部落差別は、今 ~TUBAME-JIROのブログ~

当事者の声、マイノリティの視点、差別の現実を踏まえた情報発信をしています。

「部落問題って?」ざっくり言うと(入門編)

1、 部落差別って?

被差別部落(略して「部落」、「同和地区」)は「全国6000部落、300万人」と言われてきました。1993年の総務庁調査では同和地区は全国で4533カ所、同和地区人口(部落外からの転入者を含めた人口)は約216万人。同和関係者(部落出身者)は約89万人います。

現代の部落差別とは、部落に生まれた(育った)、住んでいる(いた)など、部落に地縁・血縁関係などにルーツを持っていたり、そう「みなされた人」への差別です。部落出身者でなくても、部落に引っ越して住むことで世間からは「部落の人」と「みなされて」差別を受けることもあります。

2、 どんな差別があるの?

部落に対する偏見や差別言動、差別投書など日常生活における差別のほかに、結婚差別、就職差別、土地差別(マイホーム購入などで同和地区を忌避)など利害が絡む場面において差別が顕在化しています。また、結婚相手が部落出身かどうか調べる差別身元調査も後を絶ちません。


子どもの結婚相手が部落出身だった場合、5人に1人が「反対」という調査結果があります。
 大分県…37%(2014年)
 熊本県…35%(2015年)
 堺市…20%(2015年)

 3、部落の歴史

江戸時代の身分制度において「武士」「百姓」「町人」とは別に「穢多」(えた)・「非人」(ひにん)などと呼ばれ、身分上厳しく差別れていた人たちがいました。

「えた」身分の人たちの多くは農業などに従事しながら「皮革業」(武具・馬具、太鼓や雪駄)、「竹細工」「村の警備」「神事・芸能」「薬の製造・販売」など、多様な仕事に従事していました。


1871年(明治4年)に「解放令」(賤民廃止令)が出され「えた」「ひんに」と呼ばれた被差別民も「平民」と同様になりました。しかし、人々の差別的慣習や意識は残ったままで、仕事や学校、地域社会などで様々な差別を受けてきました。

4、部落解放運動の歴史 

1922年3月(大正11年)、京都の岡崎公会堂で「全国水平社」創立大会がおこなわれ全国から2000人を超える部落出身者らが参加しました。「人の世に熱あれ、人間に光あれ」と謳われた「水平社宣言」「日本初の人権宣言」とも言われています。

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全国水平社

水平社は、差別者への抗議と謝罪・反省を求める糾弾闘争を展開していきました。「部落民を差別をして何が悪い」と差別が公然化し、被差別者も泣き寝入りをしていた状態を糾弾闘争によって変えていきました。

戦後1946年(昭21)、全国水平社の指導者たちにより「部落解放全国委員会」が結成され、1955年(昭30)に部落解放同盟と改称し、現在に至ります(全国35都府県連に組織)。


戦後の被差別部落は「累積した差別の結果」、劣悪な住環境の実態、長欠不就学、不安定就労など生活レベルにおいても様々な問題を引き起こしていました。

この「実態的差別」の現実が、部落への偏見や忌避意識などの「心理的差別」を生みだし「差別と貧困の悪循環」が続きました。

このような差別の結果の状態を放置していることが差別行政であるとして、行政闘争が展開されていきました。個人の差別意識レベルだけでなく、その差別の結果に対する補償を求めていく闘いが展開されていきます。

 5、同和行政って?

同和行政とは、部落差別解消に向けて取り組む行政のことです。

戦後の部落解放運動の高まりのなかで、1965年(昭40)に内閣「同和対策審議会」答申が出され、同和問題の解決は国の責務であり、国民的課題である」」「寝た子を起こすな」という考えでは差別はなくならいとして、同和問題解決に向けた施策がスタートしました。

1969年(昭44)に同和対策事業「特別措置法」(特措法)が施行され2002年までの33年間、同和地区の住環境整備や教育・福祉・就労対策、同和教育(部落差別解消の人権教育)などが行われてきました。


2002年に「特措法」が失効すると同時に「部落問題は解決した」「終わった」という誤った認識などが広がり、学校や社会教育などでも部落問題に関する研修が激減していきました。

