部落差別の現実は、どうなっているのか?
日本共産党は、先日の参議院法務委員会で「部落差別解消法」の審議の時に、各地の意識調査の結果に対して有田議員から差別の現状認識を問われたとき、身元調査や結婚忌避をする回答があっても、現実はそんなに発生していない、だから調査結果自体の社会的な評価・信憑性を否定する発言をしました。
本当にそうのなだろうか?個人的な感覚でなく、この間の現実はどうか、考えてみたいです。
1、増えている同和地区の「問い合わせ」
①増えている行政への「問い合わせ」
都府県や市区町村役場、隣保館などへの同和地区の問い合わせは、年々増えています。
1995年~2015年まで、過去20年間で確認出来ただけでも207件(『あいつぐ差別事件』『解放新聞』等で確認)の差別問い合わせがありました。
1995年~2005年は計46件ですが、
2005年~2015年では計160件となっています。
この10年間で差別問合せ事件は3倍以上に増えています。
問い合わせ先の多くは、都府県や市区町村役場・教育委員会などの行政です。その他に隣保館、人権啓発センター、解放同盟都府県連、小学校などもあります。
世代としては20代~80代までの各年齢層であり、不動産会社・マンション開発業者・住宅会社などの社員も目立ちます。
②直接窓口にくるケースも2割ある
行政等への同和地区問い合わせの8割が電話です。
その多くが匿名または自称(〇〇市在住、偽名)で問い合わせをおこなっています。
なかには、直接、行政等の窓口まで来て、堂々と「同和地区はどこか」と問い合わせるケースもあります。
結婚相手の身元調査では、親子(母と娘)が役場を訪ね、
「結婚する相手が同和地区に在住しているのか知りたくて調査したい。結婚相手の戸籍を請求できるか」(大阪2006)という事件も起きています。
また、市役所に20代の女性が訪問し、「〇〇(名前)は、市内の部落に多い名字か」「調べる人が調べたら、部落の人かどうか特定できるか」(香川2011)など、結婚した相手が同和地区出身かどうか調べにきたケースもあります。
その他、直接窓口にくるケースで多いのが、不動産会社などの土地差別調査などです。
不動産会社の社員が市役所を訪問し、住宅地図を広げ、
「部落を地図上で示して欲しい」「表面上は示さないが、競売の情報として必要」(福岡2005)
「この地域に歴史的に部落が関係しているか、あるかないか教えて欲しい」(東京1995)
など、堂々と問い合わせている事件もあります。
また、建設業者が市役所に来て、
「営業所をS市に設立したい。市内に同和地区はあるか」(兵庫2010)との問い合わせ事件もあります。
(3)問い合わせ内容
過去20年間の問い合わせの内容(目的)の上位は下記の順になります。
1位,「同和地区の所在地情報」76件(37%)、
2位,「住宅・土地購入」56件(27%)、
3位,「結婚(交際)相手の身元調査」38件(18%)、
4位,「引越・転居」31件(15%)、
5位,「その他」(自分のルーツ等)6件(3%)です。
◆1位,同和地区の所在地情報
問い合わせで一番多いのは、「〇〇市の同和地区はどこか」「〇〇(地名)は同和地区かどうか教えて欲しい」など『同和地区の所在地』に関する問い合わせです。
これらは結婚や就職における身元調査、不動産取引・転居における土地差別調査など、どのようなケースでも利用される内容です。
【具体例】
①「自分の住んでいる地域に同和地区があるかどうか知りたい」「どこに聞いたら教えてもらえるのか」「自分は解放同盟とは関係ない」(福岡2015)
②「部落地区がわかる地図があるのか。同和地区の分かる地図か、それが分かるものはないか」(京都2013年)
③「〇〇市内に3つの部落があると聞いた。どこにあるのか教えてもらえないか」「どこで聞いたら分かるのか教えて欲しい」(香川2012)
④「〇〇町の△△というところは同和地区か」(滋賀2012)
⑤「自分が住んでいるところが同和地区かどうか知りたい」(奈良2009)
◆2位,不動産購入や引越先の物件
次に多いのが、『家や土地を購入』『引越・転居』の際に、その土地・物件が「同和地区かどうか」という問い合わせです。不動産取引において同和地区を忌避する市民の差別意識が具現化されたものです。
また、その市民の差別的ニーズに同調し、営業活動を行う不動産業者からの問い合わせも多いです。
【具体例】
①「この物件は同和地区の物件ですか」不動産業者(福岡2014)
