部落差別は、今 ~TUBAME-JIROのブログ~

当事者の声、マイノリティの視点、差別の現実を踏まえた情報発信をしています。

法務省が同和地区情報の削除対応を強化!

mainichi.jp

鳥取ループ・示現舎を意識した通知

 法務省同和地区の所在地情報の削除強化に取り組む方針を出しました(2018.12.27 通達)。明らかに鳥取ループを意識した、同和地区の所在地情報のバラまきへの対応指針です。あえて「差別解消」という名目をつけ、拡散する確信犯の対応もアウトにすると明確に位置付けました。

「部落差別解消推進法」施行から3年もかかったけど、一歩前進です。

このガイドラインをもとに、モニタリングと削除要請をプロバイダへ。企業へは広告撤退の通報など、どんどん展開していく取り組みが重要になってきます。
 2017年3月に国内プロバイダ業界団体も「同和地区情報の掲載」に関して差別禁止規定に該当するとの解釈を示し、各事業者の利用規約等の改正を呼びかけています。 法務省Googleマップ、ヤフーマップ、ヤフオク、メルカリも含めて「部落地名総鑑」への対応について、しっかりと取り組みを進めて欲しいです。

「諸刃の剣」には警戒

ただし、気をつけないといけないのは、この方針は諸刃の剣であることには注意する必要があります。正当な目的での実態調査や研究などの発表などの場合でも、規制・削除されることがないように注意しなければいけません。

法務省は「学術・研究などの正当な目的があり、情報の公表に合理的理由が認められるケースも想定されるため、『例外に該当するかどうかは個別事案ごとに判断する必要がある』としている」と回答しています。

上記の点をしっかりと踏まえて取り組んで行く必要があります。

法務省の削除依頼に法的拘束力がない

そして何よりの課題は、法務省がプロバイダに削除要請をしても法的拘束力がなく、あくまでSNS事業者の判断次第ということです。モニタリングで個人や行政が削除要請をし、法務省から削除要請をしても消えないケースもあります。それらの立法事実をしっかりと積み上げて行くことが今後、重要になってきます。

部落地名総鑑」はアウトという最低限のルールは、ネット上でも通用するようにする必要があると思います。

 

以下が、毎日新聞の記事(2019年3月24日)です。

インターネット上にある同和地区(被差別部落)に関する情報について、法務省人権擁護局が対応を強化した。従来は特定の人物を対象としていたり、差別の助長・誘発が目的だったりする場合に限ってプロバイダーなどに削除要請をしていたが、目的に関係なく、特定地域を同和地区であると明示していれば原則として削除を要請する強制力はないものの、これまでの運用に比べ、踏み込んだ対応となる。

 法務省がインターネット上の書き込みなどの情報を「人権侵害」とみなすのは、主に(1)名誉毀損(きそん)

(2)プライバシー侵害

(3)不当な差別的言動

(4)人種、社会的身分、門地(家柄)などの属性を理由に差別の助長・誘発を目的とした情報

――の4種類に分けられる。

同和地区の明示は(4)に該当する。

 現行の運用では、各地の法務局や地方法務局は(1)~(4)について被害者らからの申告を受けると調査を開始。

特定人物が対象となっている場合はプロバイダーへの削除要請などの措置を講じるが、(1)~(3)の不特定多数に対するものは削除要請までは行っていない

(4)については、差別を助長・誘発する目的であることが認められる場合、削除要請している。

 しかし、同和地区に関するネット情報の中には「部落差別の解消目的」などを掲げていながら、実質的な狙いは差別の助長・誘発であることが疑われるケースもあるという。法務省は削除要請の要件を逆手にとっている可能性があると判断し、昨年末に法務局・地方法務局に従来の運用を見直す通知を出した。

 通知は「特定の地域が同和地区である、またはあったと指摘する情報を公にすることは、差別の助長・誘発目的かどうかにかかわらず、人権擁護上許容し得ない」とし、「原則として削除要請などの措置の対象とすべきだ」と明記。ただし、学術・研究などの正当な目的があり、情報の公表に合理的理由が認められるケースも想定されるため、「例外に該当するかどうかは個別事案ごとに判断する必要がある」としている。

 

参考:2018年12月27日、法務省が地方法務局へ出した通達
 

 

以下、法務省通達の全文です。

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メルカリで「部落地名総鑑」が販売されていた!

