件は本当に「同和利権」なのか?~週刊「文春」「新潮」の記事をファクトチェック!~

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◆社会意識としての差別意識を利用

週刊文春週刊新潮(2019年10月10日号)は、関西電力高浜町の元助役の問題の背後には解放同盟がいて、元助役からの金品授与を拒否できなかったとのストーリーを展開している。

しかし、今回の金品授与問題で解放同盟が関与していた証拠はどこに示されていない。その証拠も出さずに、社会意識としての差別意識を利用し、共産党町議の証言で記事を展開。

鳥取ループ・示現舎のブログでは「関電が恐怖した高浜町助役は 地元同和のドンだった!」との記事が大反響。百田尚樹や著名なジャーナリスト、一部国会議員も示現舎の記事を参考に「関電問題は同和マター」との発信し始めている。Twitterやネット上では「関電問題=同和利権」としてトレンド入りまでしたという状況。

ただでさえ、今回の関電問題は「江戸時代の時代劇か!」と思わすぐらいの事件であり、社会的な関心も高い。そこに「同和マター」を入れることで、ネット上ではPVを稼げる絶好のネタになる。炎上商法で儲ける人たちにとってもおいしい話となっていく。

◆ネタ元は共産党鳥取ループ・示現舎

元助役を「『人権団体』で糾弾活動」(文春)と見出しに使い、社会意識として存在する「部落=怖い」の差別意識を利用していく。「人権団体を率いて、差別をなくす、糾弾活動の名目で恐怖政治を敷き、高浜町民を手懐けていく、まさに暗黒町政の時代だった」(文春)と地元関係者の証言として共産党町議の声を掲載。

何十年にわたり部落差別の存在を否定し、同和行政に反対し続けてきた共産党の地元町議の主張をベースに記事が展開。記事は「部落地名総鑑」出版事件の被告である鳥取ループ・示現舎のブログに掲載された三品純の記事と類似。本人が週刊誌に原稿を持ち込んだのかと思ったぐらい同じスタンスで書かれている。

「元助役=部落民?=解放同盟=糾弾=同和利権」のストーリーで、今回の問題の「本質」を「同和利権」「解同=糾弾」にすり変えていく典型的な印象操作。

◆フェイクと印象操作、ファクトから考える

ここで取り上げられた記事は約40年前の教員差別事件。しかも、これは解放同盟として行った糾弾会でない。そして、過去、多くの差別事件を「部落差別ではない」としてきた共産党の主張をもとにした一方的な記述。

そもそも高浜町でこの数十年間、解放同盟が行った糾弾会は10回もない。確かに、元助役は50年前に1~2年程、解放同盟で活動してたと記事には書いている。しかし、その後、町職員となってからは解放同盟の役員として糾弾会を実施した事実はなく、完全なフェイクである。

◆「同和行政=同和利権」という偏見

ただし、行政幹部として同和行政や同和教育に熱心に取り組んできた方ということは事実とのこと。差別と貧困の厳しい実態を改善するための対策として、国が特別措置法を制定し33年間にわたり格差是正と部落差別解消の取り組みを実施してきたのは事実である。

一部に不祥事はあったが、その多くは適正に実施され行政監査や議会承認を受けて実施れてきた。その結果、貧困や進学、進路保障など多くの成果があったことも事実。2002年、約20年前に「特措法」は失効した。

行政幹部が部落差別解消に向けて対応するのは当然であり、それの何が問題なのか。しかも、元助役は30年前の1988年に助役を退職し、今年3月に90歳で亡くなっている。
今回の金品授与問題に解放同盟支部がどう関与したのか、そんな証拠もしめさず、背景に部落問題、部落出身?というストリーを展開していく。

◆デマであれば自らも加害者になる自覚を

とにかく、現時点で明確な根拠や証拠もないのに「関西電力=解放同盟が~、同和利権が~」というノリで、拡散する人たちは、それが事実でないときは、部落に対する予断と偏見を広め、差別意識を増幅する加害者となっていることを自覚しておいてほしい。「森友問題=同和利権」のフェイクを思い出す。

今回の問題、「メディアと差別報道」「フェイクと差別扇動」「ニューレイシズム」の象徴的な部落差別の事例となっており、「部落差別解消推進法」施行3年の成果を一瞬で吹き飛ばす事態にならないか心配している。

メディアも含めて、しっかりとした対応をお願いしたい。