②「〇〇市に転居を検討しているが、市内に同和地区はあるのか」(京都2013)
③「〇〇市内でマンションを探しているので同和地区を知りたい」(和歌山2012)
④「今度、娘が土地を買おうと思っているが、〇〇市に同和地区があったかどうか知りたい。△△川沿いにあったと聞いたことがあ る」(埼玉2011)
⑤「〇〇区内で部落だったところが、ここでわかるか」不動産業者、(東京2011)
◆3位,結婚(交際)相手の身元調査
次に、結婚相手の身元調査に関する問い合わせです。多くは親が子どもの結婚(交際)相手が、同和地区出身かどうかを確かめるために、身元調査をおこなっています。
【具体例】
①市役所に来庁、「息子の結婚相手の住所が、同和地区でないのか」(福岡2015)
②「今度、娘が結婚する相手が同和地区かどうか教えて欲しい」(高知2013)
③「いま付き合っている人がいる。どこが同和地区か教えてくれ」(和歌山2013)
④「結婚のことで、〇〇市△△番地は同和地区か」(長野2013)
⑤「〇〇市の△△が部落どうか教えて欲しい。娘の交際相手が・・」(兵庫2013)
⑥「結婚のことで伺いたい。〇〇に同和地区はあるのか?」(香川2012)
2、巧妙になっている問い合せ
行政などにストレートに同和地区の所在地などを聞いても、教えてくれないので、巧妙な手口で問合せをしてくるケースもあります。
(1)「解放同盟があるか?」
解放同盟の支部があるかどうかや、支部長の自宅を知りたいと同和地区の所在地を聞きだそうとするケースもあります。
【具体例】
①「若い頃、同和地区の団体の支部長に大変お世話になった。どうしても会ってお礼を言いたいので支部長の自宅を教えてくれ」と言う。団体の名前や支部長の名前は言わず、支部長の自宅の所在地を聞こうとする(埼玉2009)。
②解放同盟奈良県連の事務所に電話で、「〇〇(地名)には、部落解放同盟の支部があるんですか」「〇〇と□□(地名)と、どちらが活動しやすいですか?支部はありますか?」「部落があるか、ないかで答えてくれたらいい」(奈良2009)。
(2)「自分も部落出身」「自分のルーツが知りたい」
自分や家族が「部落出身かどうかを知りたい」という聞き方で問い合わせてくる。
【具体例】
①「私の生まれたところが部落かどうか調べて欲しい」(和歌山2014)
②「〇〇は同和地区か?」「身内がそうで・・・」(京都2011)
③「奈良の方でいわゆる部落といわれるところがあるのかどうか教えて欲しい。自分の家系はどうであったのか知りたい」(奈良2009)
④「息子の結婚相手が部落出身かどう知りたい」、差別身元調査であることを指摘すると、「自分も部落の人間だ」と偽り、聞きだそうとする。(山口2007)
(3)隣保館のある場所
隣保館の有無や所在地を尋ね、同和地区の所在地を聞きだそうとするケースもありま
【具体例】
①「〇〇というところに隣保館があるが、同和地区か」(福岡2013)す。
② 「〇〇市にある隣保館の場所を全て教えて欲しい。地域の名前だけでも教えて欲しい」理由を聞くと「結婚のため」と答える。(奈良2011)
③「県内の隣保館の一覧リストが欲しい」(山口2011)
④「市内の隣保館の名前を教えて欲しい。」「〇〇市営住宅は同和地区か?」(和歌山2010)
(4)公営住宅が「同和地区かどうか」
公営住宅の申込・入居に関して、その住宅が同和地区なのかどうかを聞くケース。
【具体例】
①町営住宅に関して、「そこは同和地区なのか」(和歌山2013)
② 「この入居募集団体一覧で同和地区はどこか?」(和歌山2011)
③「〇〇地区の住宅は同和対策事業の住宅か?」「結婚に関する調査」「どこへ聞けば教えてもらえるか。興信所か?」(長野2010)
④「市営住宅に申込みたいが、その建物がある場所は同和地区内か」(奈良2010)
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2002年3月末に同和対策事業に関わる特別措置法が終了した。
行政や学校でも「どこが部落か、誰が部落民か」が分かりにくくなった。
だから差別はなくったの?
No!
逆に同和地区問合せ事件が増えた!
部落があるから差別があるんじゃない。
結婚や引越などで部落を忌避する人たちがいるから、被差別部落になっている。
差別の原因は被差別者の存在にあるんじゃない。
同和地区問合せ事件は、そんな部落差別のあり方を考えさせられる事件。
参照:『本人通知制度ガイドブック(改訂版)』(2016年5月、部落解放同盟中央本部)より