部落差別は、今 ~TUBAME-JIROのブログ~

当事者の声、マイノリティの視点、差別の現実を踏まえた情報発信をしています。

第7話「違反通報とポジティブ情報の発信」~ネット社会と部落差別⑦~

ネット差別に対して、個人でもやれることがある。

(1)違反通報

 差別投稿を見つけた場合は、できるだけ「違反通報」を行うことも大事である。TwitterYouTubeなどの大手のSNSは、差別や人権侵害に対して「通報」フォームが設けられている。通報が多いほど、担当者の目にもとまりやすくなる。

 2018年春、「ネトウヨ春のBAN祭り」と称し、ネット上のヘイト動画に対して、大量の違反通報が行われた。その結果、多くのヘイトスピーチ動画が削除された。また、ヘイトサイトに掲載されている広告主に通報し、企業が広告配信を停止しはじめる動きも起きている。

  現実社会では、殺人などの犯罪を目撃したら警察に通報する。火事を発見したら消防車を呼ぶ。ネット空間でも同様である。差別的書き込みを目撃したら放置せずに、しっかりと通報し、対応を迫ることが大事である。

差別投稿・デマ情報が放置されることで、どんどん環境が悪化していく。印象操作・デマの拡散が広がっていく。差別投稿は犯罪という意識をもち、通報、除去させていく取り組みを、誰もが当然のこととして、行えるようになることが大事である。

 

f:id:TUBAME-JIRO:20190502123441j:plain

 

(2)「カウンター投稿」と「デマ」の否定

差別投稿や質問サイトに、積極的にカウンター投稿をしていくことも重要である。ネット上の差別情報を放置することで新たな差別と偏見が拡散されていく。できるだけ多くの個人がカウンター投稿や情報発信することが重要である。

Yahoo! 知恵袋」の部落問題についての質問は同じ内容も多い。回答にそなえて、基本となるしっかりしたテンプレート原稿を作成しておく取り組みなども必要だ。

デマは「本人がデマであると知るまでは真実であり、事実である」ため、デマ情報に対してははっきり否定し、正しい情報を提示する。デマや偏見情報をネット上で無視し続けることは、結果として差別・偏見を助長し続けることになる。デマを否定する投稿が重要である。

そして、ネット上に蔓延する部落問題のネガティブな情報をはるかに凌駕するほど、ポジティブな情報をどんどん発信していくことが求められている。

 

(3)SNSを活用した情報発信、教育・啓発

部落差別を解消するための「教育・啓発」(「部落差別解消推進法」第5条)にとっても、ネット上での情報発信は非常に重要であり、自治体や各種団体、個人などがネット上での情報発信に積極的に取り組む必要がある。

まずは、若者たちや学生、部落問題を知らない人、もっと学びたいと関心を持ってくれた人たちが、部落問題について、学べる総合情報サイトの作成が必須である。

部落史や芸能・文化、音楽、解放運動史、同和行政、同和教育、差別事件、様々な切り口で動画や写真、マンガなどを使って誰もが気軽に学べるサイトが必要である。

「ネットはデマや差別的サイトも多いので、どのサイトならちゃんと学べますか」などの質問を私もよく受けるが、自信を持ってお勧めできるサイトが少ないために、困ってしまう。

すでに、認定NPO法人ニューメディア人権機構のホームページ「ふらっと」などがあるが、ネット上では部落問題のサイト、ポジティブ情報の発信が決定的に不足している。

ネット対策、メディア戦略は部落差別解消にとって非常に重要であり、行政や運動団体・研究機関などが予算と人員を配置し、総力を挙げた取り組みを進める必要がある。

たとえば、ネット版『部落問題・人権辞典』の作成と無料公開、ウィキペディア「部落問題」関連項目への積極的な投稿、部落問題の総合サイト・ニュースサイトの作成、SNSを活用した情報発信などは、すぐにでも取りかかれる。

