部落差別は、今 ~TUBAME-JIROのブログ~

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住宅販売会社が同和地区調査を!~部落差別は、いま⑥~

 

 

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1,土地差別とは?

「部落差別は、利害が絡んだときに顕在化する」と言われる。
そのうちの一つが不動産売買における部落差別。いわゆる土地差別と言われている。

住宅購入に際して、同和地区を避ける市民が多くいる。各地の意識調査を見ても、約半数近くの市民が同和地区の物件を「避ける」と回答。

不動産業者への実態調査でも、約2~3割の不動産の担当者がお客さんから「同和地区の物件かどうか」の問合せを受けたことが「ある」と回答している。

同和地区に住めば、自分たちまで「同和地区の人間とみなされる」=「差別される立場になる」との意識、「同和地区はガラが悪い。子どもの教育環境が悪い」などの市民が持つ同和地区へのマイナスイメージや偏見の中で忌避されている。

 

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2,中古住宅販売会社による同和地区調査事件

中古住宅販売会社のK社は、全国46都道府県に107店舗を持つ、業界トップの中古住宅販売会社。競売にかかった中古物件など入札し、リフォームし販売。1000万円でマイホームが購入出来るとして、この10年で大きく成長した会社。

競売物件の入札に際しては、現地調査をおこない、中古物件の築年数やリフォームにかかる費用、立地や環境など、詳細な事前調査をおこない、入札価格を決定する。

営業担当者と支店長、エリア課長が決済した後に、本部の営業部長が最終入札価格を決定する。その際に、価格決定の重要な社内資料が「競売仕入チェック表」(「仕入表」)だ。

K社では、全国13府県(12支店)で、物件が同和地区かどうか調査し、同和地区の物件であった場合には「仕入表」に、「同和地区」「特殊部落」「同和ド真ん中」「不人気エリア」などと差別記載をおこない、上司や本部に入札を中止したり、仕入れ値を安くするように注意喚起していたことが発覚した。

同和地区の物件の場合は、競売物件を入札してリフォームして販売しても、一般地区よりも安くしなければ売れにくいからだ。

市民が同和地区を忌避する実態があり、その結果、販売価格が低下する。住宅販売会社は「損をしたくない」との思いから、市民の差別意識・忌避意識に同調し、同和地区調査を行っていた。

 

3,事件の発覚

2012年11月、中古住宅販売会社のK社和歌山店の社員が、ある物件について和歌山県庁(出先機関)に照会をおこなった。

その際、FAX送信した「仕入表」の特記事項覧に、その物件が「同和地区であり、需要はきわめて低くなると思われます」との記載があり事件が発覚した。

K社和歌山店は、同様に3件の物件に対しても同和地区の物件であることを明記する記述があった。

その後のK社(本社)は国交省の指導を受けて、同様の同和地区調査がないのか全国46都府県107店舗を社内調査した。その結果、全店舗の「仕入表」14,070枚(過去5年分)のうち、全国13府県(12支店)で26件の差別記載の存在が明らかとなった。

同社の仕入表には同和地区の物件については、仕入票に「同和地区」「特殊部落」「同和ド真ん中」「不人気エリア」など同和地区の物件であることが差別的に記載されていた。

記載した担当者は「同和地区の物件は売れにくい」ので、上司へ「入札を断念して欲しい」「仕入れ価格を抑えて欲しい」と「注意喚起」のために記載した証言している。上司は差別記載を同和地区と認識した上で「受け取り」「指摘せず」「値決め」し続けていていた。

その物件が同和地区か否かをどう判断したのかについては、近隣住民や地元の従業員、インターネット(隣保館等の施設)等で入手した情報で判断していたことが明らかになった。

K社は全国46都道府県に107店舗を持ち、業界トップの中古住宅販売会社。しかし、創業以来35年間、1度も人権研修をおこなっていなかった。そのため、差別調査や差別記載に対して社内の誰も指摘する人がいなかった。

今回の事件では、不動産売買で同和地区情報を営業活動に利用してきた宅建業者の差別体質が明らかとなった事件。

 

5,事件の差別性と問題点、背景と要因

①同和地区を差別的に評価し、差別的表現で記載している

・市民の同和地区への差別的価値観に、会社(担当者)も同調し、部落を差別的に評価。

・「特殊地区」「特殊地域」とは、「特殊な地域」という予断と偏見にまみれた部落への

差別表現である。かつての「特殊部落」「特種部落」の現代版ともいえる表現。

・「旧同和地区」「D地区のド真ん中 地域性注意」「不人気エリア」などと差別的に表記された当該住民(校区)からすれば、自分の大切な「ふるさと」を差別されたことに。

 

