部落差別は、今 ~TUBAME-JIROのブログ~

当事者の声、マイノリティの視点、差別の現実を踏まえた情報発信をしています。

第2話「フェイクと差別意識の増幅」~ネット社会と部落差別②~

(1) 検索上位に差別情報が

今、ネットで「部落差別」「同和問題」と検索ワードを入れると、検索上位を占めているのは、差別的情報(投稿・動画等)である。ネット上では正しい情報が常に検索上位にくるとは限らない。差別的サイトでもアクセス数が多いほど検索上位に表示されるからだ。*1

部落問題についてネットで検索すると、デマや偏見などの悪質な投稿・情報が検索上位に掲載されている。トップページにある差別的情報を読んで、部落問題を「わかった」つもりになると、見事にデマ・偏見をとりこんでいく危険性がある。

ある中学校では、人権教育の授業のなかで、ネット検索した情報を元に生徒から「同和地区には怖い人たちが多く住んでいる」「暴力団山口組の7~8割は部落出身者」との発表があり、教師が発言の内容を確認すると「ウィキペディアに書いてあった」と言われ、慌ててデマ情報であると指摘したケースも報告されている。 

ベストアンサーの7割が偏見・差別情報 

Yahoo! 知恵袋」という有名な質問サイトがある。2013年、(公財)「反差別・人権研究所みえ」が質問上位1000件(「同和」検索)を分析した。それによると、3分の1が「偏見に基づく差別的な質問」333件(33%)、次の3分の1が「知識を問う質問」313件(31%)、残りの3分の1が、身元調査(70件)や結婚差別(25件)、土地差別(25件)などの深刻な相談であった。

これらの質問・相談に対し、多くの人が回答している。しかし、質問者自身が部落問題について「無知・無理解」であるため、何が正しい回答なのか判断できない。

その結果、「ベストアンサー」とされた回答の約7割が「部落は怖い」などの差別的回答が採用されていた。「Yahoo! 知恵袋」には深刻な結婚差別の相談もあったが、「(部落出身者との結婚は)やめておいた方がいい」などのアドバイスが多く、結婚を断念したケースもある。

問題は「Yahoo! 知恵袋」だけではない。他の質問サイトや掲示板等でも、「どこが部落か?」「結婚相手が部落出身かを調べるには?」などの質問に、ネット版「部落地名総鑑」(同和地区wikiミラーサイト等)が紹介され、結婚相手の身元調査や上地差別調査などに利用されている事例が多く見られる。

 (2) 動画サイトによる偏見・差別意識の増幅

 YouTubeなどの動画サイトでも、「同和」や「部落」で検索すると、差別意識を助長するだけでなく、部落差別を扇動する動画であふれている。実際に同和地区へ行き、地区内の住宅や道路などを撮影してBGMを入れ、差別的に編集した動画が何十万回と再生されている。閲覧再生数の上位は差別動画で埋め尽くされている。アクセス数が高いために、同和問題に関心を持った人が、そのような差別的サイトを上から順に見ていき、差別意識と偏見が増幅させられていく。

文字情報より動画のほうが差別意識を増幅させる影響が強く、視聴後、強烈なマイナスイメージが残る。学校や社会教育、行政や企業等で発信している部落問題についての知識や反差別情報をはるかに凌駕する量で差別情報が拡散され、再生産され続けている。しかも、一度、差別的動画をクリックすると、「あなたにおすすめ」として、同様の動画が次々に表示されて流れていく。

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「森友問題は同和利権」というフェイク動画

2018年4月上旬のYouTubeの「同和」検索の再生回数上位は、「森友問題は同和利権」というタイトルのデマ動画である。「森友学園の『本件の特殊性』とは同和地区のこと。バックに解放同盟がいる。だから8億円の値引きが行われた」と、何の根拠もない嘘偽のデマ動画が、再生回数の上位を占めていた。

この「森友問題は同和利権」という動画は、東京都の区議会議員が投稿したもので、何本もアップされており、極めて悪質である。再生回数は合計50万回以上である。

「部落差別解消推進法」が施行され、その具体化に向けて真っ先に取り組まなければならない区議会議員が、部落差別を助長・誘発するデマ動画(フェイクニュース)を何本も作成し、公然と流し続けている。再生回数が多ければ多いほど、アフリエイト・広告収入が投稿者に入るため、議員という立場にある者が差別をビジネスにしていた事実も明らかとなった。 

(3)当事者の閲覧ダメージ(二次被害
差別投稿が放置され、それを当事者が閲覧したときに受けるダメージは、計り知れない。自分のルーツや肯定的アイデンティティが否定され、社会への不安と緊張が強いられる「二次被害」を受け続けることになる。「自分の出自が明らかになれば、攻撃対象になるかもしれない」という不安や恐怖を強いられ、社会と人間に対する信頼が壊されるという現実もしっかりと押さえておく必要がある。

2011年1月「在特会」の副会長K(当時)が、奈良県御所市の水平社博物館前で部落差別及び在日朝鮮人に対するヘイトスピーチを1時間近く行った。部落差別の賤称語をもちいて「卑しい連中、文句あったらいつでも来い」と叫び続けたKの差別街宣動画がYouTubeにアップされ、動画サイトで流され続けた。f:id:TUBAME-JIRO:20190413004858j:plain

水平社博物館は、Kに対し名誉毀損民事訴訟を起こし、2012年7月に勝訴した。しかし、KがアップしたYouTube動画は、裁判が終わるまでの1年半、流され続けた。

人権教育や社会科の授業で子どもたちが水平社の学習をする、あるいは水平社博物館に就学旅行や研修で訪問する子どもたちが事前学習としてネットで「水平社」と検索すると、トップにこの動画が表示され閲覧する状況が続いた。

私も何人もの学校の先生から、「あの動画を何とかしてほしい。生徒たちが最初に見てしまう。特に、部落の子どもたちや保護者があの動画を見て、ショックを受けている」と相談を受けた。

私自身、この数年、差別的サイトのモニタリングを行い、差別投稿や動画などを見てきた。当初は気づかなかったが、精神的なダメージが蓄積され続けていた。とくに動画や画像は、何日たっても、時々フラッシュバックする。

匿名掲示版やコメント欄への差別投稿、差別動画が何十万回も閲覧され、それに対して、何千人もの人が「いいね!」と評価している。ネット上の差別が放置されることは、社会に存在する部落差別を助長するだけでなく、当事者に対する二次的差別(被害)を与え続ける。

それだけではない。部落出身者に向けられた差別投稿が「無視」「放置」され続けている現実は、当事者にとっては「誰もおかしいと指摘しない」=「みんな同じように思っているかもしれない」と感じさせてしまう。自らのルーツやアイデンティティを否定され、社会からの疎外感、孤立感、無力感を持たされてしまう心理的な被害についても注意しておかなければならない。

 

★川口泰司「ネット社会と部落差別の現実」(『部落解放研究209号』、2018年11月)より

*1:※2018年春頃から市民や行政によるモニタリングと通報によって、GoogleYahoo!YouTubeなどが差別問題へのSEO対策等の取り組みが強化され、少しずつであるが改善の傾向が見られる