部落差別は、今 ~TUBAME-JIROのブログ~

当事者の声、マイノリティの視点、差別の現実を踏まえた情報発信をしています。

奈良・水平社博物館前での差別街宣~部落差別は、いま⑨~

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◆水平社博物館前での差別街宣の動画

 ネット上の差別情報を内面化し、自分たちの「正義」を叫び、路上でマイノリティに対するヘイトスピーチを行い、その動画をYouTubeにアップする。

ヘイトスピーチは、在日朝鮮人に対してだけでなく、被差別部落に対しても行われている。

2011年1月、奈良県御所市の水平社博物館前で「在日特権を許さない市民の会」(在特会)元副会長Kらが、同館で開催中の企画展「コリアと日本『韓国併合から100年』について抗議するヘイト街宣を行った。

  その際、白昼堂々と路上でマイクを使い、
「エッタ博物館、ニヒン博物館」「文句があったら出ていよ。エッタども。」「穢れた、穢れた、賤しい連中」などと、1時間にわたり、部落差別発言を繰り返し、その動画をユーチューブで公開した。

その差別街宣の動画はアクセスが集中し、すぐに「水平社」や「部落」などでの検索上位となった。

以下が、その一部である。

(閲覧注意:読み飛ばしてもらってもいいです)

 

【差別街宣の内容(一部抜粋)】

賤しいにも程があるぞ、お前たち!
いい加減出てきたらどうだ、エッタども!
エッタ、ヒニン、非人とは、人間じゃないと書くんです。

お前ら人間なのか!本当に、お前ら人間なのか!
ホントに人間だというなら、「穢多であることを誇りうる時がきた」とかそんな偉そうなことを言うなら、出てこいよ!
出てきません。これがエッタどもの正体です。

撮影者:「エッタってなんですか?」
エッタとは、「穢れ」が「多い」と書きます。

穢れた、穢れた、ホンマに金品卑しい連中。文句あったら、いつでもこい!

糾弾集会、お前たちが過去にやってきたらしい糾弾集会、望むところですよ。いつでも来てくださいよ、糾弾集会。

差別をなくすために、がんばっている私
あなた方のような差別主義者、

差別をなくすのを妨害するような連中とは、
一切、逃げることなく闘います。
そろそろつかれたので、これぐらいに・・・

 

◆水平社博物館が提訴!

その後、水平社博物館がKに対して名誉棄損で1000万円の損害賠償請求を起こし、2012年6月に奈良地裁は150万円の損害賠償請求を認める判決を下した。

判決では「『穢多』および『非人』などの文言が・・・不当な差別用語であることは公知の事実であり・・・被告の上記言動が原告に対する名誉毀損に当たると認めるのが相当である」とされた。

 

◆裁判には勝ったが・・・
(1)差別は法的には野放し
差別街宣行為は刑事罰に問われず、規制されない。
②今回の事件では、水平社博物館が差別街宣の対象となり、提訴が可能となった。しかし、不特定多数の人々に向かって差別発言をした場合には、名誉毀損もしくは侮辱罪の適用は困難。

つまり部落差別のような社会的差別に関わる行為は、それだけでは違法行為にはならない。

(2)人権擁護行政は機能していない
①法務局は水平社博物館に2回の聞き取りを行い、その後裁判となったことから対応を中断した。

②最終的に法務局の措置は「勧告」。強制力はなく、本人が受け取りを拒否することすら可能。また「処理」の内容を被害者に必ずしも報告する義務はないとしている。

 

◆学校現場への影響

この動画は判決が確定する1年以上、削除されず出されることがなかった。水平社博物館がGoogle社に対して、判決内容を示して削除要請を行った結果、ようやく削除された。

その間、学校現場などで二次被害が起きていた。ネット検索で「水平社」「水平社博物館」で検索するとこの動画がYouTubeの検索トップに来る状態が続いた。

西日本などの人権教育に熱心な学校では、修学旅行で奈良や京都に行くときに、水平社博物館の見学コースにしている学校がある。

事前に、子どもたちは水平社や水平社博物館について学習する。また、学校の社会科の授業で、小・中学生が「水平社」を学習する。その際、調べ学習で「全国水平社」「水平社博物館」などをネット検索すると、これらの動画が検索上位にあり、この差別動画を見て生徒や保護者がショックを受けているという、二次被害も学校現場から報告されている。