「部落地名総鑑」佐賀県内からネット出品 出版中止の原本復刻版、3冊売れる

 

鳥取ループ・示現舎がPDFでバラまいた『復刻版・全国部落調査~部落地名総鑑の原点~』がメルカリで今年1月に3500円で3冊販売されていました。佐賀新聞(2019/3/22)、朝日新聞(3/23)に記事しています。

示現舎の責任はもちろんですが、部落差別に加担したメルカリの企業の社会的責任、法務省の指導も含めた国会での追及も必要です。

部落地名総鑑」が公然と販売されてしまっている現実。...
100年に渡る差別身元調査規制の人権基準、社会規範が壊されている状況は深刻です。

「身元調査の何がだめなの?」という空気感が醸成されていきます。

 

 

 

以下は、佐賀新聞(2019/3/22)の記事です。

部落地名総鑑佐賀県内からネット出品 出版中止の原本復刻版、3冊売れる

3/22(金) 9:15配信

佐賀新聞

 同和地区や被差別部落の地名を一覧化した「部落地名総鑑」の原本復刻版がインターネットのフリーマーケット佐賀県内から出品され、3冊が購入されていたとみられることが分かった。同著を巡っては部落解放同盟が申し立てた出版禁止の仮処分が決定し、東京地裁で本訴訟が続いている。

 唐津市佐賀県によると同市職員が今年1月20日フリマアプリに「復刻 全国部落調査」が出品されていることに気づいた。約200ページで、発送元地域は佐賀県、売価3500円とされ、「以前(大手通販サイトから)販売される予定だったが、突然出版中止となった幻の本」と解説が添えられていた。

 市から連絡を受けた県人権・同和対策課が翌21日、佐賀法務局に報告するとともに、運営会社にサイトを通じて「不適切な商品」と通告。その後、再度2月4日に削除を要請し、同日に削除されるまでの間、3冊が購入された形跡があった。

 「全国部落調査」は1936年に刊行された被差別部落の調査報告書で、「部落地名総鑑」の原本の一つとされる。神奈川県の出版社が2016年2月、ホームページで復刻版の出版を予告。部落解放同盟が出版差し止めを求める仮処分を申し立て、横浜地裁が同4月、出版禁止の仮処分を決定している。しかしネット上でダウンロードできたことから、出品本はこのデータを印刷したとみられる。

 部落解放同盟佐賀県連の濱本隆司委員長は「インターネットを悪用し、差別行為が広がっている現実を突きつけている」とし、「情報化の進展など状況の変化に対応した部落差別解消推進法に準じ、県や市町も条例化を急ぐべき」と話す。

ヘイト・フェイク対策、求められる人権教育の教材

ネット上の差別、人権侵害の現実に対する人権教育の教材化が各地で検討されています。一番大事なのは、個別人権学習だと思っています。それを前提とした上でどのような教材や人権学習が必要なのか、個人的には以下のような教材や授業案があればいいなと思っています。

1,違反通報のスキル、相談窓口の紹介

①通報スキルを身につける

SNS上で差別投稿や誹謗中傷などの投稿を発見したら、スルーしないで違反通報をする。そのスキル、通報の仕方などの具体的なスキル研修が必要。スルーすることで、ネット上の環境が悪化していくため、つねにクリーニングする必要がある。サイレントマジョリティではダメで、具体的にコメントに「悪いね」ボタンを押す、違反通報をするなどのワンアクションが大事。

LINEやTwitter、インスタなどのSNS上で、子どもたちは芸能人や知人などの攻撃的な投稿を目にします。自分の好きなタレントや友人・知人への暴力的投稿、誹謗中傷・差別投稿、悪口などが書かれたり場合は、ワンアクションすることの重要性を学ぶ学習教材が必要かと思います。

