部落差別は、今 ~TUBAME-JIROのブログ~

当事者の声、マイノリティの視点、差別の現実を踏まえた情報発信をしています。

第4話「部落地名総鑑」公開、「晒し差別」の被害~ネット社会と部落差別④~


(1)
地域や職場では

部落差別の克服に向けて、行政や教育現場、企業や宗教界などが長年にわたって積み上げてきた取り組みを、インターネットの便利な機能を悪用した鳥取ループ・示現舎は、一瞬で破壊してしまった。

鳥取ループ・示現舎は、「部落地名総鑑を公開しても深刻な差別なんか起きない」と主張している。

しかし、すでにネット上では「どこが部落か」「部落出身者かどうか」を調べるためにウエブ版『復刻 全国部落調査』や『同和地区wiki』が参照され、結婚相手の身元調査や不動産取引における土地差別調査(同和地区か否かの調査)、行政等への同和地区問い合わせ事件も起きている。

鳥取県内の町役場では、ネット版『復刻 全国部落調査』を見た人物から同和地区かどうかの問い合わせ電話がかかってきている。

電話の主は、自分の娘の結婚相手がその町の出身で、「ネットで調べたら同和地区一覧に出ている地名なので、本当にこの地区は同和地区かどうか教えて欲しい」と問い合わせてきた。

【具体例】「YahOO!知恵袋」より(BA=ベストアンサー)

質問者A「大阪市○○(地名)は被差別部落の地域なのでしょうか?」(2017/5/17)

BA→「同和地区.COM(リンク先アドレス)……詳しくはそちらに照らし合わせてご判断下さい」

 

質問タイトル「同和地区について」(2017/12/26)

質問者B「たまたま嫁ぎ先の姓をネットで検索していたら〇〇県同和地区WIKIというWikipediaに、夫の実家と姓が同和地区であると書かれていました。……夫の実家がほんとに同和地区であるか調べる方法はありますか?」

 

質問タイトル「部落地名総鑑(ネット版)の正確度/信葱性に関して」(2017/8/4)

質問「私の出身地を上司に伝えたところ、数日後に『被差別部落だね。ご愁傷様』と言われ驚愕しました。何故そう思うか確認したところ『インターネット版の部落地名総鑑や同和地区wikiに載っていたから』とのこと……。」 

 

 滋賀県内のシルバー人材センターでは2017年3月、男性が喫茶コーナーに県内の同和地区一覧リストを置いて、自由に持ち帰れるよう配布していた。

配布資料には「同和地区WIKI」の情報が利用され、滋賀県内の同和地区の住所一覧(市町村別、地区名、戸数、人口)などが書かれていた。また、配布用資料には、県内の同和地区情報だけなく、同和地区出身者や在日コリアンの有名人など100名以上の個人名がリスト化されていた。 

(2)学校現場への影響

ネット上には鳥取ループ・示現舎が拡散した『同和地区wiki』のコピーサイト、類似サイトが多数存在している。これらのサイトは、「部落」「同和」で検索をするとアクセス数が多いために、検索画面の上位に表示される。

スマホを持つ子どもたちが、ネットで部落問題について知ろうとすれば、差別的情報を真っ先に閲覧することになる。

ある中学校では、子どもたちが興味本位で地元の部落を調べ、学校で部落出身者暴きをしていた事件も起きるなど、すでに教育現場では、ネット版「部落地名総鑑」を利用した問題も各地で起きている。

関西のある大学では、学生がネット上の「部落地名総鑑」「部落人名総鑑」を利用して、自分や友人、恋人などが部落出身でないかを調べ、差別的なレポートを提出していた。他の大学でも同様のケースが報告されている。

(3) 解放同盟や個人への差別投書や攻撃

 2016年2月、福岡県では解放同盟筑後地区協議会に差別ハガキが送られてきた。文面には「インターネット版部落地名総鑑を閲覧しておりましたら、久留米市〇〇町〇〇の地名が掲載されていませんでした。これは不当な差別だと存じます」と書かれた上で、その地区名を追加するように求める内容であった。

