部落差別は、今 ~TUBAME-JIROのブログ~

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「同和地区」って呼称を使ってはいけないの?~部落問題の基礎知識①~

①「旧同和地区」という言い方

「部落差別解消推進法」をめぐる国会審議のなかで、被差別部落のことを「旧同和地区」と呼ぶ議員がいた。ボクはすごく気になった。

「特措法がなくなったのだから、同和地区はない」「実態調査で行政が、誰が同和地区出身かを特定することは差別になる」と共産党議員はいっていた。

行政が部落差別を解消するための同和行政を推進していく上で、部落差別を受ける「ひと」と「地域」を抜きには語れない。

部落差別を受けたという当事者が、行政に相談に来たとして、「同和地区出身者というのはいません」「だから、あなたが受けた差別は、差別であはありません」とでも言うのだろうか。

仮にそんなことを言っても、部落差別を受けた被害者に対して、なんの意味もない。現場では、そんな机上の空論を議論なんかしていない。

部落差別解消法が施行された。当事者の事をなんと呼ぶのか?すごく基本的で大事なことだと思う。答えは簡単。

部落差別を受る地域を「被差別部落」「同和地区」と呼べば良い。

そこで生まれた人を「部落出身者」「同和地区出身者」、部落に住んでいなくても親や、その地域にルーツがある人を「部落関係者」「同和地区関係者」と呼べばいいだけ。

もう一度、同和地区の呼称問題について、基本的な事を確認しておきたい。

 

②同和地区という呼称

「同和地区」という呼称は、部落差別を受けている地域(被差別部落)を指す行政用語として、1969年「特別措置法」以前から使用されきた。

1965年の同和対策審議会答申では、「この『未解放部落』または『同和関係地区』(以下単に『同和地区』という。)」とも記されている。

 

旧同和地区=「同和地区は存在しない」

2002年3月末の「地対在特法」失効をもって、「同和地区という呼称を使用してはいけない」というのは、おかしな話。

さらに「旧同和地区」というのは「昔、同和地区であった所」という意味。つまり、「昔は部落差別を受けていた地域」=「部落差別は今はもう存在しない」ということを意味する。

今回の部落差別解消法には「現在もなお部落差別は現存する」(第1条)としており、「昔、差別を受けていた地域」でなく「現在も差別を受けている地域」だから、「旧」でなく従来通り同和地区と呼べばいい。

 

同和地区の呼称と特別措置法

2002年3月に失効した「地対財特法」には、「同和地区」も「同和」という言葉すらない。一連の特別措置法において「同和」という文言が条文に用いられたのは1969~1982年「同和対策事業特別措置法」だけ。

33年間の特別措置法において「同和」の条文が存在したのは、1982年までの13年間だけ。以来2002年3月までの20年間、「特別措置法」の条文からは「同和」という言葉は姿を消している。法の失効=「同和地区」の文言を使用してはいけないなら、1982年に議論すべき。

 

「同和対策審議会」答申以前から使用していた

「同和地区」という呼称は、1969年の最初の特措法以前から、行政的にごく普通に使ってきた。1965年の同対審答申以前から、部落差別を受けている地域という意味で行政用語として公文書で使用されきた。なぜ、特措法失効=「同和地区」の呼称使用がダメになるのか。それは、「部落問題は解決した」という認識が前提にあるからだ。

 

③同和対策事業における地区指定

1969年の特措法以後、特別対策を実施する地域が「同和地区」(=行政用語としての部落差別を受ける地域が対象)。

「同和地区」に対する事業である以上、行政はこの事業「対象地域」である「同和地区」を限定する必要に迫られた。それが「地区指定」という作業で、地元と協議の上に設定した。

 

「同和対策事業対象地域」

「同和地区」を対象とする同和対策事業を執行するうえで、「同和対策事業対象地域」が指定されてきた。こうした経過の中で「同和地区」という言葉は、「部落差別を受けている地域」という意味とは別に、「同和対策事業の対象地域」という二つの意味が浸透していった。

こうして、「同和地区」と「同和対策事業対象地域」という意味の混同が「特別措置法が終了したら『同和地区』はなくった」との発想に。

法的に正確に言えば、特措法失効=「同和対策事業対象地域」がなくなっただけで「同和地区」(部落差別を受ける地域)は、部落差別があるから存在している。

 

④特別措置法の失効=同和行政の終了ではない。
特措法後の同和行政について議論された国の地域改善対策協議会(地対協)の意見具申(1969年)は、「現行の特別対策の期限をもって一般対策へ移行するという基本姿勢に立つことは、同和問題の早期解決を目指す取組の放棄を意味するものではない。」

「今後の施策ニーズには必要な各般の一般対策によって的確に対応していくとうことであり、国及び地方公共団体は一致協力して、残された課題の解決に向けて積極的に取り組んでいく必要がある」と、一般対策を活用して同和問題の早期解決に取り組むとの方針を示した。

「同和行政」とは、部落差別の解消を目的とする行政のこと。1965年の「同対審」答申に「同和行政は、基本的には国の責任において当然行うべき行政であって、過渡的な特殊行政でもなければ、行政外の行政でもない。部落差別が現存する限りこの行政は積極的に推進されなければならない。」と明記。

★1996年「地対協」意見具申の骨子
1,同和問題は過去の問題ではない。解決に向けて進んでいるものの、依然として我が国における重要な問題。
2,特別対策としての同和対策事業は終了する。
3,特別措置法の終了が同和問題の早期解決をめざす取組の放棄を意味するものではない。

 

【同和地区の実態把握は出来ない?】
部落差別が特定の地域に対する差別として機能している以上、それらの特定の地域を限定することによって、被差別の現実を把握する作業は、部落問題の解決に必要なのは当然。新たに「地区指定」しなくても、「旧同和対策事業対象地域」を対象にすればいいだけ。

「地区指定」したから、その地域の人は部落差別されるようになったの?No!部落出身を隠しても結婚や就職で身元調査で出自を暴き、不動産取引で同和地区を忌避する市民がいるから、「被差別」地区になっている。その差別の実態を把握することが、なぜ差別になるの?

 

まとめ

「旧同和地区」という言い方は、アウトだし、やめて欲しい。

部落差別は「存在する」のだから、従来通り「同和地区」「同和地区出身者」と使えば良い。

 

参考:『同和行政がきちんとわかるQ&A』(奥田均・村井茂,解放出版社、2008年)を、ぜひお勧めします。

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