また自分が被害者になったときに、どうすればいいのか、相談窓口の紹介、悪質な場合は警察に相談できるなど、そんな被害者救済のスキルも学習する必要があると思います。

反差別のロールモデルの提示

「保守速報」のエプソンへの広告通報の取り組み。昨年の春~夏にかけて、「ネトウヨ春のBAN祭り」と称した、YouTube上のヘイト動画に対して、がんがん違反通報をして、多くのヘイト動画が削除されたり、アカウント停止に追い込みました。これはすごく大きな出来事でした。そのような取り組みの成果なども共有することも大事だと思います。

現実社会では、火事を目撃したら消防署へ通報します。殺人などの犯罪を目撃したら警察に通報します。大怪我をした人がいたら救急車を呼びます。同じように、ネット上での人権侵害を目撃したら、放置せず、通報する。それが「あたりまえ」になる価値観とスキル(通報先先等)を教えておくことが大事です。

2,ポジティブ情報の発信

①「安心・おすすめ」「ヘイトサイト」リストの作成

SNS等を通じて、どんどんポジティブ情報を発信していくことの重要性。例えば人権学習で子どもたちや学生・教職員が参考にできる「安心サイト」「おすすめサイト」などのリスト化。情報がありすぎて何が正しい情報なのか、専門知がないと「見抜け」ません。

私が医療に関する情報サイトをみても専門知がないために、なにがフェイク情報なのか見抜けません。その意味では人権課題毎に、信頼できる団体や機関などが「おすすめ」「ヘイトサイト」リストを作成して、参考にしてもらうということが求められていると思います。

②差別言説のパターンを事前に学習(ワクチン、抵抗力をつける)

 デマやフェイクニュースに対する抵抗力を付けるためには、実際にネット上ではどのようなデマや偏見の言説が飛び交っているのか、具体的に代表的なパターン化された言説を学習してくことが大事。

例えば、災害時になると「外国人の窃盗団が闊歩している」などのデマ言説。デマによる関東大震災での朝鮮人大虐殺、東日本大震災での外国人犯罪の増加(デマ)など。事前にそのような傾向があることを知っておけば、同じような事態に遭遇しても、「ん?ちょっと待て」と「保留」⇒「ファクトチェック」の態度を身につけることが大事。

特に、現代的レイシズムの言説がポイントかと。「部落差別はもうないのに、自分たちの利権さりのために、騒いでいるだけ」「学校で同和教育をやるから、部落差別が残る」(寝た子を起こすな論)「同和対策事業=同和利権」などの言説。

在日朝鮮人たちは特権を持った悪い奴ら。税金も払わず、生活保護を不正受給している」「日本の犯罪の多くが在日コリアン」などの言説。

 部落の歴史を学ぶことも大切だけど、実際にネット上で飛び交っているのは、上記のような「現代的レイシズム」の言説。実際にネット上のこれらの言説を授業で確認し、その間違いやファクトチェック(事実に基づく指摘)の学習などが効果的です。

③動画テキスト

動画を活用した情報発信も重要に。学校や行政では「人権ポスター」「人権作文」「人権フォトコンテスト」などをやってきましたが、ネット上では文字でなく動画が主流。「人権動画コンテスト」など、YouTubeなどを使って、作品募集やアップするなども必要ではないでしょうか?

また、これまでの読み物を中心とした副読本でなく、過去の教材などを動画風にして再作成してく取り組みも必要かと。被差別当事者などの生い立ちや体験談などたくさんの教材があります。それを読み聞かせ的な感じで、動画にアップしてくだけでもすごく影響があると思います。

その他、いろいろあるかと思いますが、上記の点については、先生でどんどん教材開発をして欲しいと思っています。

④匿名のヘイト投稿でも摘発される!