東京都では2017年7月、解放同盟荒川支部・墨田支部「エタ ヒニン ヨツの情報保持者様」などと書かれた差別投書やハガキが連続して送られる事件が起きている。手紙には鳥取ループのサイトには不正確な箇所がある」と書かれていた。投書の主は、鳥取ループのネット版『部落地名総鑑』を見て、「部落の正確な所在地をMに知らせて掲載させ、公開させろ」と主張していたのである。

刃物入りの差別投書が個人宅へ

2017年3月から5月にかけて、解放同盟事務所や個人の自宅などへ差別文書と共に、ナイフやアイスピックを送りつける差別事件が連続9件発生している。解放同盟三重県連や大阪府連、中央本部大阪事務所、組坂中央執行委員長の自宅などに送られてきた。

組坂委員長の自宅に届いた差別投書は、開封時に手が切れるようにカッターの刃が2枚、封筒の裏側にテープでとめられており、組坂委員長は手を負傷した。 

  

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組坂委員長の自宅に届いた差別投書。開封時に負傷するようにカッターの刃がテープで留められて負傷した。

4) 裁判支援者に対する嫌がらせや誹謗中傷、個人攻撃

この間、裁判の支援者や個人、鳥取ループ・示現社を批判する個人や団体などがターゲットにされ、匿名の何者かによってその個人情報が次々とネット上に晒され、個人攻撃が行われ、二次被害も生じている。

2017年に「全国部落調査・復刻版事件」の裁判を応援しようと、若手の研究者や個人などが「ABDARC(アブダーク)」(Anti-Buraku Discrimination Action Resource Center)という裁判支援サイトを立ち上げ、イベントが行われた。

すぐに「ABDARC関係者人物一覧」というサイトが作られ、イベントでのパネラーや支援者、スタッフの個人情報が掲載され、デマや歪曲記事、誹謗中傷や嫌がらせの記事が掲載された。なかには、自宅住所や電話番号、顔写真まで掲載されている仲間もいる。

ネット上での名誉毀損に関する民事裁判では、裁判期間中にさらなる二次被害が生じる危険性もある。裁判では提訴した時点での被害について争われ、裁判中に生じたその他の権利侵害については、損害賠償の対象にならない。

現状では、ネット人権侵害の被害者が、裁判を起こし勝訴しても損害賠償額も少なく、裁判における二次被害が大きいため、民事訴訟を起こす人は少ない。だからこそ、国による人権侵害救済機関の設置が求められている。

 

(5) 自宅に非通知電話、差別ハガキが

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正月に川口宅に届いた差別ハガキ

私自身も『全国部落調査』復刻版出版事件について講演やイベントなどでも鳥取ループらの行為を批判していた。すぐに鳥取ループからもブログやツイッターなどで名指しで記事が書かれるようになっていた。2016年の秋頃から、私の自宅に非通知の無言電話が掛かってくるようになっていた。

2017年の正月、私の自宅に差別ハガキ(年賀状)が送られてきた。表には、私の自宅住所と名前が書かれ、差出人は不明。年賀状であるために消印はなかった。裏面に手書きで「エタ死ね」と書かれていた。

小学5年生になる子どもが第一発見者だった。それが何より辛く、胸が締めつけられる思いをした。子どもが不安げな顔をして、差別ハガキを私に見せた。その文字を見た瞬間、私は頭が真っ白になり、心臓を刃物でえぐられる痛みがした。

「パパ、死ねって書かれているけど、大丈夫なん?殺されない?」

と心配する子どもに対して、

「大丈夫だからね」と答えるのが精一杯だった。

そして、「エタって、どういう事なん?」と聞かれた。

差別ハガキを手にした娘を前に、エタの意味を説明するのは、本当にしんどかった。

どこで自宅住所が分かったのか? 私の名前をネットで検索すると、いくつかサイトに自宅住所と電話番号が掲載されていた。その情報を元に、何者かが差別ハガキを送りつけた可能性があった。

すぐに、サイトにあげられている自宅住所の削除を求め、法務局に相談に行った。差別ハガキに利用されたネット上の個人情報、類似犯による二次被害の防止を法務局に訴えた。

その後、多くの人たちがサイトに削除要請・違反通報をした結果、削除された。しかし、一度ネット上に掲載された情報を完全に消去することは難しく、現在は別のサイトに掲載されている状況が続いている。

 

★川口泰司「ネット社会と部落差別の現実」(『部落解放研究209号』、2018年11月)より