私自身も、先生や部落の保護者から「あの動画、なんとか削除できないか。うちの子どもたちが、調べ学習であの動画を見て、ショックを受けて・・・」「特に部落の子どもたちが、すごくきつい思いをしていて」と、何人もの先生たちから相談を受けた。

 

◆閲覧による二次被害

ヘイトスピーチも同様だが、差別的情報は、文字情報だけではない。より攻撃性、ダーメジが大きいものが動画であり、現実の路上での差別言動である。

それらが何万回と再生され続け、拡散される状況が、いかにマイノリティへの肯定的アイデンディディを破壊し、差別し続けることのなかを認識しておく必要がある。

たった、一つの差別動画・差別投稿でも、それが何万、何十万回と再生・拡散され続ければ、それは「マイノリティを傷つけ、あるいは発言を萎縮させるのに」十分なのだ。

今年は、全国水平社が創立して95年になる節目の年だ。
100年近く「よき日の為に」、先輩たちが勝ち取ってきた現在の人権水準を後退させてはいけない。破壊させてはいかない。

 

【参考情報】

 

1,差別街宣裁判の経過

2011年
1月5日 Kが、水平社博物館に来館。
1月22日 Kが博物館前で約1時間、差別街宣を行う。
2月23日 大阪法務局と奈良法務局が合同で、水平社博物館に調査。
8月22日 水平社博物館、Kを名誉毀損奈良地裁に提訴。
10月3日 被告Kの反論・「答弁書」が提出される。
10月17日、第1回口頭弁論、終了後、「差別街宣を許さない奈良の会」結成集会開催。
11月21日 大阪法務局長から、調査中止の通知。
      ※係争中の差別事案は調査も対応もしないという通告。
12月12日 「1・22 差別街宣を許さない奈良決起集会」を奈良県解放センターで開催。
12月16日 Kから水平社博物館の訴状に対する反論「準備書面」。
12月19日 第2回口頭弁論、終了後報告集会を開催。
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2012年
2月3日 水平社博物館、Kの「準備書面」への反論「準備書面」提出。
3月5日 第3回口頭弁論 終了後報告集会開催。
     ※Kの反論「準備書面」、提出期日2/29だが、未完成のまま提出。
5月7日 第4回口頭弁論 終了後報告集会開催。
     ※代理人が裁判官に第2準備書面について陳述。 終了後報告集会開催。
6月25日 判決言い渡し。


2,判決文要旨

平成24年6月25日判決言渡し 
平成23年(ワ)第686号慰謝料請求事件 
口頭弁論終結日 平成24年5月7日

◆判決
原告 公益財団法人奈良人権文化財団(変更前の名称 財団法人水平社博物館)
被告 K

◆主文     

1、被告は原告に対し、150万円及びこれらに対する平成23年9月11日から
  支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2、原告はその余の請求を棄却する。
3、訴訟費用はこれを20分し、その17を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4、この判決は、1項に限り、仮執行することができる。

◆事実及び理由(略)
第1 当事者の求めた裁判(略)
第2 事案の概要(略)
第3 裁判所の判断
第4 結論(略)


◆裁判所の判断

 1、被告の不法行為の成否

被告は、原告が開設する水平社博物館前の路上において、ハンドマイクを使用して、「穢多」および「非人」などの文言を含む演説をし、上記演説の状況を自己の動画サイトに投稿し、広く市民が視聴できる状況においている。

そして、上記文言が不当な差別用語であることは公知の事実であり、原告の設立目的及び活動状況、被告の言動の時期及び場所等に鑑みれば、被告の上記言動が原告に対する名誉棄損に当たると認めるのが相当である。

 

2、原告に生じた損害の額

前記1で判事した被告の不法行為となる言動はその内容が原告の設立目的及び活動状況等を否定するものであり、しかも、その時期、場所及び方法等が原告に対する名誉棄損の程度を著しくしていることなどの事情に鑑みれば、被告の不法行為によって原告に生じた有形、無形の損害は相当大きなものであるといわざるを得ず、これに対する慰謝料は150万円が相当である。