部落差別は、今 ~TUBAME-JIROのブログ~

当事者の声、マイノリティの視点、差別の現実を踏まえた情報発信をしています。

どうする?人権教育~「差別に抗する教育の創造に向けて」~

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先日、大阪で開催された「全国人権・同和教育研究大会」に参加し、阿久澤麻理子大阪市立大学)さんの講演を聞いた。

テーマは 「差別に抗する教育の創造に向けて~ヘイトに抗し、マイノリティのエンパワメントに向き合うこと~」の講演。

在特会ヘイトスピーチ鳥取ループのことを中心に、人権教育として、どう取り組んでいくのかという視点で問題提起が行われた。


1,「法期限後」をめぐる問題提起

◆若者の部落問題認識

はじめに「法期限後をめぐる問題提起」として、若者の部落問題認識の変化が提起された。近畿圏の大学生を対象として調査結果(2014年度、対象2867人、1・2回生が7割)。

7割の学生が部落問題についての学習経験がある。しかし、

部落出身の友人・知人」が「いない・わからない」87.4%

在日コリアンの友人・知人」が「いない・わらかない」56.5%

 

部落問題は学んで「知ってはいる」けど、「顔の見えるつながり」はない。つまり、多くの若者にとって、部落問題は、リアリティを感じることが出来ないまま、知識として「知っている」という状況。


【現在の部落問題学習の問題】

⇒出会いのない、リアリティのない学び
⇒知識はあっても、抽象的な認識

 

◆マイノリティの「エンパワメント」の視点から

また、部落の子どもたちの立場の自覚の問題も課題になっている。解放子ども会などの活動が激減。自覚していない部落の子ども・青年たちも多い。

だが学校は取り組まないので、社会的立場の自覚は「親次第」になっている。

人権教育の原則は「エンパワメント」。

マイノリティという立場性を持つ当事者の教育をどう構想するのか、学校も地域、運動団体に問われている。

 

2、「ヘイト」-差別扇動が提起すること

京都朝鮮学園に対する襲撃事件(⇒マイノリティがアイデンティティを顕現させれば、攻撃が自分に向くかもしれないという恐怖)、

徳島県教組襲撃事件(⇒当事者のアイデンティを攻撃し、「つながり」を奪う行為)

鳥取ループによる滋賀県への同和地区所在地情報の公開裁判、

④「同和地区wiki」(部落地名総鑑のネット公開)など、差別の現実が語られた。

 

特に【ヘイト行為が提起する問題】として、在特会桜井誠・元会長、鳥取ループ・示現舎の宮部・三品らは、全員30~40代。まさに、ロスジェネ世代。高校・大学等を出ても、就職氷河期。そして、同和教育をフルに受けた世代。

学校で同和教育を受けた世代が「自分たちの方がマイノリティだ」「自分たちの方がひどい状況だ」「やつらは特権を持っている」「自分たちは誰も知らない真実を知っている」と叫ぶ。

同和利権」「在日特権」と叫び、反差別教育の論理を逆手にとって、自論を主張。

それが同じ境遇の人たちなどに支持され、エスカレート。そしてネットの上で起きていることが、リアルでおきている民主主義を侵食している。

 

◆「インターネットとパワー」

ヘイト行為を主導しているのがロスジェネ世代の30~40代。

頑張っても保障されなかった世代。奪われた感覚の世代。

そこに、ネットの強大なパワーを使い、自分たちのことを発信。

いくら、まじめにがんばっても、国は自分たちを守ってくれなかった。

そこに「同和利権」「在日特権」「自分たちの方が差別されている」と叫ぶ。

 

古典的な人権概念が崩れてきている。
 彼らにとって「市民」は「権利の保持者」であり、「国家」は「市民の権利を実現する責務の保持者」という古典的人権モデルは崩壊している。新自由主義の中で「自己責任論」が叫ばれ、「国は自分たちを守ってくれない」ことを痛感してきたからだ。

 

逆に「市民」が「プロバイダー」から「サービス」を購入すれば、「表現の自由」という権利を思う存分に行使できる喜びを手に入れた。無限大ともいえる受け手に向けた情報発信ができる。

大きな組織や大学の研究者、マスコミと対等に自分たちの情報が発信できる。

「サービス」購入によって手にすることが巨大なパワーと自己を承認してくれる人たち。

人権保障をめぐる国家と市民の「社会契約」より、「商契約」の方が優位になってきている。

だからこそ、Twitteryoutubeなども、人権を保障する責務が問われている。

国連・人権教育10年は、第3段階にきている。

メディアと人権教育の段階。そこでは、マスコミに対する人権教育だけでなく、SNSを使って発信する個人も含めて、対象になっている。それは、ネット配信のパワーを持っているから。

 

【部落問題学習や人権教育の課題】

① 当事者との出会い学習

学校教育での部落問題学習で問題点であるリアリティの欠如記号化する「部落」「部落民をどう阻止するのか。

そのために、具体的な「誰か」に出会うことが重要。人権学習では、必ず「当事者」を招へいし、出会わせること。

そうすることで、部落問題が抽象的・記号の問題でなく、

「それは大切な誰かのこと」になる。

 

② 自分を語れることの重要性。
自己開示をして、受けとめてくれる集団つくりの重要性。

 

③ マイノリティのエンパワメント

解放子ども会の廃止、同和教育の後退により、社会的立場の自覚は、親にゆだねられている。どうしていくか。

そんな課題が、提起されました。

 

ヘイトスピーチ解消法」も「部落差別解消法」も、「教育・啓発」が重要な柱の一つ。知識だけでなく、しっかりと「ヘイト」に抗い、マイノリティのエンパワメントに向き合う人権教育が求められている。