 昨年12月に大分市の60代男性が、川崎市在日コリアンの中学生へのヘイト投稿で、警察により摘発されました。今年1月、沖縄の男性がヘイト投稿をおこない、検察が犯人を特定し、略式起訴で罰金10万円を命じました。

ヘイトスピーチまとめサイト「保守速報」の管理人も200万円の損害賠償の判決が出ています。「ネット上の投稿をまとめただけ」という理屈は通用しなくなりました。

これまで民事で被害者が裁判を行ってきたのですが、刑事としてもヘイトスピーチが「名誉毀損」「侮辱罪」として摘発されるようになってきました。匿名性での書き込みであっても、突き止めることが出来る。その時は社会的な責任が問われること、これらの事実を踏まえた学習教材も子どもたちに大事かと。

ネット上にも「マナーとルールが必要!」という価値観を当然にしていくことが教材も求められていると思います。

 

ネットはヘイトにどう向き合うべきか~解消法施行から2年

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5月30日の院内集会「解消法施行から2年 ネットはヘイトとどう向き合うべきか」では、多くの学びと政策課題への新たな視点を持つことが出来ました。

なかでも、政府・自治体によるモニタリングに関しては、ヘイトスピーチと部落差別に対するこれまでの取り組みの違いなどを考えさせられました。

部落差別は、戦後50年におよぶ同和行政の取り組みにより、結婚差別や就職差別、身元調査、土地差別、賤称語(差別落書き、差別発言)など、どういう行為が部落差別であるのか、判断基準の認識が行政にもある程度あります。

現実社会では部落地名総鑑や差別身元調査はアウト!、「エタ」「ヨツ」などは部落差別に該当する差別語であり、差別落書として削除されます。差別身元調査も職業安定法や探偵業法、県条例などで規制されています。現実社会でダメなものは、ネット上でもダメというように判断しやすい。

一方、ヘイトスピーチについての政府によるモニタリングは、国家による「検閲」のリスクを問題視する指摘もあります。何をヘイトスピーチとするのかなど、まだ、行政の取り組みや認識も十分でないために、政府がモニタリングを実施することに対して、報告者の津田大介さんは慎重な見解でした。

政府の「検閲」リスクを回避するなら、ドイツの第3者機関(反差別団体や当事者団体も構成メンバー)のように、プロバイダーが差別投稿かの判断に迷った場合に、その機関に認定しもらうようなスタイルなら可能です。

すでに、マスメディアではBPO放送倫理・番組向上機構)があり、放送業界団体として、人権侵害への対応や見解、ガイドラインを示しています。その機関を政府が支援するという形です。

これを、国内のネットメディアやプラットホーム事業者の業界団体で、BPOのような機関や部会?などを設置することも一つの方法かと思いました。

プロバイダー等が削除を実施するにあたり、自分たちで判断できない場合は、第3者機関に相談し、判断をあおぐという形。そこが削除基準を作る。その第3者機関には、部落差別、在日外国人差別、障害者、LGBT、女性、アイヌ、沖縄など、ケースによって、当事者団体の意見を聴取し判断する仕組みなどが出来ないかとも思いました。

ネット差別の現実は、ある程度、わかってきました。これから、ネット対策をどうしていくいのか、しっかりと勉強していきたいです。

当日の様子は下記の報道を参照ください。

朝鮮新報 http://chosonsinbo.com/jp/2018/06/hj180601/
朝日新聞  https://www.asahi.com/sp/articles/CMTW1805311300001.html
神奈川新聞 www.kanaloco.jp

TBSラジオ 荻上チキ・Session-22 

twitter.com

Buzzfeed https://www.buzzfeed.com/jp/kotahatachi/no-hate
NHK https://www3.nhk.or.jp/news/html/20180530/k10011458871000.html
共同通信 https://this.kiji.is/374495916864488545?c=39546741839462401
東京新聞 http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201805/CK2018053102000143.html

ネット上の人権侵害は過去最高2217件(法務省2017年度)

法務省が2017年度の「人権侵犯事件」を発表しました。

昨年度の人権侵犯の処理件数は19,722件。

「差別待遇事案」は785件で、同和問題86件ありました。


ネット上の人権侵害は、2,217件対前年比16.1%増加)で5年連続で最高記録を更新しています。

法務省が「救済措置」を講じた具体例(事例9)に、「インターネット上における識別情報の摘時」として、掲示版での同和地区の所在地情報に対し、法務省が削除要請を行い、削除された事例が報告されています。

*1

 

ネット上において部落差別を助長する地名の書込等はアウト!
ということが改めて示された結果となっています。今後も自治体や個人等でモニタリングおこない、削除要請に取り組んでいく必要があります。

 

法務省がもっと積極的に削除要請を!