同和行政・同和教育が後退するなかで、逆に部落差別に対する社会規範が緩み、各地で悪質な差別事件が続発していきました。同時に2000年代以降、インターネットの普及により、新たな部落差別の形を生み出し、深刻化していきました。

 

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参議院・法務委員会で「部落差別解消推進法」が可決・成立

6、「部落差別解消推進法」施行(2016年12月)

このような状況の中、2016年12月に「部落差別解消推進法」(以下、「推進法」)が成立・施行されました。

推進法の第1条では「現在もなお部落差別が存在する」として、部落差別の解消に向けて国・地方自治体の責務を明らかにしました。具体的施策として、部落差別解消に向けて

「相談体制の充実」(第3条)、

「部落差別解消のための教育・啓発の推進」(第4条)、

「部落差別の実態調査」(第5条)

など国や地方自治体は部落差別解消に向けて取り組むことが求められました。

 

7、情報化社会における部落差別の深刻化

「部落差別解消推進法」成立の背景には、インターネットを悪用した部落差別の深刻化があります。ネット上の部落差別として

①偏見・差別情報氾濫、

②「部落地名総鑑」(同和地区の一覧リスト)の公開

などの問題が指摘されています。

 

近年はインターネット・SNSを悪用した差別事件が深刻化しています。部落に対する偏見・差別情報の拡散、全国の部落の一覧リスト(ネット版「部落地名総鑑」)や部落出身者の個人情報リストなどがネットに掲載され、各地の部落の動画や画像をブログやSNS上で差別的に「晒す」などの差別扇動が起きています。

 

8、「全国部落調査」復刻版裁判

 2016年2月、「鳥取ループ」と名乗るMという人物が代表を務める神奈川県の出版社(『示現舎』)が、「部落地名総鑑の原点」との見出しで『復刻版 全国部落調査』を出版するとしてAmazonで予約受付を開始し、そのデータを「同和地区wiki」という形でインターネット上でも公開しました。

 

『全国部落調査』とは、戦前、1935年に政府の外郭団体が全国約5300カ所の部落の実態調査をおこなった調査報告書です。部落の所在地・戸数・生活程度などが書かれており、部落地名総鑑の原点」とも言われた本です。

 

1975年(昭50)に発覚した部落地名総鑑』差別事件では、この本が悪用されて『部落地名総鑑』が作られ、大手の企業300社以上が一冊5万円で購入し、部落出身者の就職差別や結婚差別の身元調査に悪用されていました。法務省は10年間かけて663冊を回収し、すべて焼却処分にしました。この事件をきっかけに企業における就職差別撤廃の取り組み、同和問題・人権問題解決の取り組みがはじまりました。

 

鳥取ループ・示現舎は「同和問題のタブーをおちょくる」として、10年ほど前から同和地区の所在地を特定し、ネット上に晒してきた確信犯です。

法務局や行政から何度も人権侵犯事案との指導を受け、裁判でも負け続けていますが、ネット上に同和地区の所在地や動画や画像などをさらす行為を繰り返しています。

2016年3月、解放同盟の訴えをうけて裁判所は示現舎に対して『復刻版・全国部落調査』の出版禁止の仮処分決定を下しました。同年4月にはネット上に掲載された「同和地区wiki」というサイトも削除命令の仮処分決定が下されました。

 現在、部落解放同盟と同盟員ら248名が原告となり、一人110万円、合計約2億8000万円の名誉棄損等の民事訴訟をおこなっています。これまで東京地裁で8回の公判がおこなわれており、今年中に地裁判決が出される予定です。

 

★入門編のおすすめ図書

『知っていますか?部落問題 一門一答 第3版』(解放出版社、2013年) 
『はじめての部落問題』(角岡伸彦、文春新書、2007年)
『土地差別―部落問題を勧化る』(奥田均、解放出版社、2006年)
『結婚差別~データーで読む現実と課題』(奥田均、解放出版社、2007年)
『結婚差別の社会学』(齋藤直子、勁草書房、2017年)

『人権教育への招待』(神村早織・森実編著、解放出版社、2019年)

『部落差別解消推進法を学ぶ』(奥田均、解放出版社、2019年)
「ネットと差別扇動」(津田大介、谷口真由美、荻上チキ、川口泰司、解放出版社、2019年)