②近隣住民や同僚、インターネットなどで入手した同和地区情報をもとに土地差別調査

・物件調査に際して近隣住民や同僚、過去の販売経験、インターネットで「隣保館」等を検索し、同和地区情報を入手。

・その情報をもとに同和地区かを判断、値決めの判断材料に利用してきた。近隣の人から「教えられた」としても、仕入表へ差別記載したのは担当者の強い意志で行っている。

・同和地区でない物件も「同和地区」と誤認し、差別記載している。担当者の予断と偏見によって「隣保館」「刑務所」などが付近にあれば、同和地区と「見なして」差別をしていた。

 

③人権を無視した営利優先の企業活動を行ってきた会社の体質

・同和地区の物件は「売れにくい」ために、「長期在庫」になると自身の給与(評価)にも影響する。そのため、担当者は上司に「同和地区」であることを伝え、仕入価格・販売価格を「抑えてもらうように」に差別記載してきた。

・同和地区を忌避する市民の差別意識を前にして、無批判に営業活動を行えば、当然、自らも差別的行動をとることになる。その行動が社内で「あたりまえ」となっていた会社の差別体質が問われている。

 

④企業活動で明確な差別行為に自浄作用が働かなかった

・上司も差別記載を認識した上で、指摘することなく、「値決め」をし続けてきた。差別記載を指摘するといった人権感覚は、店長・課長・部長にも全くなかった。

・「創業以降35年間、一度も人権研修はおこなっていない」というように、人権問題への取り組みが欠落していたからこそ、誰も差別記載を指摘できなかった。

 

宅地建物取引業において土地差別調査が常態化している

・「会社は指示していない」と土地差別調査を個人の責任に矮小化している。現場では土地差別調査が常態化し、会社として指示する必要性がなかっただけ。「会社として指示する必要性」があったのは、従業員に対する人権研修であった。

宅地建物取引業に携わるものとして、同和問題について正しく理解していなければ、無自覚のうちに部落差別に加担していく。

 

⑥市民の同和地区(校区)への忌避意識と、「避けられる」実態的差別の現実が背景に

・今回の土地差別調査事件の背景には、市民の同和地区への根強い忌避意識と「避けられる」同和地区の実態がある。

・「調べる業者が悪いのか、調べて欲しい市民意識が悪いのか」、どちらも問題である。

・さらに、交通の利便性(道路が狭い、急傾斜地等)や教育環境、生活・福祉・就労などにおける社会的矛盾が集中的に表れている厳しい同和地区の実態がある。

宅地建物取引業に関する差別システムの改善策については、早急なる対応が求められているが、同和地区を忌避する市民の差別意識の払拭が、何より優先される課題である。部落問題に関する学校教育、市民啓発の充実が求められている。

・同時に、市民が忌避する「事実」として、高齢化、過疎化、生活保護や一人親世帯、就労面など、社会矛盾が集中的にあらわれている同和地区の実態的差別の現実に対して、

今後、宅建業界や企業、行政、NPOなどによる具体的取り組みが必要となってくる。

 

【参考:宅建業者への実態調査結果】

(物件が同和地区かの問い合わせ「あり」)

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⑦国及び自治体・業界団体による宅建業者への指導、人権問題に対する取り組みの欠落

・今回の事件は、中古住宅販売業界トップであり、全国展開している会社が起こした差別事件であり、宅建業者の差別体質と差別構造が浮き彫りとなった。

宅建業界において、このような土地差別調査が放置されてきたという業界の差別体質と、その差別体質にメスを入れてこなかった国及び自治体の取り組みの欠落が背景にある。

・今後、国及び業界団体による全国的なアンケート調査(実態把握)の実施、土地差別調査の根絶を目的とした「宅建業法」の抜本的改革、宅建業団体における人権ガイドラインの策定と同和問題解決に向けた主体的な取り組みが求められている。

 【土地差別調査が放置されていたという業界の差別体質】

・国の通達「宅建業法第47条」「同和地区を教えなくても抵触しない」を多くが知らない。

都道府県宅建協会で人権研修を実施しているのはごく一部。あっても参加していない

都道府県の法定講習(5年に1度の免許更新)で人権研修をやっているのも一部の府県。

都道府県や各市町村などで宅建業者を対象にした人権研修は、ほとんど行われていない。

 

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