YouTubeなどを利用して、動画でのCMや啓発動画を募集するなどしてみてはどうだろうか。すでに行政や教育委員会で人権ポスターや人権フォトコンテストなどを実施している。同様に動画サイトでの「部落差別解消推進法」の周知など、ネットを使った様々な取り組みも検討していく必要がある。

 また、教育委員会や人権教育研究協議会などが、部落問題や各人権課題を学ぶ際に「おすすめサイト」のリストなどを作成し、紹介するということも求められている。

 

(4)ネットを活かした反差別・人権運動の展開

    個人においても違反通報やカウンター投稿、ネット上での正しい情報発信などの取り組みを積極的に行っていくことも重要である。2011年に開設された「BURAKUHERITAGE」は、東京や大阪の部落出身者の若者や研究者などの有志が立ち上げたサイトである。個々人の体験や思いを軸に、部落に関わる多様な情報発信をしている。イベントや学習会なども開催し、反差別の緩やかなつながりを広げている。

また、若手の活動家や研究者などの有志が、前述した「ABDARC」を立ち上げ、『全国部落調査・復刻版』裁判の支援サイトを開設し、TwitterFacebookなどのSNSを活用して情報発信し、イベントや学習会を開催している。サイトには、若者たちにわかりやすく裁判情報や部落問題の基礎などを学べるコンテンツが作られている。部落問題や裁判に関するQ&A、お勧めの本、裁判用語や傍聴日記など、ネットを活かした新しいスタイルの部落解放運動が展開されている。

ABDARCは、部落出身の当事者だけでなく、反ヘイトスピーチのカウンターやLGBT、障害者差別、反貧困、反原発、環境問題などに取り組む多様な人たちが集まっているのが特徴だ。私もABDARCのメンバーとして関わっている。

また、私も個人的にSNSなどを通して反差別の情報発信をしている。差別の現実や部落問題についての情報発信をすることで、部落問題について関心を持ってくれたり、裁判を支援してくれる仲間も増えてきた。ネット上での新たな反差別のネットワークが広がっていることを実感している。

ネットが差別を強化している状況がある一方で、差別をなくしていく大きな武器にもなる。差別的書き込みへのカウンターや差別記事投稿者をブロックして集中包囲することもできる。インターネットを基盤にしている差別者に対しては、それなりの闘い方もある。ネットのマイナス面だけでなく、プラス面を活用し、部落差別や人権問題の解決に向けて取り組んでいきたい。

f:id:TUBAME-JIRO:20190502125134j:plain

2017年6月、ABDARCのイベントが上智大学で行われ、学生や多くの人が参加。

最後は、やっぱり人権・同和教育が大事!

最後に、ネット対策はあくまでも「対策」であり、やはり現実社会での人権教育、部落問題学習が大切である。今後、デジタル・メディアリテラシー教育としての人権学習という視点も重要である。

「寝た子を起こすな」論はもう通用しない。「寝た子はネットで起こされる」時代になった。子どもたちや若者がネット上の差別的情報を見たとしても、「だから、どうしたんや!」と言える力、差別や偏見・デマ情報を鵜呑みにしない力をつける必要がある。そのために、ネット対策だけでなく、最低限の部落問題学習をどの学校でも実施する必要がある。

近畿大学の学生を対象にした意識調査では、「部落問題の学習経験がない・覚えていない」が2009年は2割だったが、2015年は4割であった。全国的に同和教育、部落問題学習が後退している。また、関西圏の大学生を対象にした調査においても、「部落出身の知人・友人が、いない・わからない」が85%にのぼる。学生や若者にとって部落や部落出身者は抽象的な「記号」となり、リアリティがなくなっている。

   その意味では、人権・部落問題学習においては歴史だけなく、部落差別の現実や当事者の話を聞くなど「顔の見える部落問題学習」「当事者との出会い学習」などが重要になってくる。

    部落差別解消推進法の第5条には「教育・啓発の充実」が明記されている。学校や地域、職場などあらゆる場において部落差別をなくするための学習機会を保障することによって、今日に厳然する部落差別を撤廃していくことが基本であることを確認しておきたい。