ネット上の人権侵犯は2217件(5年連続 過去最高 前年比16%増加)。

しかし、法務省が実際に削除したのは約3割(削除要請率25% 処理理件数568件/2217件)。

法務省は基本的に、ネット被害者が相談に来ても、
①本人がプロバイダーへ削除依頼するのが前提条件。その方法等を「援助」するだけ。
②本人が削除要請をしてもダメな場合などに法務局が削除「要請」(約2~3割)する。

プロバイダーが海外の場合は、自分で英語やフランス語などで削除依頼をしなければいけない。それも含めて、個人で対応することはほんとに大変です。

 ★氷山の一角
各地の人権意識調査の結果を見ても、人権侵害を受けた被害者の9割以上は、法務局に相談に行っていません

  そういう意味では、ここで把握されている数は氷山の一角。

多くの被害者が泣き寝入りしている現実を、しっかりと受け止める必要があると思います。

「差別がない」のでなはない。マイノリティがいないのではない。声を上げれない、相談できる場所や人がいないだけ。

その一歩として、人権に関わる人には、まずは、法務省の人権侵犯事件の報告書を読んでもらいたいです。

http://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken03_00214.html

*1:「インターネット上の掲示版に、実在する特定地域を同和地区であると適示するとともに、当該地区の住民への差別を助長させるような内容が書き込まれている旨、法務局に情報提供がされた事案である。法務局で調査した結果、当該書込は、特定地域の地域住民に対して、不当な差別的な取り扱いをすることを助長又は誘発するおそれがあり、人権擁護上問題があると認められたため、法務局からサイト管理者に対して削除要請を行ったところ、当該書込は削除されるに至った。」(措置:「要請」)

大阪高裁で「ネットの電話帳」裁判、鳥取ループは敗訴!

阪高裁が「違法」と判決!鳥取ループ・Mは敗訴!

2017年11月16日、「ネットの電話帳」に、名前・住所・電話番号などが掲載されていることに対して、京都市内に在住する原告がプライバシー侵害を訴えた裁判で、大阪高裁は原告の訴えを認め、サイト運営者の鳥取ループのMに対して原告の個人情報の削除と5万5千円の損害賠償を命じました。

また、裁判中「特設サイト」に原告の氏名や住所・電話番号・郵便番号が掲載された裁判資料のネット公開についても、削除命令と5万5千円の損害賠償を命じました。

 「ネットの電話帳」(旧「住所でポン」)って?

 

「ネットの電話帳」は、鳥取ループことMが、NTTの電話帳(ハローページ)に掲載されている個人情報(名前・住所・電話番号)を「すでに公開されている情報」だからと二次利用し、ネット上で公開し、全国の電話帳の情報を一つにまとめ、住所順に加工し、ネット公開しているサイト(アプリ)です。

このサイトが利用され「解放同盟員人物一覧」が作成されているといわれており、現在でもコピーサイトにおいて運動団体の役員や同盟員などの自宅住所や電話番号などが次々とネット公開されている元になっています。その意味では「全国部落調査」復刻版裁判にとっても重要な判決だと思います。

 訴訟資料の公開(原告の名前・住所・電話番号をネットに晒す)

 

 また裁判中、被告のMは、特設サイトを作り、原告の氏名・自宅住所・電話番号・郵便番号等が掲載された訴訟資料をネット公開してきました。そのため、裁判での原告の陳述書の提出も公開される恐れが強く、断念せざるえない状況なども起きていました。

一審の京都地裁の判決では、訴訟資料のネット掲載は住所・電話番号は不許可として原告の氏名のみは掲載を認めました。しかし、2審の大阪高裁では、原告の氏名も掲載を不許可としました。

これは「復刻版」裁判でも同様の行為をおこなっており、出版禁止・サイト掲載禁止の仮処分を求めた原告らの住所や本籍地等を、示現社のブログで公開してきた行為と同じです。

訴訟資料に掲載されている個人情報(名前や住所等)を「本人同意」なくネット掲載することはダメであるという高裁判決が出た意義は、「復刻版」裁判にとっても大きな意味を持ちます。

★判決のポイント(争点と判決)

1,個人情報(氏名・住所・電話番号)はプライバシー権に該当する!

