「私は差別しない。でも親戚が・・・。世間が・・・」、結婚差別をする親たちの常套句だ。反対するのが親であれば、説得する対象が明確であり、対応も考えられる。
しかし、親戚やいとこの将来の架空のパートナー・親族まで、持ち出されて反対されてしまうと、カップルは説得が困難になる。
また、「私は差別してない」という親を、差別者呼ばわりすることもできなくなる。こうやって、差別への抗議が無効化され、カップルは差別を理由に反論できなくなり、「人柄」や「熱意」で勝負せざるを得なくなる。
運良く「人柄」や「熱意」が伝わり、「部落民だけど、この人は違う」と「例外化」され、結婚が容認されても、親の差別・忌避意識は変わってはいない。
結婚を認める代わりに条件がつけられる。
「部落民ということは親戚には言うな」「部落には住むな」「子どもは産むな」といわれる。
本書ではこのような結婚差別のケースも多く取り上げられている。
『結婚差別の社会学』を読み終えたとき、これまで私自身が出会ってきた、たくさんの人たちの顔が浮かんできた。
自分の恋愛差別・結婚後差別のことを思いだし、ともに憤り、悲しみ、共感しながら本書を読みすすめた。
なぜなのか。この本では、聞き取り調査という手法を使い、数字では表すことが出来ない、生身の人間の声、差別の現実、心の奥底にある声をひろいあげている。
今も続く結婚差別のプロセスの中を生きる人たちの現実を、実証的に分析しているからだ。
私はこれまで結婚差別に関する多くの体験談を聞き、書籍や手記も読んできた。結婚差別に関する各地の実態調査や意識調査の結果も見てきた。
でも、それらの結婚差別をめぐるプロセス自体を分析し、結婚差別問題の解決のための研究がこれまで、ほとんどなかった。
この本は、学術書で終わらせず、結婚差別を受けた当事者、支援者にたいして、その解決に向けて少しでも役立つことを意識して書かれている。
著者の齋藤直子さんの研究者としての立ち位置、聞き取りを通して、かかわった目の前の人たちに対する思いが、すごく伝わってくる本である。ぜひ、多くの人に読んでもらいたい。