「氏名,住所及び電話番号などの個人を識別するための情報は,本来一定範囲の他者に開示することが予定された単純な情報であっても,本人が,自己が欲しない他者にみだりにこれを開示されたくない情報であると認められる以上,プライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきである」(最高裁判所平成15年9月12日第二小法廷判決・民集57巻8号973頁参照)。

 

 ①紙媒体とネット公開は違う!

すでに電話帳に掲載されている(公開)されている個人情報(氏名・住所・電話番号)だからという理由で、ネット上に掲載することは許されない。

判決では「不特定多数の者からのアクセスが容易になり、生活の平穏について不安を抱く者がいることは否定できない。」「本人が、自己が欲しない他者にみだりにこれを公開されたくない情報であると認められる」として、プライバシーの侵害に該当すると判断しました。この判例をもとにすれば、「解放同盟員人物一覧」でも同様の事が言えます。

 

②掲載承諾は必要!

被告Mは、すでにハローページに掲載されている情報であり、公開された情報を自分が掲載しているだけで問題ないと主張しています。

しかし、判決では「特定の相手方や開示方法を指定した情報開示の同意が、他の者や他の開示方法に対する同意ないし承諾と同視できるとは考えられない」としました。

つまり、原告はNTTのハローページで「紙媒体での情報の開示(しかも、配布先は原則として掲載地域に限定されている。)に対して同意ないし承認」したにすぎません。公開されている情報だから無断でネット掲載してもいいという事ではないということです。

しかも、「インターネットに掲載された情報の複製は極めて容易であるため、いったんインターネットで情報を公開してしまうと、情報が容易に拡散し、いったん拡散してしまった情報の削除は事実上不可能となってしまうことから、紙媒体を用い、配布先が基本的に掲載地域に限定されているハローページヘの掲載とは,著しく異なるものである。」と指摘しています。

つまり、すでに書籍や紙媒体で個人情報が掲載(公開)されていることをもって、ネット上への掲載を許可したことにはならないということです。しかも、原告本人はネット掲載を「不同意ないし不承諾の意思を明らかにしている。」からおなおさらです。

上記の理由から、「ネットの電話帳」に本人の了解なく、原告の名前・住所・電話番号の個人情報を掲載したことは「違法である」と判断されました。

 ★被告Mの反論を裁判所は却下

①「プライバシーは憲法上の権利であり私人間に直接適用されることはない」

裁判所⇒適用される。「私人間においてプライバシーを法的利益とする人格権侵害を理由として民法709条の不法行為」等が成立する。

 

②「電話帳は個人情報保護法の規制対象の除外だから、(自分の行為は)違法ではない」

裁判所⇒「法の規制対象外にあたることをもって、直ちに当該行為(ネット掲載)に違法性がないということはできない」

 

③「全国の図書館等で閲覧が可能だから公知の事実で、プライバシー情報に該当しない」

裁判所⇒「情報の内容が同じであっても、ハローページは、紙媒体を用いたもので、配布先が原則として掲載地域に限定」されている。ハローページへの掲載をもって「その情報が公知の事実であると評価することはできない。」

 

④「ネットの電話帳は、災害時の被災者の安否確認等で活用され、社会的に有用性が高い」


裁判所⇒「個人の氏名、住所及び電話番号といった公共の利害に直結しない事実を整序し、検索可能にして掲載したというもの」「表現の自由により保護されるということはできない」

 

鳥取ループ・M、またも敗訴! サイト削除の仮処分決定、東京高裁も支持

東京高裁は9月28日、サイト削除(同和地区WIKI)の仮処分決定に対する異議審決定を支持する決定を下し、鳥取ループ・Mの抗告を棄却しました。

今後は、Mが今回の決定に対して許可抗告・許可抗告をしており、その結論待ちになります。(抗告が棄却されたら、サイト削除も敗訴が確定)

『復刻版・全国部落調査』出版禁止の仮処分決定についてはすでに9月4日、東京高裁がMの許可抗告を棄却しています。

今回の高裁決定では、解放同盟の業務遂行権の侵害は認められないという課題も残りました。

しかし、東京高裁でもサイト削除の仮処分決定が支持されたことについては、今後の本訴にとっても、大きな意味があります。

本訴は東京地裁で審理継続中で、来年の夏頃が一つの節目と言われています。

不動産仮差押については7/11、横浜地裁相模原支部がMの抗告を棄却し、現在、高裁で審議中。

この間の全ての訴訟で裁判所は、示現舎の行為は権利侵害と認定していることは、みなさんと確認しておきたいです。

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鳥取ループ・示現舎、Mのマンション差押え~決定は妥当!との判決~

「全国部落調査」復刻版出版事件では、現在、鳥取ループ・示現舎のMの自宅マンションは、仮差押えとなっています。

損害賠償請求で支払えない場合のために、マンションを差し押さえているということ。

この決定を不服だと、Mは異議申立をしていたが2017年7月11日、横浜地裁相模原支部は、Mの申立を棄却し、マンションの仮差押えの決定を支持しました。

判決の全文はこちらから

不動産仮差押命令異議申立に対する横浜地裁相模原支部の決定 | 「全国部落調査」復刻版 出版差し止め事件裁判

争点(判決)のポイント

部落の地名掲載について(解放運動の基本スタンス)

鳥取ループ・示現舎は、「解放同盟や行政などは自分たちの機関誌や書籍などには地区名を書いている。なぜ、私たちが同じように部落の地区名を掲載したり、部落地名総鑑を出版・ネット公開してはいけないのか」と、主張している。

まず、前提として「部落地名総鑑」は政府も認めた差別図書だからダメ!その上で、

ポイント①
「誰が作成したか」でなく、「何の目的で、どう使うのか」が問われている
。 

 

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『結婚差別の社会学』 齋藤直子(勁草書房、2017年)を読んで

「私は差別しない。でも親戚が・・・。世間が・・・」、結婚差別をする親たちの常套句だ。反対するのが親であれば、説得する対象が明確であり、対応も考えられる。

しかし、親戚やいとこの将来の架空のパートナー・親族まで、持ち出されて反対されてしまうと、カップルは説得が困難になる。

また、「私は差別してない」という親を、差別者呼ばわりすることもできなくなる。こうやって、差別への抗議が無効化され、カップルは差別を理由に反論できなくなり、「人柄」や「熱意」で勝負せざるを得なくなる。

運良く「人柄」や「熱意」が伝わり、「部落民だけど、この人は違う」と「例外化」され、結婚が容認されても、親の差別・忌避意識は変わってはいない。

結婚を認める代わりに条件がつけられる。

部落民ということは親戚には言うな」「部落には住むな」「子どもは産むな」といわれる。

本書ではこのような結婚差別のケースも多く取り上げられている。

『結婚差別の社会学』を読み終えたとき、これまで私自身が出会ってきた、たくさんの人たちの顔が浮かんできた。

自分の恋愛差別・結婚後差別のことを思いだし、ともに憤り、悲しみ、共感しながら本書を読みすすめた。

なぜなのか。この本では、聞き取り調査という手法を使い、数字では表すことが出来ない、生身の人間の声、差別の現実、心の奥底にある声をひろいあげている。

今も続く結婚差別のプロセスの中を生きる人たちの現実を、実証的に分析しているからだ。

私はこれまで結婚差別に関する多くの体験談を聞き、書籍や手記も読んできた。結婚差別に関する各地の実態調査や意識調査の結果も見てきた。

でも、それらの結婚差別をめぐるプロセス自体を分析し、結婚差別問題の解決のための研究がこれまで、ほとんどなかった。

この本は、学術書で終わらせず、結婚差別を受けた当事者、支援者にたいして、その解決に向けて少しでも役立つことを意識して書かれている。

著者の齋藤直子さんの研究者としての立ち位置、聞き取りを通して、かかわった目の前の人たちに対する思いが、すごく伝わってくる本である。ぜひ、多くの人に読んでもらいたい。

www.keisoshobo.co.jp